みんなでいってみよう!
その1


BackIndexNext

3   原作(後期)
 
やれやれ……と声が出そうになり、ジョーは少し慌てた。
今までのことをあれこれ思い出してみても、自分に勝ち目はない、ような気がする。それでも、諦めるわけにはいかない。
 
「何度でも言うよ、フランソワーズ。……君は、ここに残るんだ」
「イヤよ」
「頼むから……」
「イヤ。どうして残らなければいけないのか、わからないわ。正体も十分にわからない敵を相手にするとわかっているのに、私の眼と耳が必要ないなんて、おかしいじゃない」
「どうして……って。危険だからだよ。何度言えばわかるんだ!」
「私は足手まといってこと?」
「……そうとってくれて構わない」
 
ぶっきらぼうに言い捨てるなり、いきなり頬を張られた。
予想はしていたのでいささか構えてはいたものの、それを遙かに越えた強烈な平手打ちに、ジョーは思わず気色ばんだ。
 
「何するんだっ!……わからずや!」
「わからずやはあなたの方でしょう?」
「どうしてわからないんだよ?!僕は、君を死なせたくないんだ!君が……君が、誰より大事だから!」
 
はっと息をのむフランソワーズの両肩をジョーは夢中で揺さぶった。
 
「今までの戦いとはわけが違う!たぶん僕たちは勝てない。でも、戦わなければ確実に人類は終わる。だから、戦うんだ……この命を、捨て石にできるのなら!」
「わかってる…だから、私だって……!」
「君は駄目だ!……君を守れないなら、戦っても意味がないだろう!僕が、今まで何のために戦ってきたと思っているんだ……?君がいたから、じゃないか……君が、いつも笑ってくれたから……だから、僕は…!」
 
ふとジョーの顔がゆがむ。彼がそのまま崩れ落ちてしまうような気がして、フランソワーズは素早くその両腕をつかみ、自分に引き寄せた。
 
「それは……本当なの、ジョー?」
「……」
 
彼はもう言葉では答えなかった。
目を閉じ、彼が求めるのに任せながら、フランソワーズはその背中にそっと腕を回した。
 
「それなら……やっぱり私は行かなければならない」
「フランソワーズ……」
「わかっているくせに……あなたは、私を守らなければならないわ。そう思っている限り、あなたは誰にも負けない」
「……」
「逃げられると思ったの…?」
 
ジョーは小さく首を振った。
彼女の言いたいことはわかる。わかっている。それでも……
 
「こわいんだ、フランソワーズ……こわくてたまらない」
「ジョー」
「毎晩夢を見る。君が、僕の腕の中で冷たくなっていくのに、僕は、どうすることもできない……そんなのには耐えられない。僕は、とても……!」
「私は、死なないわ」
「……」
「こんな意気地なしのあなたを一人になんかできない」
「……フランソワーズ」
「お馬鹿さんね、ジョーは……もう二度と会えないのなら、死んだことと同じじゃないの。一人になるのをこんなにこわがっているくせに」
「……」
「私は、あなたを一人にしない。約束するわ……信じて」
 
 
僕は、卑怯者だ。
 
フランソワーズを堅く抱きしめながら、ジョーは心でつぶやいた。
彼女を置いていくことなど、できはしないとわかっていたのに。
自分は彼女に言わせたかっただけだ。
ほかならぬ彼女の声で、その言葉を聞きたかったのだ。
 
 
――私を、信じて。と。
 
 
信じるよ、フランソワーズ。
君は、死なない。
僕は君を守れる……この戦いに勝つことができる。
 
君のほかに信じられるものなど、何ひとつもたない僕だ。
神であろうと、悪魔であろうと。


| ホーム | 超銀礼賛 | みんなでいってみよう! その1 | みんなでいってみよう! その2 | 母をたずねて三千里 | I.S.L. |