今年もありがとうございました!
…ってことで「さようなら」なのでした(しみじみ)
#五段活用ではないですー。
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「本当に行っちゃうのかな…」
「…え?」
突然の彼のつぶやきが、僕のことを指しているのだとは思わなかったので、一瞬ぎょっとした。また、彼女と何かモメているのかと焦ったんだ。いや、僕が焦ってもしかたがないんだけど…。
でも、彼が心底さびしそうに見つめているのは他ならぬ僕の顔だったわけで。
「ちょっと早過ぎやしないかい、ピュンマ?まだ10月だよ?」
「予定では9月になったら帰るはずだったんだ…遅いくらいさ」
「だって。…来たのだって遅かったじゃないか」
「それは、君の…っていうか、ココの準備が遅れたからだろう?」
そうなのだ。
理由はもうひとつわからないけれど、今回、僕のメンテナンスの準備は予定より大幅に遅れてしまった。で、僕は夏の休暇を大きくずらすハメになっていた。
「せっかく涼しくなってきたのになあ…」
「たしかに、それはそうだね。この季節にココにいることってあまりないかもな、そういえば」
「もう少し待てば紅葉だってキレイになるんだぜ?」
「そりゃ、そうだろうが…紅葉かあ…ずいぶん昔に見たっけな…あの頃は、タイヘンだったから、しみじみ見ているゆとりなんてなかったけどね」
「今だってタイヘンなんだ、結局、君は。だから見ているゆとりがない」
「…まあ、そういうことか。ふふ、たしかに…」
笑いながら、僕は注意深くジョーの表情をうかがった。
帰ろうというとき、引き留められるのはいつものことだ。
それだけなら別にいいんだが…
が、やっぱり、彼の表情からは何も読み取ることができない。
彼は、どうにもとらえどころのない、ぼーっとした…それでいて、とてつもなく端正な、いつもの島村ジョーの顔をしているだけで。
「フランソワーズがさ」
「…うん」
「お別れするから次にまた会えるんだ…って言うんだよねえ…」
「…なるほど」
「時々、うらやましくなる。彼女は、どうしてそんな風に思えるんだろう?」
「そりゃ…強いからさ。だが、どうやら女性ってのはそういうものらしいぜ、ジョー」
「本当かい?」
「具体的に例を挙げろって言われたらちょっと困るけど…一般論として…だよ」
「ふうん…」
お別れするからまた会える、ね…
彼女が彼に言ったコトバと思うと、なかなか深遠で、ちょっとコワイような気がする…んだが。
でも、そっちの方面についてはまったく鈍いヤツだからな…コイツ。
「でも、ソレは、そもそも君の国の思想だったんじゃないのか?」
「え?」
「聞いたことがある…花は散るから美しいんだと…たしか、サクラのことだったと思うが」
「…ああ!そういえば、そんなことを言うかも」
「だろ?」
「でもさ、ソレって…散るっていうのは、つまり……」
しまった。
ちょっと言い損なったか。
僕はあわてて頭をフル回転させた。
「君の国は美しい。そして、優しいんだよ、ジョー…花は散っても、また咲いてくれると、みんなが信じているだろう?だから、散る花を美しいと感じることもできる…季節は必ずめぐる。人々は裏切られたことがないんだ、ただの一度もね」
「……」
「僕だって、君たちを裏切ったりはしないさ」
「…うん」
それは、嘘だ。
僕は自分でそれをわかっている。
彼だってわかっているだろう。
たしかにミッションの危険に比べれば、はるかにマシではあるけれど…
それでも、僕の国は…そして、そこでの僕の日々は、美しいとも優しいとも言い難い。
来年の今日、彼とこうして語り合うことができるのか…
できない、とは思わないけれど、できる、とも断言できない。それが、現実だ。
…でも。
「君たちが待っていてくれるなら…僕は必ず来年もこうしてここに来るさ」
「…ちょっと、遅れても…かい?」
「できたら、あまり遅れないでほしいけど」
彼がようやく笑った。
「もちろん、待っているとも、必ず」
「…ありがとう」
でも、少なくとも、信じることはできる。
僕たちはそうやって、ここまできた。
これからだって。
「さようなら、ジョー…また会おう」
「…うん」
それでも「さようなら」を言えない彼には気づかないふりをする。
僕は…僕たちは、いつもそうやって、彼に最後の荷を背負わせるのだ。
でも、だからこそ…僕はここに戻らなければならない。
何があろうと、最後の瞬間まで、僕は諦めない。
諦めるわけにはいかないんだ。
ありがとう、ジョー…009。
また会おう。
だから、今はさようなら、だ。
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