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1      平ゼロ
 
赤ん坊の泣き声と「元気な男の子ですよ!」という看護士の言葉を確かめてから、グレートは注意深く天井裏を走り抜けた。
物陰で変身を解き、病院を出て駐車場に向かう。
 
クルマの中では、ジョーがじーっとうつむいていた。
待ちくたびれて寝ているのかと思い、ドアを叩くと、怯えたように顔を上げる。
どうやら、祈っていたらしい。
 
「007!…赤ちゃんは…」
「大丈夫。いましがた、無事に生まれたよ。母親も元気だった」
「そうか……よかった!」
 
本当によかったのかどうか…と考えると、行きずりの自分たちが見ても、難しいコトがいろいろありそうな女性だったが。
それでも、ジョーの心底ほっとした表情を見、さっきの産声を思い起こすと、たしかによかったのだ…と思えてくる。
 
「オマエ、なんだかんだいってもクリスチャンなんだな、009?」
「…え?」
「いや、いざというときはやっぱり神に祈るのか…と思ったのさ…003みたいに。そういえば、神父に育てられたんだっけな…ってことはオマエ、カソリック教徒か?」
「あ…いや、そうじゃないよ……祈っていたといえばそうだけど…ほら、コレ」
「…ん?」
 
ジョーが差し出した奇妙な小袋を、グレートは首を傾げつつ受け取った。
光沢のある白い布に、何か刺繍がしてある。
 
「…犬の絵か、コレ?」
「うん…ちょっと、かわいいだろ?…お守り袋っていうんだ」
「ふむ?」
「日本人は、こういうのをお寺や神社でもらって、身につけるんだ。そうすると願い事がかなったり、災難を逃れたりすることができると信じられている」
「ほう?…なかなかユニークな宗教だな」
「宗教…ってほどじゃないと思うけどね…コレは、安産のお守り。犬の絵がついてるだろ?犬は安産だから…ってことらしい」
「ふーん…犬は安産、か…なるほど。だが、オマエ、なんでそんなモノ持ってるんだ?出産の予定でもあるのか?」
「まさか。フランソワーズにもらったんだ」
「…は?」
 
どこでどう聞いたのかわからないが、フランソワーズは「お守り」というものがあるのを知ったらしく、あるとき突然、ジョーにソレを渡したのだという。
 
「たぶん、ボクが犬を好きだから…って思っただけじゃないかな。お守りにいろんな種類があることなんて、フランソワーズは知らなかったんだよ、きっと」
「……ふむ」
 
なるほど、と、グレートは口の中で言った。
身につけるのなら、本人が「好きなモノ」である方がいいだろうし…なによりも。
 
しばらく前に、ジョーが…というか、ジョーの飼っていた犬が或る「事件」に関わり、結果として彼自身の手でその犬を殺さなければならなかった…という話を張々湖から聞いていた。
フランソワーズは、彼の身を守るモノとして、その犬のことを思い起こしたのだろう。
 
「このお守り、ずいぶん遠い所にある神社のモノなんだ…フランソワーズは、用事のついでに寄ってみたっていうんだけど…どうして一人でそっちの方まで行かなきゃいけない用があったのかは教えてもらえなかった。心配する必要はないんだろうけれど」
「……」
 
用があるとするなら、つまり、そのお守りとやらを探すこと自体が用だったのだろう。
どうしてクリスチャンの彼女が、異教の寺を「もののついで」にのぞいたりするものか。
おそらく、あちこち探し歩いてやっと見つけたのだろう。ジョーのために。
そのへんに思い当たらない所が、どうにもコイツらしいのだが、とグレートはひそかに嘆息した。
 
「ネズミの絵がついてるのがいっぱいあったから、犬もあるだろうと思って探したんだけど、コレしかなかった…って残念そうだった。ネズミは今年の干支だからたくさんあっただけなんだよ…って説明したけど、たぶんわかってもらえなかっただろうなあ…」
「俺にもさっぱりわからんさ。なんだ、たとえば、ネズミがたくさんあるなら…犬は無理でも猫ならあった、ということかね?」
「猫はもっとないと思う。ふふ、やっぱり難しいよね」
「…ふん、で、オマエはその安産のお守りとやらを、今日も大事に身につけて歩いていた…ってわけか」
「うん。それがこんなふうに役に立った…のかもしれない。なんだか、スゴイな」
「003にそう話してやるといい…喜ぶんじゃないか?」
「そうだね……いや、ダメだよ。コレが安産のお守りだったってわかったら、きっとがっかりさせてしまうから」
「…なるほど。それもそうか…だが」
 
別にいいじゃないか、そのぶんならそのうちオマエらで使うこともあるだろよ…とグレートは言いかけて、やめた。
 
冗談として通用するかどうかがまず疑問だったし、何よりも「どうして?どういうこと?」と真顔で尋ねられ、彼が理解できるまで、その言葉の意味する所を説明しなければならない…ということになりそうな気がしたのだった。
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