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  6   第4章 願望
 
 
009たちが滑り込んだ後、そのまま静かに閉じた扉は、ぴったりと動かない。
そもそも、コレはただの扉ではない…とわかってはいるものの、どうにもいらだたしい。
 
じりじりと待つサイボーグたちは、不意に地の底からはい上がってきた振動と轟音に、ハッと 顔を見合わせた。
すぐさま004と002が扉に体当たりした…が、扉はびくともしない。
 
「くそっ!どうなってやがる……006!」
「ハイな!」
 
振り返りざま004が叫ぶと、006が飛び出し、扉に炎を吹きかけた…が、これも効果がな かった。
 
「アイヤー、どうしたことアルか!…潜って下から行くかね?」
「いや…たぶん、無駄だろう」
「ああ。おそらく、空間が歪んでやがる」
「…空間?でも、たった今しがた、009たちは入っていったアルよ…これ、フツウの扉アル ね!」
「たしかにそうだった…あのときはな」
「…004?」
「つまり……もう一度、《そのとき》が来るのを待つしかない…ってことだ」
 
002は004をちらっと見やり、小さく息をついた。
 
「…なんだ?」
「いや…アンタのことだからよ、さっそく爆破…って言い出すんじゃねーかと思っていたのさ 」
「馬鹿か、お前は。001も言ってただろう…もしこの向こう側がそういうことになってるの なら、ここを爆破したからといってどうにもならん」
「そりゃ…そうだな」
 
…待つしかない。
 
やがて、振動は収まった。が、やはり扉は動かない。
サイボーグたちは銃を構え、扉の僅かな変化も見過ごさないよう、息をころしていた。
 
 
 
001が泣いている。
 
聞いたこともないすさまじい泣き方だった。
その体から放たれる光はぐんぐん明るく強くなっていく。
 
「フランソワーズ…イワンが…泣いているよ…」
 
動かない003を抱きしめ、009はつぶやいた。
 
目を開けて。
イワンが泣いている。
君でなければダメだ。
 
…フランソワーズ…?
 
微かなうめき声が聞こえた。
物憂げに振り向いた009は、仰向けに倒れているガモ博士がうっすらと目を開くのを見た。
 
「お…おお…イワン…!ついに……」
 
まなゆい光に目を細め、老人は恍惚の微笑を浮かべた。
 
「ついに…オマエは目ざめるのだ…神として…真の神として…!」
 
ぴたり、と泣き声が止まった。
001はすうっとガモ博士のもとに舞い降りた。
 
《…とう、さん……》
「そうとも…私は…オマエの父」
《…とうさん…?》
「さあ、行け、イワン…オマエが、この世界を救うのだ」
《せか…いを》
「そうだ。目ざめるがよい、息子よ…オマエは私の夢を愚かだと言った…オマエだけではない 、誰もがそう言ったのだ…だが…私は諦めなかった」
《…ボク、は》
「オマエは神だ…神に、母はいない……父もない」
《…とうさん…お父さん……お母…さん?》
「なすべきことをせよ…母は消えた…今、父を消すがよい……オマエのその手で!」
《…っ!》
 
001の両目が鋭く光った。
次の瞬間、すさまじい光に包まれ、ガモ博士は塵となり、崩れ去っていった。
 
 
ソレデヨイ…ムスコヨ。
ワタシハ、オマエヲツクルタメニウマレタ……ニンゲン、ナノダ。
 
 
 
 
「く…っ!」
 
空間が激しく歪んでいる。
懸命に003を抱きかかえ、庇いながら、009は少しずつ自分を取り戻していった。
 
大丈夫…まだ、生きている。
君は、死んだりしない…僕を置いていったり…するものか!
 
「イワン!…ここから出るんだ!」
 
声を振り絞り、叫んだ。
何が起きているのかわからない。
が、すべてを001が握っていることだけは間違いない。
 
「イワン…!早くしてくれ!…フランソワーズが…もうもたない!」
 
001の姿はまばゆい光の中に溶け、とらえることができない。
それでも009は叫び続けた。
 
「イワン…001!」
「…ウ」
「…フランソワーズ?!」
「…ジョー…?」
 
微かに目を開き、唇を震わせる003を、009は更に強く抱き寄せた。
 
「大丈夫…動かないで。すぐ、手当てをするから…」
「…イ…ワン」
「しゃべらなくていい…!」
「ジョー…イワン…を」
「フランソワーズ…!」
「イワンを……たすけ……て」
「…っ?!」
 
がくり、と彼女の体から力が抜ける。
009は夢中で叫んだ。
 
「…聞こえたか、イワン!…001!!」
 
不意に発光が止まった。
再び闇が落ちる。
 
《…00…9?》
「…イワン」
 
009は思わず息をのんだ。
闇の中から青白い小さな影が浮かび上がり、少しずつ近づいてくる。
 
これは…イワン、なのか…?
 
《009…どう…しよう?……ボク、どう…しよう…》
「イワ…ン…?」
《わからない…009…たすけて…》
 
001が少しずつ姿を変えていくのを、009は呆然と見つめていた。
赤ん坊から、幼児になり…少しずつその体は「成長」していった。
 
《たすけて、009!…ボクを、殺してくれ!…早く!》
「001?!」
 
009がハッと目を見開くのと同時に、背後で大きな物音がした。
仲間たちが扉を押し破り、駆け込んできたのだった。
 
「チクショウ、やーっと開きやがった!」
「009!…003!?…どうした、何があった!」
「あ、あの子…誰、アルか?!」
 
《ダメだ…まに、あわない……!》
「なんだ、コイツは…っ!」
 
004が咄嗟にマシンガンを構える…が、スイッチが入らない。
009は叫んだ。
 
「待ってくれ!あれは…001だ!」
「…何っ?」
「001…だと?!」
「あの少年が…か?」
 
《ヒトの愚かな願いが…ボクを生んだ…その願いは愚かでも……ボクは…なすべきことを、す るために…生まれてしまった》
「001…っ?!何を…あっ?!」
 
009の腕から003が消えた。
 
《ボクの…なすべきこと…》
 
ハッと顔を上げ、009は少年をにらみつけた。
003は、いつのまにか少年の腕にぐったりと抱かれている。
少年は無表情に彼女を見下ろしながら、その心臓の上に静かに手を置いた。
 
「何をする、001!…加速…っ!?」
 
反射的に加速装置のスイッチを噛む…が、やはり稼働しない。
そんな009を憐れむように見つめ、少年はつぶやいた。
 
《あの者だけではない。オマエたちの願いは、いつも愚かだ……》
 
「…っ!」
「…消え…た?」
 
009は素早く辺りを見回した。
そこは、ごく小さな…暗く、荒れ果てた部屋…でしかなかった。
片隅に、黒い灰の塊がひっそりとうずくまっている。
004が唸った。
 
「ガモ…博士…か…?」
「…そう、らしいな」
「どういう…こと、アルか?」
「わからない……だが!」
 
…001は消えた。
瀕死の003とともに。
009は震える拳を握りしめ、呻いた。
 
「…あなたは…一体、何を作った?…何を…願ったんだ、ガモ博士…!」
 
 


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