「ジョー、間もなくスターゲートに到達するわ」
「早いな」
思わずつぶやいてしまった。
フランソワーズがくすくす笑う。
「ホントね…邪魔がないと、こんなに楽なものなのかしら」
「宇宙機雷があったのって、この辺りだったよなあ…まさか、残っていたり…」
「たぶん、大丈夫よ…万一のことがあっても、コーティングをあのときよりずっと強化してるから、ダガス製の旧型爆弾に攻撃されたぐらいでは何の問題もないんですって」
「技術革新ってことか。僕達の星とはちょっとスケールが違うが…」
宇宙船の性能も、おそらくイシュメールより段違いに良い。
もっとも、完全自動操縦で動いているので、操作によってジョーがそれを実感することはできなかったのだが。
※※※
あの宇宙での戦いから数年後。
例の国際宇宙科学研究所の上空に突然現れ、海中に沈んだ未確認飛行物体は、どーみても、あまりにも、あのイシュメールによく似ていた。
かなり小型だったものの。
そんなわけで、一応サイボーグたちにスクランブルがかかったのだが、やはりいまひとつ緊張感には欠けるトコロはあった。
何しろ、今回はイワンも、宇宙船の沈んだ海を前に予知ひとつせず、ひたすらくうくう寝ているだけで。
とりあえず、すぐにかけつけてきたのはジョーとフランソワーズだけだった。
結果としてはそれで十分だったのだが。
二人が到着すると、それを待っていたかのように…実際待っていたにちがいないのだが…未確認飛行物体は、海面に姿を現し、ふわりと浮かび上がった。
さすがに息をのんだ二人を、突然閃いたまばゆい光が包み込み……
次の瞬間、二人は未確認飛行物体の中に移動させられていた。
というか、その時は既に未確認飛行物体ごと、宇宙空間に放り出されていた…のだった。
「ジョー、フランソワーズ!お会いしたかったです!僕を覚えていますか?コマダー星のサバです!」
何がなんだかわからず、コックピットらしき場所で呆然としていた二人を、凛とした声が迎えた。
そして、中央に、なんとなく見覚えのある宇宙人が姿をあらわし…
…と思ったらやっぱりホログラフィなのだった。
※※※
サバ(のホログラフィ)は、強引に二人を宇宙へ連れ出したことをまずは詫びた。
「本当に申し訳ありません。お二人にはご都合もあったと思うのですが…でも、フツウにご招待しても、あの…たとえば、何かの罠かと思われてしまったりするかもしれないし、それを解きほぐすのは大変なことのような気がしたし、全ての地球人の皆さんへの影響を考えると、ますます大変なことになりそうで…」
「いいのよ、サバ…それより、何があったの?…今度は私たち、二人だけなのよ。それでお手伝いできるようなことなら…いいのだけど…」
変わらぬフランソワーズの優しさに救われた…ように、サバはにっこりと微笑んだ。
「いえ、大丈夫です。戦いではありません。実は、僕、結婚するんですが…」
「結婚って。…君が?」
「はい…いやだな、ジョー!僕だっていつまでも子供ではありませんよ!」
ええと。
それは、そうなのだが。
つまり、サバはジョーとフランソワーズの二人を、復興を遂げたコマダー星で挙げることになった自分たちの結婚式に招待したい…ということのようなのだった。
「まあ、素敵…嬉しいわ、サバ、ありがとう…!」
「ああ!喜んでいただけたのなら、僕の方こそとても嬉しいです!」
「…でも…それなら、みんなを呼べればよかったわね…」
「いえ。他のみなさんには申し訳ありませんが、僕はお二人に是非起こしいただきたかったのです」
「お二人…って。私たちのこと?」
「はい!」
週末、友達の結婚式に招待されて、新幹線に乗っているトコロ…というような雰囲気で、楽しそうにホログラフィと話し続けるフランソワーズに、ジョーはひそかに舌を巻いた。
実際、彼女の適応能力には驚かされることも多いのだ。
※※※
スターゲートに到達するのもあっという間だったが、その通過も、前のときよりずーっと楽だった。
もちろん、出口で待ちかまえるダガス軍団などいない。
…で。
スターゲートを出た、となれば、当然、例の星が近くにあるはず…なのだけど。
ジョーはひたすら沈黙を守った。
サバが組んだという航行プログラムも、無駄な寄り道をするようにはなっておらず。
宇宙船はただぐんぐんコマダー星を目指しているだけのようなのだった。
当時、ナビゲーターをつとめていたフランソワーズには、もしかしたら例の星がどこにあるのかわかっていたのかもしれない…が。
彼女も沈黙を守った。
そして。
沈黙のうちに、宇宙船はどうやらコマダー星に到着したようなのだった。
宇宙船は少しずつ高度を下げ、地表に近づいていった。
で、ナスカの地上絵のようなものが見えてきて。
ああ、あそこなんだろうな…とジョーが思ったトコロにキレイに着陸して。
思った通り、着陸するなり、ずぶずぶと地面に沈んでいったのだった。
「着いた…らしいな」
ジョーは一応スーパーガンを抜き、フランソワーズを後ろに庇うようにして、宇宙船の出入口と思われる場所(何しろそこから入ったわけではなかったので)に慎重に近づいた。
ここまで来て、今さら罠だったとしても何もかもどうしようもないというか、そもそも何の罠だかよくわからないのだが、とりあえず戦士としてはそう動かざるを得ない。
フランソワーズもその辺りは心得ていて、ジョーの背後にぴったりと寄り添い、油断なく前方を見据えているのだった。
「なんだか、久しぶりね…こういうの」
「フランソワーズ、君…もしかして、面白がってる?」
※※※
今さら罠であるはずもなく。
宇宙船を出た二人を、陽気な破裂音と色とりどりの無数のテープのようなモノが賑やかに迎えた。
咄嗟にスーパーガンを構えそうになったジョーを慌てて後ろから抑え、フランソワーズは正面で両手を大きく振っているコマダー人の若者に華やかな笑みを投げた。
「サバ!」
「フランソワーズ!ジョー!…ようこそ、コマダー星へ…!」
そのままお互いに駆け寄り、堅く抱きしめ合う二人を、ジョーは深呼吸しながら見つめ…ゆっくり銃をホルスターに納めた。
「立派になったな、サバ…!」
「ああ、ジョー…!本当によく来てくださいました!どんなに、お会いしたかったか!」
黒い目にじわりと涙が浮かぶ。
ふと、あの弱々しい少年の怯えたまなざしが胸をよぎり、ジョーはサバが差し出した右手を、しっかりと両手で握りしめた。
「お二人とも、長旅でお疲れになったことでしょう。どうぞ、こちらへ…十分ではありませんが、今のコマダー星での精一杯のおもてなしをさせていただきたいのです」
「そんなに気を遣わなくていいのよ、サバ…」
「そうさ。僕たちは、戦場で命を分け合って、共に寝起きした仲間じゃないか」
「…は、はい!」
※※※
サバの采配で完璧な地球型ディナーがふるまわれた…後、二人が通された部屋は、実に快適な空間だった。
扉を開けた瞬間、何とも言えない柔らかな空気に包まれ、身も心もくつろいだ気分になれる。
使い心地のよさそうな家具も配置され……家具、も。
「…コレ、一つだけ…なのかな」
ジョーがふとつぶやくと、フランソワーズも曖昧な表情で、窓際に置かれた大きなベッドらしき家具を見つめている。
二人どころか、五人で寝ても大丈夫そうな大きさの、実に大きい……
…でも、一つだけしかないのだった。
イシュメールには、一人用のキャビンに一人用のベッドが用意されていた。
それほど長い期間暮らしていたわけではなかったし、命を削る戦いの中でそんなことを気にしたこともなかったのだが、コマダー星の生活習慣は地球のソレとさほど変わりないように思っていたのだ。
ということは、つまり…僕たちは、そういう…ひとつのベッドでやすむのが当然の間柄だと思われている、ということなんだろうか。
たぶん、そうなんだろうな。
不意になんだか心細くなって、ジョーは傍らのフランソワーズにちらりと目をやった。
彼女の横顔はいつも清らかで美しい。
それが、無性に苦しい。
触れては、いけないひと。
そう思い出してしまうのは、ここが戦場ではないからにちがいない。
あの戦いの後、つかの間二人ですごした、パリの町がそうであったように。
「コマダー星でも、恋人たちはこういう部屋で、二人…夜をすごすのかしら」
澄んだ声に、ジョーは我に返った。
フランソワーズが、透き通るような微笑を向けている。
恋人たち、か。
後悔はしていない。
この微笑を守るために、僕は戦うのだから。
限りなく清らかで、得難い…
宇宙を統べる力をもってしても、得られはしなかった…この、微笑。
ジョーは、無言のままフランソワーズに笑顔を返し、つかつかとベッド…らしき家具へと歩み寄ると、窓側の端に横たわった。
そのまま静かに目を閉じている彼をしばらくじっと見つめ、それから、フランソワーズはそうっと反対側の端に腰掛けて、彼と同じように横たわり、目を閉じるのだった。
※※※
翌朝。
やはり地球型の朝食が部屋に運ばれてきた。
テーブルを整えながら、メイドらしいコマダー人の少女は、式場への迎えがくる時刻を二人に告げた。
結婚式に出席するというのに、着の身着のままの防護服姿でいいのだろうか、とフランソワーズは危ぶんだ…が、尋ねられたメイドの少女は愛らしく微笑し、とてもお似合いの美しいお召し物ですわ、と答えた。
そもそも、コマダー星の人々の服装…といっていいのかどうかはともかく…は極めてシンプルだったし、TPOに合わせて着替えている、という感じでもない。
また、サバにしてみれば、防護服はサイボーグたちの「正装」ということなのかもしれなかった。
時間どおりに訪れた迎えに導かれ、同じ建物内にあった結婚式場に入ると、その大きな美しいホールは、床も壁もクリスタルでできていた。やはり、どこかイシュメールを思わせる曲線の作りになっているのが興味深い。
サバは晴れやかな笑顔で二人を出迎え、他の招待客とは少し離れた席へと案内した。
やはり、結婚式だからといって特に変わった装いをする…ということではないようだった。サバは昨日からの姿のままだったし、花嫁の女性もたぶんそうなのだろうとジョーは思った。
招待客はかなり多い。
サバの亡父、コルビン博士の人脈なのか、それともコマダー星復興のため働いてきた彼自身を慕う人々なのかはわからない…が。
荘厳な雰囲気の中、次々に立ち上がり、惜しみなく祝福の言葉を述べる彼らの姿に、ジョーは覚えず胸を熱くするのだった。
「よかったわね……サバ」
囁くような声に、振り返った。
フランソワーズが幸福そうに微笑している。
ジョーは黙ってうなずき、そうっと彼女の手を握りしめた。
はにかんで頬を染めたフランソワーズだった…が。
不意に、その横顔に緊張が走った。
「…どうした、フランソワー…っ!」
素早く彼女の視線を追ったジョーも、ぎょっと息をのんだ。
ひときわ大きくなった拍手の中、ゆるやかに立ち上がり、祝辞を述べ始めた、何人目かの招待客は…
例の、紫の長い髪を垂らした美女だったのだ!
※※※
うーん。
生き返っていたのかー。
と、ジョーはファンタリオン星の美しい女王をぼーっと見つめていた。
あのボルテックスの中で、彼女のことを思ったのかどうか、いまいち自覚はなかたのだが…どうやら、ちゃんと思っていたらしい。
タマラは、ダガス軍団との長く苦しい戦争を振り返り、それを集結させた勇気ある若き英雄、サバに惜しみない讃辞と祝福を贈った。
ファンタリオン星は、コマダー星と古くから強い友好関係を結んでいる…ということだったが、人々が彼女に寄せる敬意も並々ならぬものであるらしく、彼女の堂々たるスピーチが終わると、しばらくは拍手が鳴りやまなかった。
で、ソレがどうやらひとつのクライマックスだったらしい。
嵐のような拍手が収まり、タマラが席につくと、式場にはゆるやかな音楽が流れ始めた。
やがて、人々は気楽に立ち上がり、談笑し、時にはサバたちの席へと歩み寄り……
このままココに座っていていいものなのかどうか、ジョーはちょっと迷った…が、席は少し高いトコロにしつらえられている。
もちろん、飛び降りることは造作もなかったが、それが礼儀にかなうものなのかどうかまではわからない。
とりあえず、おとなしく座っていることにしよう、と思ったのだった。
…すると。
ふわ…っと、覚えのある芳香が立ち上ったかと思うと、いきなり目の前にタマラが現れたのだった。
思わず後ずさりしそうになりながら、ジョーがおそるおそる隣を見やると、フランソワーズも大きく目を見開いて呆然としている。
こっそり深呼吸してからよーく見ると、タマラは空中にふわふわ浮いているのだった。
さらによーく見ると、やっぱりホログラフィだったりして。
本体の彼女はというと、遠くで誰かと談笑中だったりするのだった。
さすが超能力者だなー、と、ジョーはむやみに感心した。
「009、003…お会いできて、本当に嬉しいですわ…みなさんのおかげで、ファンタリオン星は元の姿に戻りつつあります。この、コマダー星のように」
「そ、それは…よかった。僕達も嬉しいよ、タマラ」
「009…」
タマラはふっと憂いを帯びた微笑を浮かべた。
「あなたは、少しも変わっていらっしゃらない…こんな姿で、本当に失礼だと思うのですが…でも、わたくしはまだ、あなたがたの前にきちんと立てる自信がないのです…」
「…タマラ」
「でも、こうしてお会いできてよかった…サバに感謝しています。お二人とも、ごきげんよう…どうか、お幸せに」
あ、と思う間もなく、タマラの姿は消えてしまった。
慌てて本体のほうを見やると、彼女は何事もなかったかのように穏やかに談笑を続けているのだった。
※※※
何がどう進んでいるのか、いまひとつ飲み込めないトコロもあったが、どうも、祝宴はそろそろお開きになりかけているらしく、人々は何となく席に戻り始めた。
やがて。
サバが静かに立ち上がった。
「みなさん!…今日は本当にありがとう。僕達は、これから二人助け合いながら、素晴らしい人生を築き上げていきたいと思います。そして、僕達にこうした希望を与えてくださったのは、ここにお集まりのみなさんと…かつて、ダガス軍団との戦いにおいて、僕に惜しみなく力を…命さえも与えてくださった、地球のみなさんです…ジョー、フランソワーズ!」
いきなり、照明が落ち…次の瞬間、ジョーとフランソワーズの席に、まばゆいスポットライトが浴びせられた。
万雷の拍手の中、サバとその花嫁が、それぞれ何か大きなモノを抱えて歩み寄ってくる。
花束…のようなのだった。
「みなさん、改めてご紹介します!このお二人が、今の僕にとっては父であり、母である方々なのです…!勇敢なるジョー、そしてフランソワーズ!僕達は、今、ここにあなた方にかけて誓います…あなた方がそうであるように、僕達の愛も永遠であることを…あなた方がそうであるように、互いにいたわり合い、慈しみあって、幸福な家庭を築き上げることを…!」
サバの目にも花嫁の目にも涙が浮かんでいる。
割れんばかりの拍手の中、サバはフランソワーズに、花嫁はジョーにソレ…たぶん、花束…を捧げた。
招待客たちが、感極まったように何か叫び始め……。
ほどなく結婚式は、感動と興奮の渦巻く中、その幕を下ろしたのであった。
※※※
「…なんだか、スゴかったなあ…」
ようやく部屋に戻ったときは、真夜中になっていた。
式の後も、サバやその友人たちにどーしても離してもらえず、いわゆる二次会三次会へと連れて行かれてしまったのだった。
陽気で気持ちのいい若者達ばかりだったから、愉快な席には違いなかったが…
さすがに、疲れた。
ジョーとフランソワーズは、例のベッドに寄り添い合うように腰を下ろし、どちらからともなく小さい溜息をついていた。
「私たち、すっかり夫婦だと思われていたわね…」
「うん」
いつもなら、誤解を解こうとそれなりに焦るのだが、今回はそんな気も起きないほど、サバたちの勢いは圧倒的だった。
どのみち、二度と会わないだろう、星の彼方に住む若者達なのだ。その一生一度の佳き日に、わざわざ水をさすこともないだろう。
「それどころか…誓われちゃったなあ…僕達にかけて…って」
「そうね…よかったのかしら」
「どうかな…」
そのまま口を噤むジョーを、フランソワーズは気遣わしげに見つめた。
が、やがて、彼はふっと可笑しそうな笑みを浮かべた。
「よくわからないけど…少なくとも、永遠…ってトコロは間違いなかったんじゃないかな」
「……」
「…そうだろう?」
フランソワーズも思わず微笑し、小さくうなずいた。
「…そうね」
「どんな、永遠になるんだろう…」
囁くように言いながら、ジョーはフランソワーズを抱き寄せ、そのままベッドに転がるようにして押し倒した。
「サバも、今頃…こんな風にしているのかな」
「…見てみましょうか?」
いたずらっぽく微笑むフランソワーズに苦笑しながら首を振り、ジョーは抱きしめる腕に力をこめた。
「よしてくれ。それより…地球に帰ったら…僕と一緒に日本に行こう」
「…日本、に?」
「ああ…僕の家に。君の部屋も作ってあるから…今度は大丈夫だよ」
「今度は…って。ジョーったら…!」
くすくす笑うフランソワーズの唇を半ば強引に奪いながら、ジョーは彼女のマフラーをするりとほどき、ベッドの下に落とした。
「もしかしたら…これって、プロポーズ、なの?ジョー…どうして…今になって…」
「…わからない」
「まあ…!」
「ごめん…フランソワーズ…でも、これだけは確かだ。僕には…僕達には…」
…永遠が、ある。
※※※
二人を国際宇宙科学研究所がある砂浜に下ろすと、コマダー星の宇宙船はたちまち空の彼方へ消えていった。
それを見送りながら、ジョーはぽつりと言った。
「あのとき。あそこには…すべてがあった」
「…ボルテックス…のこと…?」
「うん。僕は、あそこで、すべてを見た…そして、祈った」
「……」
「かなえられた祈りもあった…けれど、そうではない祈りもあった」
「え…だって…ボルテックスは…」
「そうだね…全てに超越する生命体…コズモ博士はそう言ってたっけ…それと一体になったんだ。かなわない祈りなんて、あるはずない…のかもしれないけれど…でも」
どんなに強大な力を集めても…どんな奇跡を起こす力を得たとしても…
それは、つまり僕一人の力でしか、ない。
僕が求めるのは…本当に、求めるのは。
ジョーは黙ったままフランソワーズの手をそっと握りしめた。
「うん…僕は、ただ、祈らなかっただけなのかもしれない…祈っては、いけない気がしたのかも…しれないな」
「…ジョー?」
でも、後悔はしていない。
祈らなくてよかった。
「いいさ。かなわない祈りを持っているのも…悪くないかもしれないだろう?」
「…そう、かしら」
「フランソワーズ…日本に、来てくれるかい?僕と、一緒に」
「……」
フランソワーズは微笑み、静かに首を振った。
「…そうか」
「でも、会いに行くわ」
「いつ…?」
「いつでも。あなたが、会いたいと思ってくれたときに…だって、」
その先の言葉を唇で塞ぎ、ジョーはフランソワーズを引き寄せると、力のかぎり抱きしめた。
サバ、見えるかい…?
これが…永遠だ。
君が誓ったように、僕も誓おう。
遠く星の彼方の君たちにかけて。
僕は、この人を追い続ける。
愛し、求め続ける。
どこまでも…いつまでも。
いつか、僕の命が朽ち果てるその日まで。
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