ねえ、イワン、聞いてくれる?
アオモリに住んでいらっしゃるギルモア博士のお友達から、リンゴがひと箱届いたの。
開けてみたら、とってもおいしそうな真っ赤なリンゴがいっぱい!
私、うれしくなって、新しいカゴにきれいに盛りつけたの。
それを、テーブルの上に飾って…
うふふ、ごめんなさい。
イワンにもこれからちゃんとジュースを作ってあげるから、ちょっと待っててね。
それでね。
せっかくの素敵なリンゴでしょう?
どうやって食べようかしら…って考えたわ。
ジェットはアップルパイ、って言うでしょうね。
ちょっと面倒だけど、久しぶりにタルトタタンを作ってもいいかなあ…なんて。
焼きリンゴも大好きだし……
でもね、まず新鮮なトコロをフツウに切っていただきましょう、って思って。
この間張さんに教わった飾り切りも試してみたかったし。
…そうしたらね、ジョーが。
ふらあ、って食堂に入ってきて、何にも言わずにそのリンゴをひとつとって、シャツでごしごしってこすって、いきなりかじりついたのよ!
あっけにとられて眺めちゃった。
そうしたら、すごーく不思議そうに、「あれ?食べちゃいけなかった?」ですって。
それで、やっと声を出すことができたわ。
「まぁ、ジョーったら!今むこうとしてたのに…」
でも、それぐらいで何かを考えてくれる人じゃないでしょう?
案の定、こうよ。
「だって、こうやって食べた方がおいしいよ」
…ですって!
もう、がっかりしちゃったわ!
おまけに、すごーく得意そうに言うのよ。日本のリンゴはおいしいから、ヨーロッパやアメリカみたいにぐちゃぐちゃ煮たり焼いたりする必要なんかないんだ…ですって!
なんて失礼なの!
でも、ね、わかるでしょ?
そうやって私がぷりぷり怒っても、全然平気なのよ、あの人って。
笑いながらリンゴをもう一つとって、またシャツでごしごしってこすって、今度は私に差し出したの。
「嘘だと思うならキミも食べてごらん」
ええ。
食べたわよ。
だって、食べるしかないじゃない。
そうしたら…。
ああ、もうっ!
ホントにおいしかったの!
何よ、笑うことないでしょ、イワン!
とにかく、もうジョーには焼きリンゴもタルトタタンも絶対作ってあげないの!
飾り切りだって見せてあげないんだから!絶対!
ホントに、絶対よっ!
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