1
受話器を下ろしかけた手をぐっと握りしめ、ジェットは大きく息を吐いた。
呼び出し音が鳴り始める。
出ない。
まだ昼間だから、まさかアレってこともないだろう…と思ったんだが。
やばかったか?
呼び出し音は鳴り続けている。
切った方がいいのかもしれない…しれない…が。
「アロー?」
「あ…俺だ、フランソワーズ」
「まあ、ジェット…?」
明るく弾む声に、まずほっとする。
「悪いな、取り込み中だったか?」
「え…?何もしていなかったわ、大丈夫よ…どうしたの?」
「いや…どうしたのって…今、ジョーいるか?」
「いいえ…?」
……へっ?
「どうしたの、ジェット…まさか、また何か…あったの?」
「い、いや違う…違うって…」
「隠さないで、私だって003なのよ!」
「違うって言ってるだろうが!…あぁ、なんだ、俺はそーゆーときしかオマエに電話しちゃマズイのかよ?」
「あ。そんな…つもりじゃ…」
「そっちに寄らせてもらっても大丈夫か、ちょっと聞きたかったんだが…」
「あなたが…?パリに?」
「ああ」
「本当!…嬉しいわ、いつ?」
何となく深呼吸する。
「これから…じゃマズいか?」
「…え?」
短い沈黙があった。
「ジェット…どこに来てるの?もう、パリにいるの?」
「いや…先約があるならいいんだ。ちょっと思いついただけだからよ」
「約束…あることはあるけれど……」
…だろうな。
ふっと肩の力が抜けた。
そりゃそうだろう。
…が。
フランソワーズは、ちょっとためらってから言った。
「でも、アルベルトもあなたに会いたいんじゃないかと思うわ…うちでいいかしら。狭い部屋だけど、来てくれる?久しぶりにお話したいわ」
「……」
待て。
待てよ、フランソワーズ。
いま、何て言った?
アルベルトだぁ?
聞いてねーぞ、そんな話っ!
2
「…で。なんでオマエがここにいる?」
「それはこっちが聞きたいぜ」
お互い、久しぶりに会った旧友に対する態度ではなかった。
うさんくさそうな灰青色のまなざしを、ジェットは怯まず跳ね返した。
「言っとくが…俺は、これでも、ジョーのことはちょっとトロい弟分ぐらいに思ってるわけだ」
「…ふん?」
「確かに、アイツはトロい!だが、ここまでコケにされちまったら、黙って見過ごすわけには……」
「コケに…?ジョーが?俺にか?」
「とぼけるな…!」
「オマエの話はさっぱりわからんな」
ジェットはぐ、と唇を噛んだ。
「…それならハッキリ言ってやる。今日は何日だ?」
「1月24日じゃないのか、それがどうした?」
「だから、とぼけるんじゃねえっ!」
思わず声を荒げたとき、フランソワーズがお茶をもって入ってきた。
にらみ合う二人に、きょとん、と首をかしげる。
「…どうしたの?…いやね、会うなりケンカ?」
「いや…?なにか誤解があるようなんだが…フランソワーズ、1月24日がどうかしたのか?」
「ば、ばかっ!」
「1月…24日って……あ、ジェット、覚えていてくれたの?」
「…いや、別に…その」
「嬉しいわ…!あのね、誕生日なのよ…今日、私…」
「なんだって…?」
アルベルトは呆れたようにジェットとフランソワーズを見比べた。
ジェットはむっつりと黙り込んでいる。
「そういうことか…なるほど、オマエが花を持ってくるなんざ、珍しいことがあると思っていたら…」
「あ!そうだったのね、ジェット…?もう、言ってくれればよかったのに…ありがとう!」
フランソワーズはさっきジェットから手渡され、窓辺に置いたスノードロップスの寄せ植えを、いっそう大切そうに両手で捧げ持った。
「いや、すまん、フランソワーズ…すっかり忘れていた。何も用意していないが…」
「そんなこと…!来てくれたのが一番嬉しいのに…それに、あんな見事なアイスバイン、初めて見たわ…アルベルトのおかげで、素敵なディナーができるわね」
「…アイスバイン?なんだ、そりゃ?」
けげんそうなジェットに、アルベルトは小さく息をついた。
「モノを知らないアメリカ人に食わせるのはもったいないな」
「ンだと…?!」
「アルベルトったら…!」
「…が、花に免じてカンベンしてやろう」
「何を、エラそうに…!」
「そこまでよ、ジェット、アルベルト…本当にケンカはやめてちょうだいね」
どこか楽しそうに、フランソワーズは男たちをたしなめた。
3
ジョーはイギリスにいるはずだ、というフランソワーズのさりげない言葉に、ジェットはたちまち眉をひそめた。
「なんだ…すぐソコにいるんじゃねえか」
「あなたにとってはそうかもしれないけど…そうだわ、ジェット、ちゃんと飛行機使って来たんでしょうね?」
「ったりめーだろ、こんな何でもないときに疲れるコトやってられっかよ」
くすくす笑うフランソワーズを、しかし、アルベルトも気遣わしげにちらっと見た。
「で、なんでヤツはイギリスに?」
「ネッシーの取材なんですって」
「ネッシーだぁ?何やってんだ、あいつ、今?」
「雑誌記者だって…言ってたけど……そうよね、何の雑誌なのかしら」
「まあ、たしかに元々変わったヤツだが…」
フランソワーズは立ち上がり、棚から絵はがきを数枚取り上げ、ジェットとアルベルトに示した。
「この間はヒマラヤに雪男の取材に行ったみたい。今度は、はじめにストーンヘンジで、それからネス湖なんですって」
「ふーーん?」
「しかし、ネッシーがいるとしたら、恐竜だろう。冬は冬眠してるんじゃないのか?」
「そうねえ……?」
「なんかヤバそうじゃねえか、その雑誌?」
3人はなんとなく黙り込んだ。
フランソワーズがぽつん、と言う。
「きっと、ジョーには考えがあるのよ」
「考え?どんな?」
「わからないわ……でも、あの人は、一番危険な目に最初に遭うのはいつも、自分でなくちゃいけない…って思っているでしょう」
「それがネッシーや雪男とどう関係あるんだ?」
「それもわからないけど…イワンが何か言ってるのかもしれないし」
「…フランソワーズ」
「私…ワガママなことをしているわ。わかってる…ホントは日本で、イワンや博士やあの人の手助けをしなくてはいけないのに……」
「あのな、オマエはいつもアイツを買いかぶりすぎるんだよ!」
あきれたように言い放つジェットに、アルベルトもうなずいた。
「アイツはコドモの冒険マンガを熱心に読んでるようなヤツだぞ?心底そういうモノが好きなんだろうさ…男なんて、そんなもんだ。まともに心配すると馬鹿をみる」
「…もう、ヒドイわね、二人とも…!」
軽くにらむようにしながらも微笑むフランソワーズに、アルベルトはわずかに表情をゆるめ、立ち上がった。
「それじゃ…悪いが台所を借りるぜ」
「え…?」
「最上のアイスバインには、それなりの調理法ってもんがある」
「アルベルト…?」
「ジェット、ちょっとコイツをどこかへエスコートしてこい…そうだな、2時間ってとこか…」
「待てよ、まさか、てめーが料理しようってんじゃ…」
「そんな、いいのよ、アルベルト…だって」
「ただの手みやげのつもりだったが、バースデーディナーとなれば話は別だ。いいから行ってこい」
あっという間にフランソワーズとジェットは部屋を押し出されていた。
「…ったく、相変わらず強引なヤツだぜ」
「せっかく来てくれたのに…悪いわ」
「ほっとこうぜ…ああいう性分のヤツなんだ…で、どうする?2時間…」
「お散歩しましょうよ…めずらしくいいお天気だし」
おさんぽ、ねえ…と肩をすくめるジェットにかまわず、フランソワーズは軽い足取りで歩き始めた。
4
あと1時間…ってとこか。
ジェットはぼんやり思った。
とりとめのない話をしながら広い公園を二人でぶらぶら歩き回り、ようやくオープンカフェに落ち着いたところだった。時計を見て確かめたいところだが、一応我慢…していると、フランソワーズがいきなりコートの袖をまくり、腕時計を見た。
「あと1時間ね…お茶をのんだら帰りましょう」
「……オマエ」
思わずため息をついたジェットを、フランソワーズはけげんそうに見やった。
「どうしたの?」
「デリカシーのない女だな!デート中に時計見るやつがあるかよ?」
「…まあ!」
フランソワーズは目を丸くすると、くすくす笑った。
「ごめんなさい…つい…ジョーはこういうこと、気にしないから」
「…だろうな、ってかアイツなら自分でもやるだろう?」
「ふふ、そうね…そういえば、私も、はじめはヒドイって思ったかもしれないわ…」
気をつけます、ごめんなさい…と、フランソワーズはおどけて頭を下げ、運ばれてきたコーヒーカップを両手で持ち上げた。
ジョー…か。
声に出しそうになり、少しあわてたジェットは、なんとなく彼女から目をそらした。
まあ、昔からコイツはそうだ。
ヤツのことしか目に入っちゃいないんだよな。
…だが。
「アイツ、たまにはこっちに来るのか?」
「ジョーのこと?…そうね…夏に一度、来てくれたわ」
「一度かよ?」
「忙しいのよ、彼…それに、日本は遠いわ」
「たとえば、今はどうなんだ?イギリスなら結構近いぜ?」
「しつこいわねえ…気楽に寄れるほど近くはないでしょ?第一、遊びで来ているんじゃないのよ」
そうか?
イギリスとフランス…って言ったら、一応トンネルでつながってるんだぜ?
もちろん、ソコをサイボーグが駆け抜けちまったらいろいろマズイだろうが…バレなきゃどうってこたぁねえ。
俺なら…いてもたってもいられなくなるがな。
惚れた女が、ちょっと飛べば手の届くところにいるんなら。
「あのハガキ、先月の日付のもあったよな…アイツ、ずーっとホテル暮らしなのか?」
「それがね…なんだか、あちこち転々としてるみたいなの…テントを持って」
「…野宿してるのかぁ?」
「その方が気楽なんですって…それに、時々親切にしてくれる人もいるから大丈夫って…」
「親切に…?」
「ええ…食事に招待してくれたり、気の毒だからって、家に泊めてくれたり」
「なるほど…童顔だからな、アイツ…かわいそうに見えちまう…ってことか」
「ふふ、そうかもしれない」
「『かわいそうったあ、惚れたってことよ』って、しってるか、フランソワーズ?」
「いいえ…?日本語?」
「たぶんな」
「おもしろい言葉ね…そういうことも、あるかもしれないわ…ジョーなら」
それきり黙り込んだフランソワーズを、ジェットが探るようにのぞいた…とき。
いきなりふっと顔を上げ、彼女は微笑んだ。
「今、私のこと、かわいそうだなって思ったでしょう、ジェット…ね、惚れた?」
「ばーか!早く飲んじまえ。そろそろ出ないと遅れるぜ…ドイツ野郎は時間にやかましいからな!」
5
どうしたら、こんなにおいしくできるの?というフランソワーズの讃辞を、アルベルトは笑って聞き流した。
「たしかに…うめぇな」
「当たり前だ」
「オマエ、今度俺んとこにもメシ作りに来いよ?」
「薄気味悪いことを言うな。それにケチャップの味しかわからんヤツに料理なんざ、するだけ無駄なことだ」
「コレにケチャップかけたい、なんて、まだ一言も言ってないぜ?」
「…ためしに言ってみるか?」
「…いや」
氷のようなまなざしに、ジェットが肩をすくめたとき。
うつむいて笑いを押し殺していたフランソワーズが、ふと顔を上げた。
「どうした?」
「ごめんなさい…ちょっと…」
フランソワーズは立ち上がり、部屋を出て行った。
やがて、廊下から小声が聞こえてくる。
1分もたたないうちに、ごめんなさいね、と戻ってきた彼女は、きょとん、と二人を見た。
「どうしたの、二人とも…変な顔して?」
まじまじと見つめられている。
フランソワーズはなんとなく頬を赤らめた。
「やだ…私、何か…おかしい?」
「いや…おかしくはないが…今の電話、アイツからか…そうだろ?」
フランソワーズはますます頬を染め、黙ってうなずいた。
奇妙な沈黙が落ちる。
「…で、ヤツは、なんて?」
「誕生日、おめでとう…ですって」
「まだネス湖にいやがるのか?」
「そうみたい…でもテントじゃないらしいわ。久しぶりにあったかい夕ご飯を食べた…って言ってたから」
再び、沈黙。
唐突にソレを破ったのは、ジェットだった。
「よし!オマエにとっておきのプレゼントがある!」
「…え?なに、どうしたの、ジェット…?」
「いいから来い!」
「来いって…どこに?待って、まだディナーが…!」
「そんなモンよりいいモノをやるからよ…!」
「そんなモンとはなんだ、この野郎!」
怒鳴りながらも、アルベルトは彼を止めなかった。
フランソワーズの腕をつかみ、ぐいぐいひっぱって外に出る彼のあとを、アルベルトは無言で追った。
「このへんで…いいか」
「ジェット…?」
あたりに人目がないのを確かめ、ジェットはフランソワーズを抱え上げた。
「何するの、離して、ジェット…!」
「いいもんやるぜ、フランソワーズ…とびきりのな。おとなしくしてろ!」
「やだ、離して…あ、アルベルト、助けて…!」
駆け寄るアルベルトを、ジェットは鋭くにらみつけた。
「邪魔はさせないぜ」
「馬鹿か、オマエは!」
「うるせ……んっ?」
アルベルトは羽織っていたコートを脱いだ。
「コイツはオマエと作りが違う。こんな格好のままで飛んだら、よくて風邪か…下手すりゃ肺炎だ。あっちでジョーに殺されたいか?」
「…う」
「アル…ベルト?」
不安そうに見上げるフランソワーズをしっかりコートで包みこみながら、アルベルトは軽いキスを彼女の額に落とし、ヤツによろしくな、とささやいた。
「こ、この野郎!どさくせに紛れて……」
「無事に連れて行けよ」
「言われなくたってな!」
「フランソワーズ、このコートは返さなくていい。どうせ使いものにならなくなるだろうしな…それが俺のプレゼントだ…ってことにしておこう」
「アルベルト、あの…ジェット…?」
「そういうことだ、イギリスまでひとっ飛びするぜ…しっかりつかまってろ!…おっと、そうだ、その前に俺も…」
「…っ?…待て、ジェット!」
「るせーな、てめーもやったくせに…」
「そうじゃない、待て!」
アルベルトの制止を無視して、フランソワーズの頬に唇を当てた瞬間。
すさまじい殺気を感じ、ジェットは動けなくなった。
「誘拐ごっこかい、二人とも?」
柔らかく、あくまで穏やかなその声。
動けないまま、ジェットは近づいてくる足音と、落ち着きはらって答えるアルベルトの声を聞いていた。
「まあ、そんなところだ。身代金は、高いぜ?」
「…そうだろうね」
ジョーは微笑し、ジェットからフランソワーズをさりげなく抱き取った。
6
彼女の小さな居間に、防護服はどうにもこうにも不調和だった。
が、それを気にとめる風もなく、ジョーは静かにコーヒーを飲み、ひさしぶりだね、と目を細めて3人を見やった。
「オマエ、加速してきたのか?」
「うん」
「トンネルをか?」
「うん」
「ジョーったら…!どうしてそんな無茶を……」
「だってさ、二人がココにきてるって聞いたら、行かないわけにいかないだろ?」
無邪気に笑うジョーに、フランソワーズは小さくため息をついた。
先週の電話のときは、行きたいけど無理だな、ごめん…って言ってたくせに。
私の誕生日より、仲良しの二人に会うことの方が大切なのよね、あなたって……
「じゃ、俺たちは退散するか」
「え…お部屋、用意してるのよ…!」
「コイツも泊まるんじゃ、足りないだろう」
「あ。僕なら、心配いらないよ、ジェット…だって……」
「だって、じゃねえ…!オマエ、まさかこの期に及んで帰るとか間抜けなこと…!」
「客間とお兄さんの部屋、使えるんだろう、フランソワーズ?…だったら、二人とも泊まれるよ…だって、僕はいつも…」
「ジョー…?」
「…けっ!やってられるか……いくぞ、ジェット!」
「なんだよ?おい、離せ、アルベルト…!」
ばたん、と扉が閉まった。
何かわめいているジェットの声が遠ざかっていく。
やがて、そっと後ろから抱きしめられ、フランソワーズは身を固くした。
「やっぱりここまでくるのはちょっと疲れたかな…フランソワーズ、悪いけどすぐ休ませてもらっていいかい?」
「……」
甘えるようなささやき。
が、彼女は邪険にジョーを振り払おうとした。
「フランソワーズ?」
「しらない、ジョーなんて…!あんなこと言うから、二人とも帰ってしまったじゃない!」
「あんなこと…?」
「どうして…」
ジョーは微笑した。
「どうして…か。ホントに、どうして帰っちゃったのかな…?久しぶりに二人と話したかったのに…」
「だって、あなたが!」
「僕、何かイケナイこと言ったかい、フランソワーズ?」
「……」
わかってるくせに。
それとも、もしかしたら…わかっていないのかしら?
静かに引き寄せられる。
このままだと、彼のペースになってしまう…とわかっているのに、フランソワーズは動けなかった。
やがて、そっと唇を離すと、ジョーはまた耳打ちした。
「僕に客間は必要ないよ…そうだろ?」
「…!」
もう逃げられない。
そう思いながらも、フランソワーズはささやかな抵抗を試みた。
「いいえ、今夜は必要よ…!あなた、そっちで寝てちょうだい。だって、私、イヤだもの。そんな格好の人を…」
「もちろん、きみの部屋では全部脱ぐさ、こんなモノ」
ジョーは可笑しそうに喉の奥で笑った。
7
久しぶりの帰宅だった。
アルベルトは、無造作に郵便受けを開け、ばらばら落ちてくる封筒やハガキを器用に受け止めた。テーブルに放り投げると、ひときわ明るい色彩の絵はがきが一枚、目に飛び込む。
フランソワーズからだった。
アルベルト、お帰りなさい。お仕事お疲れ様でした。
24日は本当にありがとう。楽しかったわ。ゆっくりお話できなくて残念だったけれど。
あなたのアイスバイン、ジョーにも食べさせてあげたのよ。とてもおいしかった…って、彼からの伝言です。彼、ジェットのスノードロップスにもとても感心して、こんな素敵なさりげないプレゼント、僕にはとうていできない芸当だなあ…なんて言うの。
そんなわけで、ジョーからはまだ何ももらっていません。よく考えるから待ってて…ですって。あんまり期待しない方がいいみたいね。
春になったら、日本に行くつもりです。あなたはどうしますか?向こうで会えたら、うれしいです。難しいかしら?
春…か。
と、アルベルトは小さくつぶやいた。
それまでにあの坊やは、彼女のため、何か気の利いた贈り物を見つけ出すことができるだろうか。
たぶん、できないだろう、いい気味だ。
…だが。
本当のところ、気の利いた贈り物なんてのは、気が利いているということだけが取り柄の、どうってことないモノでしかない。
アイツらにそれがわかっているかどうかは怪しいが。
せいぜい探し回るがいいさ、ジョー。
見つけてみろ。
長い冬を越え、春とともに舞い降りるという彼女にふさわしい贈り物が、この地上にあると、本当にオマエが思うなら。
そして、あの日オマエがよこした、たった一本のフザけた電話以上に、彼女を幸福にできるものが、この世にあるというのなら……な。
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