「やっぱり珍しいかな?日本の秋の花で、七草って言うんだ」
「ほう…まだ暑いのに、秋、なのかい?」
「ああ、日本人は季節の先取りが得意なのさ…もちろん、この辺ではまだまだ咲かないだろうけど…花屋には用意してあるらしくてね、フランソワーズが見つけてきたんだよ」
「面白いな…見たことのない花ばかりだ…全部わかるかい、ジョー?」
「もちろん。コレがススキで…こっちがオミナエシにフジバカマ。これは萩。青いのは桔梗。ピンクのが撫子さ」
「ふうん…あれ?6つだぞ?」
「ああ、もう一つは葛なんだけど…ちょっと花束にはしにくい花だから、入っていないんだろう」
「大きい花なのかい?」
「大きいだけじゃなくて、蔓性の植物なんだ」
「なるほど…うん、可憐だなあ…日本らしい、繊細な花だね」
「僕は、もっとハッキリした花の方が、なんていうかなあ…わかりやすいと思うけどね」
「ふふ。ハッキリした…ってなんだよ?」
「いや…バラとか、百合とかさ…いかにも花だ!って感じのがね」
「たしかにそうかもしれないが…自分の部屋に飾るんなら、こういう花の方が気持ちが休まるかもしれないぜ?」
「うーん、そうなのかな…とにかく、フランソワーズの趣味だからさ」
「そうだな、彼女らしい趣味だ…嬉しいな」
「そうかい…?」
「うん?」
「いや。コレ…彼女らしい趣味、なのかな」
「俺はそう思うけどな…違うのかい?」
「違う…とか、そうじゃなくて…ふーん、そうかなあ…?」
「ああ。そういえば、君は彼女の誕生日にカトレアを贈っていたもんな」
「…えっ?!」
「心配いらないさ。それはそれで彼女、大喜びしていたぜ?」
「ちぇっ!…女の子って、どうしてこうおしゃべりなんだろうな…!どっちみち、しかたないんだよ…だって、1月だぜ?どうしたって、温室咲きの花しかないんだから…」
「まったくだ…よかったよな、言い訳ができて」
「なんだよ、ソレ?」
「いやいや、こっちのこと…とにかく、俺は8月生まれでよかったよ…こんな可愛らしい花束がもらえるんだから」
「……」
「…ジョー?」
「やっぱり、よそう」
「は…?」
「可憐…といえばそうかもしれないけど、なんか、貧弱なんだよな…誕生日のプレゼントにしては」
「そんなことないさ…俺はすごく気にいったぜ?」
「大体、非常識なんだ。日本じゃこんな花、雑草みたいなモノなんだし…」
「ヒドイ言い方だな。別に構わないさ。俺はすごく気に…」
「失敬。もう一度、選び直させるよ…ちょっとは常識を考えてもらわないと」
「そんな、もったいないコトするなって…!第一、俺はその花束…」
「コレは僕の家に飾る。むだにはならないよ…じゃ、楽しみにしていてくれたまえ」
「だから。俺はそっちの花束の方がずーっと欲しいんだけど…って言ったら?」
「頼むから、無理を言わないでくれよ、ピュンマ」
「…無理か。いや、そうなんだろうけどなぁ…」
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