みんなでいってみよう!
その1


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6   平ゼロ
 
平手打ちのひとつやふたつ、覚悟の上だった。
が、実際に手加減なしでくらうと、結構ダメージは大きい。
 
「……フランソワーズ…っ!」
 
ひどいよ、と思わずぼやくと、ひどいのはそっちでしょう、と決めつけられた。
彼女の言い分はわからなくもない。
それでも、絶対に退くわけにはいかない、とジョーは思った。
 
「叩く方だって痛いのよ。あなたの皮膚は強化されていて、衝撃に強いはずだし」
「そうかもね……ごめん」
「謝らなくたっていいわ。手を上げる方が悪いんだから」
 
悪いって、わかってるのか。
彼女らしいなあ……
 
「わかってほしいんだ、フランソワーズ……みんなも納得してくれた。君は、ここに残るべきだと思う。今度の戦いは……危険すぎる」
「だからこそ、全員で当たる必要があるわ。あなたの言っていること、おかしいわよ、ジョー」
「……いや、だから」
 
どう説明したらいいものかわからない。
簡単に言ってしまえば、要するに、イシュメールで十億光年先にあるダガス軍団の本拠地に向かう……なんて、およそ常軌を逸する展開に、彼女だけは巻き込みたくない、ということなのだけど……
 
「うまく、言えないけど。今度の戦いは、今までとは違うと、僕は思うんだ。ブラックゴーストとの戦いは、僕たち一人一人のこれからとどうしても深く関わるモノだった。だから、全員、避けて通るわけにはいかなかったんだ……でも、コレは違う。僕たちとダガス軍団との間には、ブラックゴーストの時のような因縁みたいなものがないだろう?」
「でも、彼らは私たち共通の敵よ。全ての人類の」
「うん。だから、彼らと戦うためには、イシュメールに乗らなくたっていい。君は、ここで、君のやりかたで戦うべきだと思う。誰も傍観者ではいられないんだ」
「要するに……私が足手まといだ、と言いたいのね?」
「……えっ?」
 
いや、それは……と口を開く前に、また平手打ちをくらった。
本当に手加減なしだ。
 
「……ええと。できたら、話し合いをしてほしいんだけど」
「話し合いにならないときは実力行使。当然だわ」
「フランソワーズ…!」
「そうね。……実は、話し合いならもうしているのよ。002と004に。好きなようにすればいい、って言われたわ」
「へっ?!」
 
初耳だった。
……というか。
それが本当なら、昨日あの二人と交わした握手は一体なんだったんだ…?
 
「……ジョー」
「……」
「あなたは、勘違いをしていると思うの。私は……もう十分に生きてきたわ。今さら、みんなと離れてこれ以上長生きしようなんて思わない」
「それは…!」
「たしかに、ここ何年かはとっても幸せだった……あなたの……みんなのおかげで」
「……フランソワーズ」
「あなたには、わからないかもしれないわね……私、こわいのよ。あなたたちと離れることが……こわくてたまらないの」
「……」
「ジョー。ヒトは、いつかは死ぬモノでしょう?……私は、あなたたちと一緒にいたい。それが、一番幸せな時間だったから。他に……生きる場所なんてないから」
「それは、それは……違う、フランソワーズ!君はもっと……!」
「ええ、もっと幸せになるつもりでいるわ……でも、それはあなたたちと一緒に、よ」
「……」
 
そう言われてしまったら、どうにも反論のしようがない。
ジョーは息をついた。
 
「君は、ずるいよ……いつもそうやって、自分の気持ちばかり」
「……ジョー?」
「僕の気持ちなんて、少しも考えてくれないんだ」
「あなたの……気持ち?」
 
きょとん、とのぞき込まれ、かっと頬が熱くなった。
自分が何を言おうとしていたのか、わからない。
 
僕の……気持ち?
 
「僕……は」
「……」
 
碧の目がじっと見つめている。
この目が戦火に焼かれ、閉ざされるなんて、たまらないと思った。
そんなのを間近で見せつけられたら、僕は耐えられない。
 
そうだ、絶対に耐えられない。
だから、連れてはいけないんだ。
だって、僕は、君を――!
 
「……へっ?!」
 
いきなりむにゅ、と柔らかいモノに顔を押しつけられ、視界が真っ暗になった。
フランソワーズにぎゅうっと抱きしめられていることに気づき、ジョーは必死でもがいた。
 
ちょ、ちょっと、フランソワーズ……っ!
 
「ジョー、お願い……!置いていかないで……!」
 
……ああ、もうっ!
 
数分後。
すっかり上機嫌で歩き始めたフランソワーズの背中に、ジョーは思わず肩を落とした。
結局、かなわなかったのだ。
 
大体、002と004が裏切ったのが悪いんだ、とジョーは思う。
彼らはいつもそうだ。最後には必ずフランソワーズの肩を持つ。
第一世代だから、とかもっともらしいことを言うけれど、要するに女の子に弱いってことなんじゃないか?
 
それはオマエも同じだろう、と言われたらそれまでかもしれないけれど。


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