「よぉ、ジョー、久しぶり…元気そうだな」
「やあ、ブリテンか!…誕生日おめでとう!」
「…お?なんだ、覚えててくれたのか」
「うん…まあ上がってよ、そうだ、いいスコッチがあるんだ。一緒にどう?」
「おお、ありがたい…と、待てよ…うーむ」
「…あ!ヒドイな、疑ってるんだ!いくらエイプリルフールだからって、僕がそういう嘘をつくわけないだろう?」
「いや、これは失礼…そうだな、オマエさんはそういうヤツだ」
「この前、スーパーで見かけて、そういえばもうすぐ4月1日だったなあって思い出したから、買っておいたんだ。…それで?」
「うん?」
「今年は何なんだい、ブリテン?…ふふ、とっておきの話、聞かせにきてくれたんだろう?」
「イヤなヤツだな…いくらなんでもここまでバレバレだと、我が輩の計画もすっかりおじゃんだ…今年は一本とられたよ、少年。おとなしく祝杯を受けて帰るとしよう」
「ホントかなあ…まだ、何か企んでいるんじゃないか?」
「まさか。いや…なら、うまい酒のお礼に、ちょいと世間話ぐらいはしていこうか」
「…ふふ」
「馬鹿、何期待してるんだ…素直に聞けって…実は、マドモアゼルのことなんだが…」
「はいはい、なんだい?オペラ座のオファーがあって、フランスに帰ることになった、とか?それとも、張々湖飯店のお客さんにプロポーズされた?ええと…あとは…」
「お前なあ…それじゃ話にも何もならんぞ。俺は真面目なんだ」
「こんな日に真面目な話をしようなんて、君が悪いよ、ブリテン。それも、毎年あの調子でさ。僕だっていいかげん学習……」
「ちっ…まあいい、信じようが信じまいが、俺の方は話しちまえばそれで済むんだからな…とにかく聞け。期待に応えられるかどうかはわからんが」
「君の話ならオモシロイに決まってるさ。…で、フランソワーズがどうしたんだい?」
「今、店の奥でな、泣いてるみたいなんだよ」
「……」
「さっきまでランチタイムで、てんてこ舞いだったから、俺も張々湖も何があったのかよくはわからないんだが…」
「……」
「ロッカールームにこもって、中から鍵を掛けて…だな」
「…あのさ、ブリテン。そういうのって、いくらエイプリルフールだからって…」
「もちろん、嘘じゃないとも」
「ちぇっ、君らしくないな…君の嘘って、いつもはどこかとぼけてるっていうか、騙されても笑えちゃうようなトコロがあるのに、こんな…」
「だから、嘘じゃない、と言ってるだろうが」
「…だって。どうしてフランソワーズが泣くんだよ?今日は大忙しになりそうって、張り切って出て行ったんだ…別に変わった様子なんてなかった」
「俺たちだってそう思ってたさ」
「……」
「実際、そうだな…ピーク時に、どっかの新入社員らしい若い連中がどーっと押し寄せてきた辺りじゃ、元気に飛び回ってたわけだし」
「……」
「張々湖も大喜びさ、フランソワーズを今日呼んだ狙いは大当たり…これで固定客が確実に増えるってな」
「…やっぱり、そういうことだったのか!急に手伝ってくれ、なんて…なんかおかしいと思ってたんだ」
「はは、何事も最初が肝心だからな…今日は大事な日なんだよ…まあ、彼女もなんだかんだ言って、その辺はわかってくれてるからな、がんばってくれたんだが…」
「……」
「気がついたら…こうだ」
「……」
「で、客も切れたし、今日はもう店を閉めようってことになった。そんなわけで、ちょいと暇になったから、気晴らしにお前さんをからかいに来た…ってことさ」
「…全然、オモシロクない」
「そりゃそうだろう」
「それが世間話なのかい?フランソワーズが泣いてたって。それのどこが」
「ちょっと珍しいだろう?」
「他人事みたいな言い方だな」
「そりゃ…俺たちには…いや、お前さんにだって、結局のトコロ、関係ない話さ。何が悲しかったのかはわからんが、どのみち、マドモアゼルはこういうことを引っ張りゃしないんだからな…今頃はにこにこ笑って出てきてるだろうさ、自分で気持ちに決着をつけて…張々湖大人、ごめんなさい、ジョーにはナイショにしてね…とかなんとか」
「……」
「…おいおい、ジョー。まさかと思うが…お前」
「あのさ。…店に、若い女の子、来ていなかったかい?」
「そんなのは…まあ、たくさん来てるわな」
「いや…そうだな、髪が長くて…」
「ああ、ストレートの黒髪か?背中のあたりまでこぉ、さらさらした感じの…」
「うん」
「いたにはいたが…一人二人じゃなかったぜ」
「そうだ!…君、わかるかな…『コーチ』ってブランド」
「ああ、バッグのか?…うん、いたぞ、それ持った黒髪ストレートのキレイなお嬢さん。でもアレだ、ブランドといっても、そんなに目立つロゴが入ってるヤツじゃなかったが…お前こそよく知ってるじゃないか、ブランドなんぞ」
「結構しつこく覚えさせられたんだ」
「…ふーん」
「……」
「…で?あのキレイなお嬢さんがどうかしたのか?」
「どうもしていないよ…ったく!なんでこんなことになるんだろうな…!ちょっと行ってくる!」
「大成功ダッタネ、ぶりてん」
「そうか?ってか、ジョーのやつ、相変わらず何やってんだか…」
「フフ、デ、キミノ話ッテサ、結局ホントダッタノカイ?」
「ふん、どっちだって同じだろ?どうせあの野郎、今頃はマドモアゼルと…」
「ソウダネエ…ヤレヤレ、ナカナカ帰ッテコナイダロウナア…キミ、責任トッテヨネ。今夜ノ僕ノみるく、頼ンダヨ」
「本気で言ってるのか?」
「ドウカナ。信ジル?」
「まあ、まだ4月1日だからな」
「ソウイウコト。アア、ソウダッタ、オメデトウ、ぶりてん。言イ遅レチャッタネ。失礼シタ」
「…うるせえよ、ガキ」
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