みんなでいってみよう!
その1


BackIndexNext

2   原作(初期)
 
波が岩に打ち寄せ、砕け散る。その繰り返しをジョーは身じろぎもせず見つめていた。
 
――駄目だ。
 
何度考え直そうと、先行きに明るいものは見えない。
それはそれでいい。それでも、戦うことが自分のつとめだとジョーは思っていた。
 
――僕には、失うモノなどはじめからないんだ。
 
だから、行こう、と思う。
サバと001を信じるなら……信じるしかないのだが……戦わなければやはり死ぬのだから。それが自分だけのことならどちらでも同じだが、戦うことによって多くの人の命と幸福を守れるのかもしれない。それなら、迷う必要はない。仲間たちの思いも同じだろう。
……しかし。
 
軽い足音が近づいてくる。
ジョーは思わず息をついた。
 
「ジョー、何を見ているの?」
「海さ」
 
必要以上のことは語るまい、と思った。
そうでなくても、自分は彼女を傷つけてきたにちがいないのだ。
 
「001に言われたわ……私は、行かない方がいいだろうって」
「……そうか」
「あなたは、どう思う、ジョー?」
「001の言うことに間違いはないさ」
「行きたければ、009を説得してくれ、ですって」
「……」
 
思わず心で舌打ちする。やっぱり、食えない赤ん坊だ。
仕方なくジョーは振り返り、澄んだ青い目をまっすぐに見つめ返した。
 
「それで……?僕を説得に来たのかい、003?」
「いいえ。私は……ただ、わけを知りたいの。どうして私だけ、行ってはいけないの?」
「行ってはいけない、なんて言っていないさ」
「それなら、私も行くわ」
「今までの戦いとは違う。宇宙空間で、君の目と耳はそれほど役に立たないんだよ、003」
「最後まで宇宙船から一歩も出ないで戦えるはずないでしょう?敵の基地に侵入するときは私が必要だわ」
 
そこまで行き着けるとは正直思っていない。が、そう言うこともできない。
ジョーはひそかに深呼吸しながら、フランソワーズから目をそらした。
 
「……わからないな。君は、戦いが嫌いじゃなかったのか?」
「もちろんよ。でも、自分の宿命から逃げるつもりはないの。みんなが戦うなら、私も戦う。当然のことよ」
「君には家族がいる。たくさんの人たちを感動させることができるバレリーナでもある。君は僕たちとは違うんだ、フランソワーズ」
「この世界にどれだけたくさんのバレリーナがいるかわかってる、ジョー?……でも、ゼロゼロナンバーサイボーグは……私たちはたった9人しかいないのよ。家族だって……」
 
フランソワーズはふと苦しげにうつむいたが、すぐに顔を上げ、微笑した。
 
「私は、あなたたちのことだって家族だと思ってる」
「……」
「いいえ、もういいわ。私は行ってはいけないと、あなたが思っているわけじゃないんだってわかれば、十分よ……ありがとう、009」
「……待て!」
 
ジョーは、咄嗟にフランソワーズの手首をつかんだ。
思いがけないほどの頼りない細さに、また胸が締め付けられる。
 
「君を連れて行くわけにはいかない。君は、ここに残ってくれ!」
「いやよ!」
「残るんだ…!君は……君は、女の子じゃないか!」
 
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
頬が焼けるように熱い。
そろそろと手をやりながら、ジョーは呆然とフランソワーズを見つめた。
 
「何を……言うの、今さら」
「……フランソワーズ」
「女の子……ですって?」
 
澄んだ青空のようだといつも思っていた彼女の瞳に深い陰が落ちる。
ジョーは思わず息をのんだ。
 
「私が女の子だからといって、ブラックゴーストは見逃したりしなかった」
「……」
「私が女の子だからといって、優しくしてくれた戦場などなかったわ」
「フランソワーズ、それは…!」
「もう一度言ってごらんなさい。私、あなたを絶対に許さなくてよ……009」
 
つかまれた手首を振り払い、刺すような一瞥を投げると、フランソワーズは踵を返した。
遠ざかっていく背中を追うことも何か言葉をかけることもできず、ジョーは立ちつくしたまま、打たれた頬の熱が少しずつ引いていくのを感じていた。
 
「……すまない。003」
 
つぶやくように言った。
謝られることも、彼女は望んでいないだろう。
それでも、きっと彼女の耳はこの言葉を聞いているはずで。
そうと知ってつぶやく自分は卑怯だと、ジョーは思った。
 
気づかなかった。
いつも003を守っているつもりでいた。
ゼロゼロナンバーの紅一点。優しく、美しい、儚い花のような女の子。
それがどれほど甘い幻想だったのか、ジョーは初めて思い知った気がした。
彼女を守っているつもりだった自分は、ただ美しい幻を身勝手に作り上げ、それに甘えているだけだったのだ。
たぶん、彼女は正しい……でも。
 
でも、とジョーは思わずにいられなかった。
あの、青い瞳。
しなやかな肢体。
優しい声……日差しのような微笑。
そのすべてが、幻などではない。
だったら。
 
――君は……女の子だよ、フランソワーズ。
 
だから、僕が守る。
 
彼女を連れて行かなければならない。彼女を守るために。
僕になら、それができる……できなければならない。
僕は、009なのだから。
 
 


| ホーム | 超銀礼賛 | みんなでいってみよう! その1 | みんなでいってみよう! その2 | 母をたずねて三千里 | I.S.L. |