バースデーカードの
五段活用♪

シマムラからお嬢さんへバースデーカードがっ!ホントかっ?(疑)
ってことで、踏むべきところは踏まないと!(しみじみ)
という趣旨の五段活用です(しみじみじみ)
1      平ゼロ
 
「誕生日おめでとう」
 
と書いて、また消した。
本当に、これでいいんだろうか、と考えてしまう。
 
だって、きみは。
 
「誕生日を祝うのは、その人が生まれたことを、本当に嬉しいと思い、そのことを神に感謝せずにいられなくなるからです。それが一番大切なことなのですよ、ジョー」
 
本当だろうか。
いや、神父さまのおっしゃったことは、きっと本当だと思う。
わからないのは……
 
 
僕は、きみが生まれたことを、本当に嬉しいと思っています。
それだけの気持ちで、こうやってカードを書いています。
 
でも。
 
それだけの気持ちで…それだけで、本当にいいですか?
僕は、きみを傷つけてはいませんか?
 
きみは、きっと、誕生日をただ喜ぶことなんてできないだろうと思う。
僕と同じように。
僕とは違う理由で。
 
きみが、この日を思う苦しさと、僕がこの日に感謝する思いと、どっちが勝るだろう?
 
 
まだわからない。
わからないのに、僕はこうして君にカードを書いています。
だって、書かずにはいられないから。
それしか書けないから、今はそれだけを書きます。
 
 
誕生日おめでとう。
 
 
もしこの思いがきみに届かなくても。
もしこの思いがきみを傷つけても。
 
 
誕生日おめでとう、フランソワーズ。
2      超銀
 
1月の半ばをすぎると、フランソワーズの部屋にはいくつもの花束が届く。
そして、色とりどりのカード。
 
誕生日を宣伝した覚えはないけれど、熱心なファンや、親しい友人たちはみんなこの日を覚えていてくれる。
 
それぞれにお礼の手紙を書き終えると、届いたカードは丁寧に重ねてリボンで結ぶ。
 
そして、燃やすのだった。
万一の時を思うと、そうせずにはいられない。
自分とつながりを持った人の証拠を残しておくのは恐ろしかった。
 
戦いを離れても、自分がサイボーグであることに変わりはない。
何も知らず、愛情を寄せてくれた人たちに、そのために不幸がふりかかることがあってはならないのだ。 
 
今年も、たくさんのカードが届いた。
いつものように丁寧に重ねてリボンで結ぶ。
 
 
一枚のカードを除いて。
それも、いつものことだった。
 
 
差出人不明の、ただ「誕生日おめでとう」と印刷されているだけのカード。
毎年、一枚だけそういうカードが残る。
 
それも燃やしてしまえばいいのかもしれない。
でも、フランソワーズはその一枚だけはいつも大切にとっておくことにしていた。
 
封筒には印字された宛名。
消印は年によって違う。
フランス国内からのときもあるし、海外からのときもある。
 
誰から送られたものか知るよしもない。
わからないから、こうして手元においておくことができる。わからない限り、永遠に。
だから、知ろうとは思わない。
 
 
「誕生日おめでとう。」
 
そう印刷されているだけのカードを見つめ、フランソワーズは思う。
 
 
あなたが誰なのか、わからなくてもいい。
私はただ、あなたのその言葉をいつまでも抱きしめていたい。
それは、私が人間であることのはかない証になるかもしれない。
 
だから、わからなくていい。
わからなくていいわ、永遠に。
3      新ゼロ
 
言葉が決まっているというのはありがたい。
本当は年賀状が書けるともっといいのだけど、彼女はフランスの人だ。だから、いつもクリスマスカードを送る。
ちょっと気恥ずかしいけど、言葉が決まっているからなんとかなるんだ。
 
今年はうっかりした。
忙しくて、クリスマスなんてあっという間に通り過ぎて。
 
でも……
何かをつないでおきたくて。
 
彼女は僕からの…印刷されたのをそのまま出しただけの味気ないカードなんて、気にもとめていないだろうけど。
いや、気にとめられても困るんだ。
 
これは、何というか…僕の自己満足。
そういうことでいい。
 
彼女の誕生日が1月でよかった。
ちょっと遅れたけど、1年に1度の挨拶を送ることができる。
 
 
フランソワーズ、君は元気でいるか。
幸せに、暮らしているか。
 
幸せなら、少しだけ僕を思い出して。
そして、もし幸せでなければ……
 
僕は、ここにいる。
僕は、いつも君の味方だ。
 
 
誕生日おめでとう、フランソワーズ。
これからの1年が、君にやさしい時間でありますように。
 
いつも、願っている。
遠くから、僕はそう願っている。
4      旧ゼロ
 
また今年も1月が来て、君の誕生日が来る。
君はプレゼントをもらえないからって腹を立てたりするような女の子じゃないけど、やっぱり気を遣うよ。
 
どうせ贈るなら、喜んでもらいたいし。
でも、君が、モノにこだわる人じゃないことはわかってる。
君は、モノにこめられた心の優しさをちゃんと感じ取ってくれるから。
 
だから君は、007手製の、なんだかわからない人形みたいなモノを、とても大事そうに、部屋に飾っているよね。
まあ、007はそれでいいんだよな、子供だし。
 
僕はちょっとそういうわけにはいかない。
君がいいって言っても、僕の方が気がすまない。
 
といっても、どんなものを贈っても、同じように嬉しそうな顔をしてくれる君だから、それはそれでいいんだけど、ちょっと物足りないような気もする。
 
だってさ、007の怪しい手作り人形と、僕の真珠のブローチが一緒の扱いって、ひどくないか?
いや、だから君はモノにこだわる人じゃなくて、そこがいいところなんだけどね。
 
とにかく、女の子っていうのはよくわからない。
あれはいつの誕生日だったっけ。
僕がプレゼントにカードを添えたのは、ほんの気まぐれ…というか、ほとんど偶然みたいなモノだった。
可愛い万年筆を見つけて、それを包んでもらったら、お店の人がオマケにって、押し花つきのカードをくれたんだ。
そんなモノ、僕が持っていてもしかたないから、それも彼女にあげることにした。
何を書いたらいいのかわからなかったから「誕生日おめでとう」だけ書いて。
 
それが、ウケた。
 
ちょっと複雑な気がするぐらいウケたんだ。
複雑…ってのは、つまり。
こんな紙切れ一枚でこんなに喜んでくれるなら、今までの苦労…っていうか努力はなんだったんだろうって、やっぱりそう思ったのさ。
 
だから、それから、君へのプレゼントには必ずカードを添えることにしている。
カードだけ…ってのも変だし、けちだと思われたくもないから、プレゼント選びの苦労は変わらないけど。
 
それどころか、苦労は増えてしまった。
だって、カードに何を書くか考えないといけなくなったから。
 
誕生日おめでとう、って書けばいいんだけど、まさか毎年それだけってわけにはいかないだろう。
君は文句を言ったりしないだろうし、同じように喜んでくれるはずだけどね。
 
一応、僕だって考えるのさ。
君は本当に心がきれいで、人を疑うことを知らなくて、優しくて。
だから……あんまり言いたくはないけど、悪いヤツにつけこまれやすかったりもするんだよな。
 
誕生日おめでとう、って一言書いてあるカードだけで、君って人は幸せになってしまう。妙なヤツがそれに気付いて、君をだましたりするかもしれないだろう?
 
だから、僕としては、君にさりげなく注意しておきたい。
誕生日おめでとう、なんて、誰にでも書けるんだ。
でも、ちゃんと君を大事に思っている人間なら、もう少し何か他のことも書こうとするはずさ。
僕のようにね。
 
君は、僕のカードをまあ、基準みたいなモノにしてくれればいいんじゃないかと思うんだ。
そう思うと、あまりツマラナイことは書けない。
 
そんなわけで、僕は今日も図書館にこもっている。
平凡な言葉じゃダメだし、気障なのはイヤだし、説教臭いのもウンザリするだろ?
難しいよ、本当に。
 
でも、ちょっと楽しみでもあるんだ。
だって、努力しただけの甲斐はあるからね。
人気者の君のトコロには、サイボーグの仲間達からはもちろん、いろんな人からたくさんのバースデーカードが届く。
でも、君が一番嬉しそうに目を輝かせてくれるのは、いつも僕のカードを開いたときだ。
誰にも言ったことはないけど、これはうぬぼれじゃない。勘違いでもない。
 
今年はどうしようかな。
中国の昔の詩の言葉なんてどうだろう。
そうしたら、プレゼントもオリエンタルな感じにしてみようか。
 
まったく。
めんどうなもんさ、女の子って。
5      原作
 
遠征先のジョーから、バースデーカードが届いた。
こんなこと、初めて。
 
ちょっとどきどきして、そうっと開いて…びっくりしちゃったわ。
だって、文字がびーっしり書き込んであるのよ!
 
バースデーカードなんて、「お誕生日おめでとう」って書けばそれで十分なのに。
おかしな人。
 
それでも、その……たとえば、ね、何かすてきな恋人らしい言葉が書き連ねてあるなら…ちょっと恥ずかしいけど、嬉しいじゃない?
 
ええ。
もちろん、はじめから彼にそんなことを望んだりはしていませんけど。
 
何が書いてあるのかしら…って、あまり期待しないようにしながら読んでみたら、やっぱりよくわからないの。
 
要するに、ここ一ヶ月ぐらいの出来事を細かく細かく書いてあるのよ。
何のために…何が言いたくて彼は延々そんなことを書いたのか、というと…そうねえ。
 
たぶん、言い訳したいんだわ。
私の誕生日をうっかり忘れてしまっていて、プレゼントも贈らなかった…ってこと。
そういうことみたい。
 
プレゼントなんて、いいのに。
誕生日を忘れる…のだって、仕方ないわ。
それより、そんなことに気を取られて、事故にあったりしなければいいのだけど……
 
私、そんなに気むずかしいと思われているのかしら?
ちょっと誕生日を忘れられたぐらいで、ものすごく怒る…って思われてるのかしら?
失礼しちゃうわ。
 
それは、淋しい…とは思うけれど。
そうね、淋しかった。
 
でも、仕方ないわ。
ジョーはそういう人。
そういうあなたが、私は好きなのよ。
だから、あなたは私に言い訳なんてしなくていいの。
 
プレゼントは全然間に合わないから、せめてカードだけ。航空便で速達にするけど、きっと間に合わない、ごめんね……ですって。
加速装置が使えたらいいのに……なんて、のんきな人。
 
どんな返事を書こうかな。
あの人をあまりがっかりさせないように……でも嘘をつくのはいやだわ。
 
今日は、たしかに25日。
あなたが心配したとおり、やっぱり24日には間に合わなかった。
でも、加速装置を使えたとしても、間に合わなかったのよ、ジョー。
 
だって、今日は2月25日だもの。
 
本当に、どう返事を書いたらいいのかしら。
 
 
いいわ、明日考えましょう。
今日は…今夜は、ただ眠りたいから。
このカードをそうっと胸に抱きしめて。
 
 
おやすみなさい、ジョー。
ありがとう。
 
私、あなたが大好きよ。