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介護のお仕事 街頭インタビュー 百合男子?


 1    旧ゼロ
 
ごくフツウのコドモとしての007にとって「お出かけ」というものは、ごくフツウのコドモがそうであるように、心躍るものだ。
…が。
彼の場合、やはりどうしても、ごくフツウのコドモであるわけにはいかないような事情というのがあって。
 
たとえば、009とごくフツウに「お出かけ」を楽しんでいただけのはずなのに、いつの間にか強盗事件に巻き込まれていたり。
いや、正確にいえば、自分たちから巻き込まれにいった…ということになるのだが、もちろんそれは彼らがサイボーグ戦士である以上、仕方のないことだ。
それに、そういうリスキーな生活には、時折思いがけない幸福な時間が織り込まれていたりもする。
 
たとえば、そのとき強盗犯に人質にされた少女と、彼女を捨て身で助け出した若く勇敢な警察官がその後恋に落ち、事件の数ヶ月後、めでたく結ばれる…なんてことがあって。
で、その結婚式に招待される…とか。
 
二人を助けた恩人として招待されたのは007だったが、本当のところ、主に活躍したのは009だった。
が、彼のやり方があまりにも素早く巧妙だったので、件の警察官はそれを007の機転のおかげと勘違いしてしまったのだ。
 
※※※
 
「うーん、やっぱり、オイラ気が進まないなあ…ホントの恩人は009なのに…」
 
003に蝶ネクタイを結んでもらいながら、007はまた溜息をついた。
 
「まだそんなこと気にしているのか、007?…いいんだよ。第一、僕たちがやったホントのことをあの人たちに全部知られてしまうのはマズイじゃないか」
 
009は鷹揚に笑った。
003もうなずき、007の額に軽くキスを贈った。
 
「そうよ…さあ、できたわ…!どこから見ても立派な紳士ね」
「へへっ…そうかなあ…?」
「うん、上出来上出来!男前だぜ、007…じゃ、そろそろ行くか。遅れるといけない」
「ええ…お行儀よくするのよ007。私たちは教会の外で待っているわね」
「わかってるって!ありがとう、003…009」
 
※※※
 
結婚式、というのは本当に結婚式で、いわゆる披露宴ではなかった。
正直、ごちそうがないのはつまらないなあ…と思っていた007だったが、教会の荘厳な雰囲気と、美しい花嫁にすっかり心を奪われ、いつのまにかそんなことは忘れてしまった。
愛を誓い合う二人のために心をこめて賛美歌を歌い、退場のときは手が痛くなるほど拍手を贈りながら、007はなんともいえない幸福感を味わっていた。
 
※※※
 
「あ、003ー!」
 
教会から少し離れた駐車場に停まっている009の車と、その傍らに立つ003をみとめると、007は大きく手を振った。
笑顔で手を振り返す彼女に駆け寄ると、007は式場でもらった小さい白い花を差し出した。
 
「ほら…これ、もらったんだ…あげるよ」
「まあ、ありがとう…花嫁さんのブーケと同じ花ね」
 
003は嬉しそうに花を受け取り、胸のポケットにそっと挿した。
その様子に、007はかなり満足した…が。
 
「あれ?…アニキは?」
「ふふ、何か見つけたみたい…走っていっちゃったわ。見てらっしゃい、そのうち、おーい、こっちにきてみろよーって呼ぶに決まってるから」
「へえ…?何を見つけたんだろう?」
「おーい、003!こっちにきてみろよー!」
「…ほら!」
 
くすくす笑う003の後ろでぴょん、と飛びはねてみると、教会を見下ろす丘の上で、009が何かぐるぐる腕を回して呼んでいる。
 
「何かしら…行ってみましょう」
「うん!」
 
※※※
 
丘を登っていくと、009は上機嫌で二人を迎えた。
 
「今日は大安吉日なのかもな」
「タイアンキチジツ?」
「結婚式をするのに縁起のよい日ってことさ…ほら、またひと組始まるみたいだぜ。こっちはガーデンパーティかな」
「まあ…!ジョーったら、何かと思ったら、のぞき見…?」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ…花嫁さんをもっと見たいな…って言ったのは君だろう?…それに、ここはそんな、後ろ暗い場所じゃないぜ…ごらんよ、ベンチもちゃんとある」
「ホントだ…!」
 
たしかに、そこは広々とした明るい公園になっていた。
二人はただ009の立っているところに向かってまっすぐに、道もない傾斜地を無理矢理よじ登ってしまったのだが、反対側にはきれいな散歩道も、教会の方角へ向かってゆったりとなだらかについている。
 
「どうだい?君の目なら、花嫁さんもよく見えるだろう?」
「もう…仕方のない人ね」
 
苦笑しながら、003はベンチに腰を下ろした。
その胸に白い小さな花が揺れているのにちょっと目を細め、009も教会のこじんまりした庭園を立ったままで見下ろした。
 
「なんて、幸せそうな花嫁さん……」
 
細い声に、ぼーっと下を眺めていた007はハッと顔を上げた。
003が夢見るようなまなざしで庭園を見つめている。
 
「とっても、きれい……うらやましいわ」
 
003の澄んだ声に、悲しみの影はまったく差していない……のに、007の胸はなんとなく痛んだ。
さっきの花嫁の輝く笑顔を思い出す。
 
うらやましい、か。
そうだよね…オイラたちは…人間であって人間ではない、サイボーグなんだ。
オイラや009はそれでもいいけど、003は女の子なのに……
 
ふと物思いに沈みかけた、そのとき。
009がいきなり言い放った。
 
「きみだって、きっとすごくきれいな花嫁さんになると思うよ」
 
※※※
 
ぎょっとした007が、思わずばっと振り向くと、009は屈託のない笑顔を003に向けている。
 
あ、アニキ…っ?
何、言い出すんだよ!
 
叫ぼうにも声が出ない。
ただ口をぱくぱくさせる007に構わず、009は嬉しそうに003を見つめている。
まあ、と言ったきり、003はたちまち頬を桜色に染めてしまった。
 
「君だったら白無垢だって着こなせるかもしれないな」
「シロムク…?」
「日本風の花嫁衣装のことだよ。白無垢に綿帽子…ってね」
「日本の花嫁さんも白い服を着るの?」
「…とは限らないか。赤や金色の着物を着るときもあるし。着物のあと、ドレスを着たりもするんだ。お色直しっていってね」
「なんだか、楽しそう…ここの花嫁さんたちとは少しちがうのね」
「結婚式にもいろいろあるってことさ」
「…そうね」
 
とりあえず003がにこにこしているんだからいいか、と007は息をついた。
009が何を考えているのかは全然わからないが、オトナの事情にコドモが口出しをしてもいいことはないし。
 
…とは思ったものの、やはり、どうしても言っておきたい気がして、007はこっそり009の袖を引っ張った。
 
「…うん?」
「アニキ…いいのかい、あんなこと003に言っちゃって…!」
「何か…悪かったか?」
「悪くは…ないけど。でもさあ、アニキ、忘れてるんじゃない?結婚式ってのはさ、花嫁さんだけじゃできないモノなんだってこと」
 
009は一瞬怪訝そうに007を見つめ、ほどなくくすくす笑い出した。
 
「そりゃそうさ…だけどな、007。男なんて、結婚式ではただの添えモノなんだぜ。何も気にする必要はないんだよ」
「…………」
 
 
気にする必要はない…って。
そういうこと?
…いや、どういうこと?
 
 
やっぱり、全然わからないんだけど、アニキ!
 
 

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