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COLUMN


 5    平ゼロ
 
「…うん…なんでかな、モナコに行けばいいのかもしれないけど…」
 
でも、とつぶやき、ジョーは耐えきれず、そのままフランソワーズから目をそらした。
…つもりだったが。
 
「行けばいいのかも、ですって?…それは、行かなくちゃいけないでしょう!まさか行かないつもりなの?あなた、ここまで自分がどれだけ苦労したか覚えてる?」
「え?…う、うん」
「…もう。どうしてこうなのかしら。だから心配なのよ」
「心配…」
「タマラのことだって。わからない、だなんて…あなた、いつも自分のことは後回しなのよね…ううん、投げやりなんだわ」
 
彼女の言っていることがさっぱりわからず、ジョーは瞬きした。
この闘いの前に、ようやくつかんだ夢…モナコ・グランプリ。
それと、ファンタリオン星の女王と、何がどうつながるのか、ジョーにはどうしてもたどれない。
でも、フランソワーズの頭の中では、それがちゃんとつながるらしい。
つなげた上で彼女は怒り、自分を心配してくれている。
 
とにかく、いろいろなことが起こりすぎたんだろうな、とジョーは思う。
そう思いながらフランソワーズの厳しい表情を改めて見つめると、やはり気が滅入ってくるのだ。
 
あのときは、夢中だった。
一番「強い」自分がシャトルに乗り込むしかない、と迷わず思った。
でも、たぶん、ボルテックスに行くべき人間は、自分などより彼女だったにちがいない。
 
彼女があの力を得ていたら、瞬時にゾアを倒し、004を復活させ、イシュメールを地球へ戻す…ついでに、宇宙の恒久平和なんかもしっかり望んでくれていたかもしれないではないか。
 
 
 
これから、どうするのか。
 
僕の方こそ、彼女にそれを聞いておきたい…とジョーはしみじみ思う。
いや、一応、いつも聞いてはみるのだ。
そして、彼女は答える。
 
「私は、パリに戻るわ」
 
それだけ。
いつもそうだ。
 
パリが、どれだけ広いと思ってるんだ!
 
と、怒鳴りつけてやりたいのだが、もちろんそんなことができるはずもない。
ジョーはただ嘆息し、それ以上の追及を諦めるのだった。
 
どこに住んでいるのか、たとえば電話番号は、とか。
そういうことをフランソワーズは教えてくれない。
教えない、と決めているわけではなく…あまりちゃんと覚えていない、ということらしい。
そんなはずないだろう、と思うのだけど、でもそう問い詰める勇気もジョーにはなかった。
というのは、どうも、004と002はこれまでもパリに出かけては、彼女を訪問したりしているようなのだった。
 
やっぱり、第一世代の仲間との絆は強いということか、それとも…要するに、僕は嫌われているのかなあ…とジョーは寂しく思ったりする。
だからこそ、それを決定づけるような問いかけはしたくないと思ってしまう。
物事をかなりハッキリ言うフランソワーズだが、さすがに面と向かって
 
「私はあなたがキライなの。闘いがないときにまで会うのはまっぴらよ」
 
と言い放ったりはしないだろうが…それに近い言葉はさらっと言われてしまうような気がする。
想像しただけでこれだけ落ち込むのだから…やっぱり聞かない方がいい、と、ジョーは思う。
 
が。
モナコ・グランプリに出場できる…と決まったときは、さすがに勇気を振り絞ってみる気になったのだ。
これを機会に、できたら彼女の家を訪ねてみたい。002たちがそうしているというように、さりげなく。
住所も電話番号もわからないけれど、知っているらしい004に聞き出せばいい。
レースに招待したいから、連絡をとりたい…とかなんとか言えば、不自然ではない!
 
ジョーは、ずーっとそう思っていた。
そこに、突然呼び出しがかかり、闘いが始まったのだ。
レースへの出場は絶望的となったが、仲間達と…彼女と会えたのは嬉しかった。
 
どさくさに紛れて…に近かったが、こんどこそ死ぬにちがいない、と追い詰められた気持ちになったから、彼女への積年の思いもようやく告白することができた。
…そして。
 
「私は、ジョー、アナタの傍にいたい!」
 
信じられない言葉を聞いた。
夢中で抱きしめた。
 
あの夢のような時間は……やはり、夢だったのかもしれない。
こうして無事に帰ってくると、フランソワーズは、それまでと何も変わっていないように思えるのだ。
相変わらず優しいけれど、どこかよそよそしくて…冷たくて。
触れることなど、とてもかなわないような気がする。
 
ほどなく、地上では大した月日もすぎてはおらず、レースに出ることもぎりぎりできる…とわかった。
 
レースに来て欲しい、と言えば、きっとフランソワーズは喜んで、とうなずいてくれるだろう。
でも、ここでその約束をしてしまったら、改めて彼女の住まいを知る必要がなくなってしまう。
 
それでも、チャンスはある、と思っていたのだ。
例えば、君と一緒にフランスに行くか…とか。
どうにかして、さりげなく言ってみよう、と。
 
それなのに、切り出す前にフランソワーズが口を開いた。
少し焦ったが、気持ちを整え、海を睨んだ。
よし、ちゃんと言うぞ!と深呼吸した……のだが。
虚をつかれた。
 
「どうして、タマラのことを考えなかったの?」
 
と、言われても。
動揺しているうちに、たたみかけるように尋ねられてしまった。
これから、どうするの?と。
 
どうにもならなかった。
しどろもどろの返事しかできなかったのが…我ながら情けない。
 
 
 
タマラ、か……。
 
一人になった海岸で、足元の石を拾っては投げ、拾っては投げ…そうしているうちに、やがて夕陽は落ち、星が輝き始める。
 
…もしかしたら、生き返ってくれているのかもしれないな。
 
ぼんやり思った。
ちゃんと願った記憶はないけれど…願わない理由もない。
生き返ってくれていたらいいなあ、とジョーは思う。
彼女は、不思議な女性だった。
 
まっすぐに僕を見つめ、迷わず僕を選び、自分と星の運命を託そうとした。
あのとき…嬉しくなかったといえば、嘘だ。
見込み違いも甚だしい、という結果に終わったけれど。
 
そういえば、あのときも君は心配していたっけ。
心配そうに、僕を見つめていた。
僕は、いつだって君に心配をかけるんだ。
 
でも、大丈夫だったのに、フランソワーズ。
これでも自分の身の程はわきまえている。
 
ああして頼りにされたら…そりゃあ、どうにかしたい…って思うけれど。
でも、いくらなんでもこの僕が、あの星を救う新しい王に…あの立派な女王と並び立つ男になんか、なれるもんか。
それぐらい、ちゃんとわかっていたよ。
 
ジョーは星空を見上げ、異星の美しい女王を想った。
どんな世界でも、ああいう女性の気高さというのは変わらないものなんだなあ…と思うと、また溜息がでそうになる。
 
そういえば、タマラは、ジョーが知る「お姫さま」のイメージどおり、長いひらひらのドレスや、宝石を身につけていた。
何億光年もはなれた星なのに、そういうところが同じだなんて、考えてみたらちょっと不思議だ…という気がする。
 
「……あ!」
 
ジョーはハッとして、大きく目を見開いた。
 
「そうだ、その手があったぞ!」
 
 
 
「もう!どうしてあなたってこうなの?!」
 
何度目だかわからない。
相当怒らせちゃったなあ…とは思うのだけど、油断しているとつい微笑が浮かびそうになってしまう。
ジョーは一生懸命気持ちを引き締めるように努力した。
 
「だって、知らなかったんだ…急にそんなこと言われちゃってさ…でも、モナコでよかった!君しか頼める人なんていないんだし…」
「まさか!…何言ってるのよ…」
 
不意に頬を染める彼女が愛しくてたまらない。
 
「あと、何をしておけばいいのかしら…ああもう、急がないと」
「あ、いいよ、まだ時間は……」
「ないでしょう?!フリー走行…でしたっけ?とにかくレースは明後日からなのよ!本当だったらあなた、こんなトコロにいてはいけないのに…!」
「うーん。それはそうだけど。でも、とにかく君をつかまえられてよかった」
「信じられない。アルベルトから連絡を受けて、耳を疑ったわ。レセプションのことを忘れていた、パートナーなんかいないし何も準備していない、どうしよう…だなんて!」
「準備は…ええと、うん、かなりできてると思うよ。君のドレスとか、靴とか、アクセサリーとか。とにかく、スタッフのみんなが用意してくれてるはず。サイズがわかってよかった」
「それも信じられない。博士ったら、プライバシーを何だと思っているのかしら。私に無断であなたにデータを渡してしまうなんて、ひどいわ…!」
「ごめんごめん…ホントに。でも、非常事態だったんだ」
 
ジョーはこざっぱりしたソファに収まって、満足そうに小さな部屋を見回した。
いかにも彼女らしい、堅実な暮らしぶりが感じ取れる部屋だ。
 
…恋人なんかいない、っていうのも…ホントらしいな。
 
ほうっと息をつく。
ようやく、ここに来ることができた。
ちょっと残念なのは、自分のこの出で立ち…だけど、今回はこれで仕方がない。
 
「ここでこんな格好するなんて…なんだか変な感じ」
「そうだね…僕も、今度来るときは、ちゃんとした服でくるよ」
「…もう!」
 
ジョーは、防護服に身を包んで現れたフランソワーズをそうっと抱き上げ、抱きしめた。
 
「苦しいわ、ジョー」
「ゴメン…でも落としたら大変だからさ。しっかりつかまって」
「…ええ」
「誰か…見てる人はいるかな?」
「いいえ…今なら大丈夫よ」
「わかった」
 
ふと悪戯心がわいた。
ジョーはフランソワーズにいきなり唇を重ね、そのまま加速装置のスイッチを入れた。
また叱られるなあ…と思いながら。
 
でも、きっと許してくれるはず。
君から勇気をもらいたかったんだ、と言い訳しよう。
 
すごくキレイになるだろうな、フランソワーズ。
どんなイメージの人ですか、と聞かれて、どうにも答えようがなくて…ただ写真を渡しただけだったけれど。
優秀なスタイリストだ…って話だったから、たぶん大丈夫。
 
ああでも、紫のドレスだけはイマイチかも。
そう言っておいた方がよかったかなあ…。
 



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