「さすがねえ、ジョー……」
「……え?」
003が水色の澄んだ瞳をきらきらさせて見上げている。
009は混乱した。
「見て。あの人たち、すっかり慌ててるわ。……まさか、あなたがあんなことを言うなんて思わなかったのね」
「……」
「でも、うかつな人たちね。あなたがレーサーの島村ジョーだって、わかっていなかったのかしら?」
「……あ!」
しまった、と009は動揺した。
自分自身それをわかってはいなかった。
「フランソワーズ、今の……生中継だと思うか?」
鋭く耳打ちされ、003は素早く目と耳を使った。
「いいえ。そういう装置ではなさそうよ」
「そうか。……ちょっと待っててくれるかな」
傘を渡されるのかしら……と思った次の瞬間、背後で何かが壊れる派手な音と悲鳴が起きた。
そして。
はっと003が振り返るヒマもなく、取り落としかけた傘の柄を009の手が再び握っていた。
「これでよし」
「まあ。……乱暴ね、ジョー」
「乱暴なのはヤツらの方さ。雪で困っているごく普通の通行人にマイクを向けていきなり話しかけるなんて」
「そうね……うふふ、あの人たち、運が悪かったわね……普通じゃない人に話しかけちゃうなんて」
「……え」
「でも、ジョーにあんな素敵な切り返しができるなんて思わなかったわ。ジェットなら簡単に言うでしょうけど。世界のトップで活躍している人って、いざというときにはスゴイのね」
「……」
なんでジェットが出てくるんだよ?
というか、そうか、要するに僕は彼女にナメられてたってことなんだ。
まあ、無理もないけど。
「困っている人もたくさんいるんでしょうけれど、本当に素敵な雪……あなたが言うとおり、特別な気分になれるわ」
だから、かな。
君も、いつものはにかみ屋には見えないような気がするよ。
たしかに、雪は特別なモノなのかもしれない。
……だったら。
009は003の肩をそっと抱き寄せた。
一瞬たじろいだ気配はすぐに緩んで、亜麻色の髪が甘えるようにもたれかかってくる。
何十年ぶりとかいう雪の日に、こうして君とひとつの傘の下にいる。
これ以上特別なことはないね、フランソワーズ。
もう少し、この気持ちを味わっていたい。
君も、そう思ってくれているのかな……?
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