1
どさっと006が投げ出すように置いた網袋を覗き込み、004はあからさまに顔をしかめた。
「おい、大人…言いたかないが…食えるのか、コレ?」
「贅沢言わないのコトよ!ワタシの腕でおいしい宇宙中華作るアルからして、心配いらないアル!」
「それは…僕たちはそれで十分ありがたいんだけど…」
言葉を濁す008に、006は大きくうなずいてみせた。
「だいじょぶ!料理は、老若男女を問わずおいしく食べられるもの作る、これワタシのモットーよ!」
「まあ…少なくとも、好き嫌いはなさそうだったよな、フランソワーズ」
「そうそう!何でも食べる聞き分けのよい子アルからして大丈夫!」
ぱたぱた、と軽い足音が近づいてくる。
同時に、少年の焦りを含んだ声。
「フランソワーズ!ダメだよ、外に出たら…!」
006の姿を見つけ、飛びつこうとする幼女を、風がさっとさらった。
「お、お帰り…006…ご苦労様」
「おお、ただいまアル009…フランソワーズ、いい子にしてたアルか?」
006は009の腕に抱かれた幼女の髪をそっと撫でてやった。
「006!手を洗ってからにしてくれよ!」
「何言うアルか、009?!」
「この星のものが全部僕たちに無害だと保証されてるわけじゃないんだぞ!」
「それは…そうアルけど…」
憮然としながらも、006は手をひっこめ、同時に首を傾げた。
「フランソワーズ、その服どうしたアルか〜?」
「あ、可愛いだろ?…タマラがくれたんだ」
「…タマラって…あの王女様アルかね?」
「うん…やっとちゃんとした服が着られてよかった…ね、フランソワーズ?」
「ちゃんとした服…ねえ…」
008がぼんやりつぶやいた。
「それは、可愛い…ってことは認めるけど」
2
009は、将来、絶対にコドモを甘やかし倒すダメ親父になる。
仲間達は半ばウンザリしながらそう確信していた。
もちろん、それは特に新しい発見というわけでなく、出逢ってから今までの彼の言動を見ていれば、その結論を出すのはたやすいことだったのかもしれないが。
戦いに明け暮れていたサイボーグ戦士たちには、そんなことを考えてみるという発想そのものがなかったわけで。
と言っても、彼が今こよなく愛し…というか甘やかしている彼女は、彼のコドモではない。
なら、何なのかというと…恋人なのだろう、たぶん。
たぶん、としか言いようがなかった。
それを確かめるすべは、少なくとも今はない。
何が起きたのかは、誰にも説明できなかった。サバ少年にも。
説明できるとすれば001だが、彼は今敵の手の中にあり、救出を待っている状態で。
異変は、スターゲートを通過したときに起きた…としか考えられない。
スターゲートに突入するとき、003は確かにナビゲーターをしていたのだから。
スターゲートを出た瞬間、敵襲にあった。
夢中で戦い、何とか敵を撃破したとき…サイボーグたちは初めて気づいた。
003の座っていた席に、幼女がうずくまっていた。
亜麻色の髪…大きな青い瞳。
幼いながら、気品のある整った顔立ちは、003そのものだった。
3
「いただきます」
全員が声を合わせる。
009の膝の上で、フランソワーズも目を閉じて頭をちょこん、と下げた。
食卓には、張々湖が穫ってきた「地魚」の蒸し物がメインとしてのっている。
009は白い身を注意深く取り上げ、ゆっくり口に含んだ。
「009、大丈夫アル…!毒味…いや、味見はしたアルね!」
「わかってるよ、大人」
苦笑しながら言うものの、目は笑っていない。
…が、やがて、009は優しくフランソワーズに話しかけた。
「食べてみるかい…?」
取り分けた身の中でも柔らかそうなところを慎重に選んで、スプーンで口元に持っていくと、フランソワーズは素直に口をあけた。
「…おいしい?」
答の代わりに、にっこり笑い、嬉しそうに体を揺すってみせる。
サイボーグたちは一斉に肩の力を抜いた。
と、とにかく…可愛いことは認める。認めざるを得ない。
なんなんだ、この可愛さはっ!
008は大きなため息をついた。
他の仲間たちも同じ思いでいるに違いない。
タマラに贈られたという服は、ファンタリオン星の王族の子供が纏うものらしい。
象牙色の、長いゆったりしたドレスだった。
飾りはついていないが、柔らかく光沢のある生地はそれこそ天使の羽のようで。
これは…仕方ない。009でなくても。
何がなんだかわからなくなるくらい可愛いもんな…
フランソワーズは、言葉を話すことができなかった。
年齢のせいなのか、それとも異変によるものなのかはわからなかったが。
話ができないのでわからないのだが、たぶん、記憶もなくしている。
ただ、彼女はとても人なつこい子供で…特に009によく懐いた。
彼の後を慕って歩き、寝るときも一緒のベッド。
もちろん、というかなんというか…風呂も彼と一緒だ。
おまえ変な気起こすなよ、と思わず言ってしまった002はかなりヒドイ目にあったらしい。
まぁ、009だからな、変な気なんて起こしようがない。
それにしても。
彼女の「恋人」らしくふるまうのに、気が遠くなるくらいの時間をかけた…というか、まだ全然それらしくなっていないんじゃないかっていう彼が、「父親」らしくふるまうようになるのに、3日とかからなかった…のはどういうわけなんだろう。
日本人はわからない。
…ってか、わからないのは009なのかもしれないけど。
008は軽く咳払いをしてから、フランソワーズの頬にくっついている飯粒を拾っては自分の口に運んでいる009に話しかけた。
「009…イシュメールの整備は、ほとんど終っている。いつ発つか、そろそろ考えた方がいい」
「…わかった。明日、タマラのところに行くから、そのとき話してみる」
「明日…って、また行くのか?」
やや呆れたように聞く002に、009はうん、と軽く答え、フランソワーズの口元を丁寧に拭いてやった。
「もうごちそうさま、でいいかい、フランソワーズ?」
言いながら手を合わせてみせるジョーをじっと見つめ、フランソワーズも小さい手をぎこちなく合わせた。
「よし、おりこうだったね…じゃ、お風呂に入ろう」
お風呂に入ろう…だって。
009が仲間達の面前で003にこんなことを言う日がくるなんて、誰が想像しただろう?
「なぁ、008…?」
「…え?」
ぼんやり二人の後ろ姿を見ていた008は、瞬きした。
002が声を潜めて言う。
「どうなってるんだ、あいつ…?ここんとこ、あの王女様のところに通い詰めじゃないか…!」
「…そう…だね…」
008は探るように004を見た。
004は軽く肩をすくめた。
「どうなってようが…俺たちにはどうしようもないだろう」
「それは…そうだけど」
「…確かに心配は心配アル…003があんなことになって、009、ちょっとフツウじゃなくなってるかもしれないアルからねえ…」
「…フツウじゃ…ないって…?」
不安そうな声をあげたサバに、005は静かに言った。
「心配、いらない…009、サバとの約束、守る…何が、あっても」
4
「009…!」
薄紫の髪と、ドレスをふんわりなびかせ、ファンタリオン星の王女は柔らかい笑顔で彼を迎えると、彼の腕の中のフランソワーズの髪を優しく撫でた。
「お待ちしておりました…まあ…可愛らしい…よく似合っていますわ」
「うん…ありがとう、タマラ…あの」
「ええ、お待ちになって」
タマラは振り返り、何か合図を送った。
次の瞬間、美しい白い尾を躍らせて、愛らしい小動物が弾むように駆けてきた。
009は、目を輝かせたフランソワーズに微笑み、彼女をそっと地面に下ろした。
「ピララ…お友達が来たわよ」
「ほら、フランソワーズ…」
ピララはフランソワーズの周りを嬉しそうに飛び回り、何度も軽くじゃれついた。
嬉しそうに声を上げながら、フランソワーズはピララをおいかけている。
「遠くに行くんじゃないよ、それに、階段に気をつけて、フランソワーズ…!」
「大丈夫ですわ、009…ピララは子供の相手がとても上手です」
「うん…そうみたいだね…すっかり夢中になって…ごめん、毎日…借りてしまって」
目を細めるようにしてフランソワーズの方を見ている009に、タマラは小さく息をついた。
「…009」
「…え?」
僅かに緊張した声音だった。
009はふと表情を引き締めてタマラを振り返った。
「あなたは、あの子を…ゾアとの戦いに連れていかれるおつもりなのですか?」
「…タマラ」
「もし…もし、できることなら…」
タマラは一瞬ためらったが、何かを振り切るように顔をあげ、009をまっすぐ見つめた。
「わたくしが、あの子の母親になることはできませんか…?そして…あなたと…一緒に、この星で…」
彼女が何を言おうとしているのか、咄嗟にわからず、009はまじまじとタマラを見つめた。
タマラは頬を紅潮させ、うつむくと…そのまま009の胸に顔を埋めるようにとりすがった。
「タ…タマラ……」
それは、つまり……でも。
何からどう説明していいのかわからない。
それ以前に、この状況をどうすればいいのか。
腕の中の王女は、見た目よりずっと華奢で、儚い少女で。
柔らかい体は、強く抱きしめたら折れてしまいそうだった。
心臓が破れるのではないかというほど速い鼓動が伝わり、絹糸のような髪が、ふわっと甘く香った。
「タマラ…僕は……え?」
不意に、何かが足にぶらさがったような感触があった。
驚いてタマラを離し、見下ろすと…
フランソワーズが009の右足にぴったり抱きついている。
そして、そのフランソワーズの背中には、ピララがしがみついていた。
「おいおいおいおいおい…何だ、あれは?」
こっそり009の後をつけてきた002と004は呆然と顔を見合わせていた。
009がタマラを抱き寄せるのを目撃し、だから言わんこっちゃない、心配していたとおり…と言いかけた矢先だった。
「…真似、してるんじゃないのか?」
「…真似?」
「よく見てみろ」
言われてみると。
009がタマラを両手で抱き寄せている立ち方と。
フランソワーズが009の足に抱きついている立ち方と。
似ているような感じもしないでもない。
「じゃ…あの犬もか?」
「猫なんじゃないか?」
…ピララは。
じーっとフランソワーズの背中にしがみついていた。
白い尾を右、左、とのんびり振りながら。
「修羅場に子供連れてく…ってのが、そもそも卑怯なんだよな、009のやつ…」
「…もういい」
004がウンザリしたように吐き捨て、くるっと回れ右した。
「…帰るぞ」
「ま、待てよ、004」
「つきあってられるか…!そもそも、こんなお節介自体が時間の無駄だった」
いくぞ、イシュメールのチェックだ…と、004は002を引きずるようにして歩き始めた。
5
王宮の中で。
長椅子に座り、009は膝の上のフランソワーズの髪をぼんやり撫でながら、うつむいていた。
フランソワーズは、隣にちょこんと座っているピララに手を伸ばしたり引っ込めたりして遊んでいる。
このままでは話ができない…と、何度かフランソワーズを離そうとしたのだけど…
どういうわけか、フランソワーズは009から離れようとしなかった。
「ごめん…いつもはもっと…聞き分けがいいんだけど」
「…いいえ…無理もありませんわ」
タマラは009の隣に座り、ほっそりした手を伸ばして、フランソワーズの髪に触れた。
「きっと…わかっているんでしょう…あなたが…大事なお父様が、何かを考えている…ということを」
「タマラ…僕は、この子の父親じゃないよ」
「…え?」
タマラは思わずフランソワーズの髪から手を引いた。
「どういう…こと…ですか?」
「…どういう…って…」
どう説明したらいいのかわからない。
「僕のコドモじゃない…けど…でも、この子は僕にとって、とても大切で…たぶん、コドモと同じくらいに」
「…009」
「君は…この子の母親に…なれない。君だけじゃない、誰も母親になんかなれないんだ…僕たち…僕…がいなければこの子はひとりぼっちになってしまう…そして、それは僕も同じ」
「あなたは…一人ではないわ…!わたくしは…」
「ありがとう、タマラ…でも」
009はぎゅっとフランソワーズを抱きしめた。
ピララに手が届かなくなったフランソワーズが、小さい声を上げてもがいた。
誰も、君の代わりはできない。わかってたはずじゃないか。
もし、君がこのままでも…ずっとこのままでも、僕は…
「わたくしには…わかりません、009…!そんなに大切なら…どうしてこの子を…!」
「僕は、戦わなければならない…そして僕は…この子を手放せない」
「…009」
「わかっただろう、タマラ…僕がこの子の父親じゃないって。こんなヒドイ父親は…いないよ、地球にも」
009はそっとフランソワーズを離し、床に下ろした。
途端に、ピララも床に飛び降り、フランソワーズにじゃれついた。
フランソワーズははしゃぎながら、ピララを追いかけ始めた。
「…僕たちは、ここに残らない。イシュメールで、ゾアを追う。」
フランソワーズをじっと見つめながら、009は言った。
彼の視線を追い、タマラは寂しい微笑を浮かべた。
「わたくし、わかっていましたのよ…あなたが、わたくしを毎日のようにたずねてくださる…本当のわけを」
「…え?」
「本当に…失礼な方ですわ、あなたは…でも、許してさし上げます。ピララも、あの子がとても好きですから」
ファンタリオン星の王女は立ち上がり、短くピララを呼んだ。
次の瞬間、腕に飛び込んできたピララを抱き、彼女は009に背を向けた。
6
まだあちこちで火がくすぶり、硝煙が立ちこめている。
こんな中で出発するのは心苦しかったが…イシュメールが無事であることを見せつけて、こちらに気を引けば、敵もファンタリオン星から目をそらすだろう、という009の考えに、全員が賛成した。
地上は徹底的に破壊されていた。
恐るべき戦力だった。
サイボーグたちには、なすすべもなく…それが彼らの心を重苦しくしていた。
「大丈夫アル!…イシュメールがあるアルね!」
006の明るい声に、008はふと顔を和らげ、うなずいた。
「…そうだね。それに、ここの人達は、ほとんど無事だったんだから…006と005のおかげだ」
「こんなに早く必要になるとは…思わなかったアルけどねえ…」
ファンタリオン星の住民は、006と005が急ごしらえしていた地下トンネルに逃げ込んでいた。
しかし…もう一度あんな爆撃があったら、今度こそ持ちこたえられないかもしれない。
「これ以上、この星に迷惑をかけるわけにはいかない…すぐ出発だ」
009の言葉に、仲間達は一斉にうなずいた。
「…009…どうか、ご無事で」
「…タマラ」
二人は見つめ合い、微笑みを交わした。
「いくぞ、みんな!」
「おう!」
「了解…!と…あれ?」
「…フランソワーズ!」
フランソワーズがピララと夢中でじゃれ合っている。
思わず微笑みながら、サイボーグたちはそれぞれ誓いを新たにしていた。
彼女を守り抜き、ゾアを倒す…と。
「フランソワーズ、行きましょう」
サバが駆け寄り、フランソワーズの手を引こうとした…が。
「…え?」
フランソワーズはサバの手を振り払った。
「フランソワーズ…!おいで…もう行かなくちゃいけないんだ」
009の声にも振り返らない。
ピララと追いかけっこを続けている。
たまりかねて、タマラが鋭くピララを呼んだ。
ピララは、くるっと振り向き、タマラの腕の中に飛び込んだ。
その後をフランソワーズが追う。
「フランソワーズ…!」
フランソワーズはタマラのドレスの裾を掴み、ピララに触ろうと、ぴょんぴょん跳びはねていた。
「ご、ごめん…タマラ…ほら、フランソワーズ!」
009が駆け寄り、フランソワーズを抱き上げた。
…が、彼女は大きく身をもがき、彼の腕から逃れようとした。
「フランソワーズ…!もう、行くんだから…!」
「ふ…ふ…ふぇええええええ〜〜んんん!!!!」
「フランソワーズ〜!」
フランソワーズは烈しく首を振り、泣きじゃくった。
どんなに宥めてもあやしても、泣きやまない。
困惑したタマラが、おそるおそる言った。
「フランソワーズ…ここに…ピララと一緒にいますか?」
「……」
フランソワーズはぴたっと泣きやんだ。
ジョーの腕から逃れ、とことこタマラに歩み寄り…
静かにしゃがんだタマラの腕の中のピララを優しくなで続けた。
「フランソワーズっ!!」
009の厳しい声に、サイボーグたちはぎくっと身をすくめた。
聞いたこともない声だった。
フランソワーズは聞こえないふりをしている…ようだった。
009はもう一度呼んだ。
「フランソワーズ!来るんだ!」
彼女は動かない。
頑なに、ピララを撫で続けている。
「あの…009…わたくしは…この子をお預かりしても…かまわない…ですが…」
「だめだ、そんなこと…っ!フランソワーズ、こっちにおいで!」
無視。
009は唇を噛み、フランソワーズの背中を睨んだ。
「…わかったよ、フランソワーズ…それじゃ、僕たちは行くよ…君はここに残るといい」
「……」
「僕たちは、無事に帰れるかどうかわからない…たぶん、帰れない…だから、迎えにはこれないよ。君は、ずっと一人でここにいるんだ…いいんだね?」
「…んなコト言っても、あんなコドモにわかるかよ…?」
「し…っ!聞かれたらヒドイ目にあうぞ」
002は慌てて007をつつき、黙らせた。
009はぎゅっと拳を握りしめ、フランソワーズに背を向けた。
おろおろする仲間達をうながし、イシュメールに乗り込む。
「…おい、009…」
「発進準備…!」
スクリーンに、外の景色が映る。
複雑な表情で見上げているタマラの足元で、フランソワーズはピララと追いかけっこを始めていた。
「おいおいおいおいおい…」
「カンベンしてくれよ〜!009、ヘンな意地張ってないで、連れてこいっ!」
「そうアル!少し泣くアルやろけど、すぐ諦めるね、コドモってそういうモノね…!」
「クリスタルエンジン、始動!」
「009〜っ!!!」
イシュメールの機体が烈しく振動を始めた。
辺りの木々がざわめき始める。
地球を出発するときのように、ファンタリオン星の人々の祈りをこめた眼差しが、彼らを包んでいた。
モニターから、どよめきと惜別の声が聞こえてくる。
そして。
サイボーグたちは、スクリーンを見上げ…固まった。
頬に涙を光らせ、大きく手を振るタマラの足元で。
ピララを抱いたフランソワーズが、無邪気に手を振っている。
「イシュメール、発進!!」
009が吼えるように叫び、消えた。
遠ざかる美しい星。
サイボーグたちはようやく安堵の息をついた。
いつ終るともしれない幼女の泣き声は、たしかに耳障りなものだったが。
006の言うとおり、そのうち諦めるに違いない。
009は、操縦席に座って身じろぎもせず、泣きわめくフランソワーズを抱きしめ、ひたすら前方を見据えていた。
「加速…したんだろ?無茶苦茶だよな、あいつ…?」
「あの服、燃えなかったのが不思議アルねえ」
「ファンタリオン星の王族の服だとか…言ってたよな?」
とにかく、その…
そう、戦いはこれからなのだった。
7
「きれいねえ…」
星空を見上げ、フランソワーズは吐息をもらした。
「この空の…どこかにあるのね、ボルテックスが…それに、ファンタリオン星…」
「…うん」
優しく抱き寄せられ、フランソワーズはいたずらっぽく笑いながら、ジョーを見上げた。
「きれいな…星だったんでしょう?」
「…そうだね…復興していると…いいけど」
「きれいな、王女さまが…いたのよね?」
…ん?
なんだか、妙な声音だった。
ジョーはふと腕をゆるめ、フランソワーズをのぞいた。
「王女さま…って…誰に聞いたの?」
「…ジェット」
「あ、あのさ…っ!」
「慌てなくたっていいのに…ジョーったら」
「…フランソワーズ!」
フランソワーズは軽く唇を尖らせてみせた。
「いいのよ…もう、なれっこだわ」
「ちょっと待ってよ…!そんな言い方って…!」
両肩をつかみ、懸命に視線を合わせようとする恋人に、フランソワーズは思わず微笑した。
「…うそ…うそよ、ごめんなさい」
「フランソワーズ…」
「…わかってるわ…あなたが…どんなに私を大切にしてくれたか…ちゃんと、戦いに連れて行ってくれて…最後まで守ってくれて…」
…そして、この姿に戻してくれた。
フランソワーズは口を噤み、目を閉じて…少しだけ背伸びをした。
…唇が重なる。
「ねえ、フランソワーズ…ホントに…ここにいてくれるの?」
「…ジョー」
「ホントだね…?後からイヤだって言っても…もう、離さないよ」
「…ええ」
「そうだ…明日、買い物に行かなくちゃね…いろいろ、いるものがあるだろう?」
「そう…ね、そうだわ、ジョー……あの…あのね、私…欲しいものが…あるの…」
「欲しいもの…?なんだい、フランソワーズ…言ってごらん」
君の願いなら、なんだって。
思いを込めて見つめていたジョーは、次のフランソワーズの言葉に、身を堅くした。
「私、犬を飼いたいわ」
「……犬?」
ジョーの表情が微かに変ったことに気づき、フランソワーズは少し慌てた。
「あ…犬は、嫌い?…それなら、猫でも…小鳥でもいいの…何か、かわいい動物と一緒に…」
「僕が…いるのに?」
「…え?」
ジョーはいきなりフランソワーズを抱き上げた。
「そんなの、必要ない…僕がいるんだ…」
「ジョー…ジョー、待って…どうしたの…?」
「僕は、君のほかには何もいらない…君だって」
「…ジョー…?」
「何もいらない…って…言わせてやる…っ!」
あっという間にベッドに投げ出されていた。
間髪を入れず始まった烈しい求愛にとまどい、フランソワーズは甘い声をもらした。
「ずるい…!加速…する…なん…て…」
ジョーはふと顔を上げ、微笑んだ。
「奥の手…だよ」
…君を、捕まえるための。
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