1
オマエはオンナノコに甘い、と言われることがよくある。
これもそういうことなのかもしれない、と009は頭の隅で思った。
しかし、すがりついてくるオンナノコを避けたり振り払ったりしていいとは思えない。
そもそも、今ここにある問題はそうしたフツウの恋の駆け引き、といったようなレベルを既に遙かに飛び越えている……ような気もした。
「009。あなたが、この星に残ってくだされば……いずれ、私たちの新しい……すばらしい子孫がこの星に誕生するのです…!」
まさか、と009は思う。
星の再生には異星人との混血が必要不可欠……ということなのか。
いや、まさかそんなはずはない。
ない……けれども。
「タマラ。それは無理だよ」
「……009?」
不安そうに見上げるタマラの瞳は、つい先ほどまで妖艶な光を放っていたのに、今は少女のように頼りなく震えている。
心に痛みを覚えながらも、言うべきことはわかっていたし……それを避けることができないのも、009にはわかっていた。
「いいかい。ものにはきっと順序があると思う。……もし、この星に、僕たちのような異星人の力が必要なのだとしても……今はそのときではないんじゃないかな」
「どういう、こと……ですか?」
「僕たちには使命がある。この星にとどまることはできない。君たちが本当に自分の力とするために異星人を求めるなら、君たち自身が宇宙に出なければならないと思う」
「……」
「今は途方もないことに思えるかもしれないけれど、この星には、あんな立派な宇宙船の港があったじゃないか。きっと、いつかはできるはずだよ」
「その……力をつけることが先だと……あなたはおっしゃるのね」
「偉そうなことを言ってごめん。僕たちだって……自分の力で宇宙を旅しているわけじゃないのにな。あのイシュメールは、コマダー星のものなのだから。でも、だからこそ……僕たちは僕たちに課せられた使命を第一に果たさなければいけないんだ。いくら、君を助けたいと思っても……」
「助けたいと……思っても……あなたは、思って、くださるのですね、009…?」
「ああ。でも……すまない」
「いいえ。そう聞けただけでも……こんなに嬉しいことはありません」
タマラはそっと009の胸に顔を埋め、涙を隠した。
2
あなたは、私を助けたいと言ってくれた。
それは偽りのない真心からの言葉。
だから……
「そんな、顔をしないでください……009」
どんな言葉もこの人の心を救いはしないでしょう。
それでも、私は……最期の瞬間まで願わずにはいられない。
009……あなたが、これ以上苦しむことのないように、と。
「しっかりするんだ、タマラ!」
「私……わかっていました」
「……タマラ」
あなたは、真心から私を助けたいと思ってくれた。
出会った、あのときから変わらずに。
あなたが助けたいと思うひとは私だけではないけれど……でも、それはどうでもいいこと。
私が愛したのは……あなたのまっすぐな願い。偽りのない想い。
だから、私は……
「大丈夫です。……この星は、きっと再生します」
「タマラ……!」
「私は……信じていますわ。この星の民たちを……そして、あなたがたのことも」
「……」
「だから……そのとき、は……」
そのときは。
3
あなたがゾアを倒し、この宇宙に平和が訪れ、長い長い時がすぎた、そのとき。
この星に生きる者たちは空を見上げ、願うでしょう。
あなたに……会いたい、と。
ああ、009。
私たちはそうして宇宙へ飛び立ち……ここで出会ったのではないかしら。
だから。
そんな顔をしないで、009。
私たちはまた会えるのですから。
いつか……必ず。
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