みんなでいってみよう!
その1


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4   旧ゼロ
 
フランソワーズって、こんなに強情な子だったか?
 
そうだったような気もするし、そんなことはないような気もする。
いずれにしても、今目の前であからさまにふくれっ面をしている彼女には、普段の可憐さのかけらもない。
ジョーはうんざりしながらも、辛抱強く繰り返した。
 
「いいかい、003……君は、ここに残るんだ」
「イヤです」
「君には、ここでしなければならないことがたくさんある……何よりギルモア博士の片腕になってほしいし」
「ここには、優秀な研究員さんがたくさんいるわ」
「あのイシュメールには、高性能のレーダーだってあるんだぞ。君の能力などおよびもつかないくらいの」
「船を下りたら役に立たないでしょう?」
「あのな、003」
「何を言ってもダメよ、009。私だけを置いていくなんて、あんまりだもの」
「だから、今度のは君が耐えられるような戦場ではないんだよ」
「見たこともないくせに」
「サバの話から想像しただけで十分さ」
「そうよ…!サバも、007も行くんじゃない。あんな小さい子供を連れて行くのに、私は駄目、なんておかしいわ」
「サバは大事な案内人だし、007だって立派な戦士だ。でも、君は女の子じゃないか!マトモに戦えるもんか!」
「まぁっ!」
 
フランソワーズはきっとジョーを見返した。
その澄んだ瞳の奥に光る強烈な……しかし美しい怒りのゆらめきに、ジョーが思わず息をのんだ瞬間。
焼けるような痛みが頬に叩き付けられた。
 
「……っ!な、何をするんだ!」
「まあ。その女の子の平手打ちを避けることもできないなんて。エラそうにしている割には、ずいぶんお粗末なサイボーグだこと」
「何、だと…!?この、お転婆っ……え?」
 
かっとなり、咄嗟に勢いよく手を振り上げたジョーは……固まった。
フランソワーズが大きく見開いた目からぽろぽろと涙をこぼしているのだった。
 
「ひどいわ、ジョー」
「……フランソワーズ?」
「私だけ、置いていくなんて……だって、あなたは、死ぬつもりなんでしょう?」
「いや……それは」
「私をひとりぼっちにするつもりなんだわ……あなたも、みんなもいない世界でひとりで生きていけっていうのね」
「ひとりぼっちなんかじゃないだろう…?君にはたくさん友だちが……」
「あなたたちより大事な友だちなんていない……!ええ、あなたには、わからないでしょう、009……あなたには、たくさん守りたいものがここにあるんですもの。守ってあげたい大事な人だって……たくさん……でも、私には」
「フランソワーズ……そんなに泣くなよ……頼むから」
「ジョーの意地悪……いいわ、私、ジェットにお願いする」
「は……?」
「ジェットは優しいもの。きっとわかってくれるわ」
「……ちょっと、待て、よ…!」
 
ジョーはかけ出そうとするフランソワーズの腕を素早くつかみ、引き寄せた。
じたばたもがく彼女を、とりあえずおとなしくなるまで抱きしめておく。
 
「馬鹿か、君は。……こんなハナミズだらけの顔で泣きつかれたら、ジェットもいい迷惑だろ?」
「イヤ、離して……ジョーなんて大嫌い!」
「はいはい……いいから、まず顔をふけって……ほら」
 
大きなハンカチでごしごし顔をこすられ、フランソワーズは恨めしそうにジョーを見上げた。
その目にまた大粒の涙が浮かぼうとしているのに気づき、ジョーは完全に脱力した。
 
「ああ、もう……っ!わかったよ、連れて行けばいいんだろうっ?!」
「……ジョー……本当?」
「どうなっても、知らないからな!」
「ありがとう……!」
「――っ!」
 
不意に首に抱きつかれ、ジョーはまた大きな溜息をついた。
 
――本当に、君ときたら。ヒトの気もしらないで……!
 
003を連れて行かない、ということを可能にするために、ここまでどれだけ苦労したか、思い出すと気が遠くなりそうになる。
それでも、連れて行かないと決めたのだ。
 
――君には、待っていてほしかった。ここで……この、故郷の星で。
 
そうすれば、どんなにくじけそうになっても、勇気を奮い起こすことができると思った。
邪悪なモノたちに屈することなく、生きて帰るための勇気を。
 
――でも、まあ……いいか。
 
しかたない。
とにかく、勝てばいいのだから。
地球にいようと、傍にいようと、彼女を守らなければならないことに変わりはない。僕たちは必ず勝つ。
 
つまりそういうことだ、と009は決意を新たにするのだった。


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