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発展編


  4   抱擁(新ゼロ)
 
 
わからない。
わからないよ。
 
きみが泣いていると、ぼくはどうしたらいいかわからない。
ぼくが泣いていると、きみはちゃんとわかってくれるのに。
 
そうだ、フランソワーズ。
きみはいつもちゃんとわかってくれている。
ぼくにだってわからないことなのに。
きみはいつも、泣いているぼくが一番ほしいものをくれる。
 
それを、きみにあげればいいんだろうか。
きっと、そうだと思う。
でも……
 
思い出せない。
きみから、何をもらったのか。
あのやさしい、あたたかいものは何だったのか。
きみはどうやってそれをぼくにくれたのか。
思い出せない。
わからない。
 
どうしてもわからないから、ぼくはきみをきつくだきしめる。
こんなことしても何にもならないけど。
でも、こんなに泣いているきみと離れているのは、なんだかとてもたまらない。
だきしめずにはいられない。
 
でも、きみはいっそう苦しそうにあえいで…またしゃくりあげて。
苦しいにきまってる。
 
きみを締め付けているのは、鋼鉄の腕。鋼鉄の胸。
 
お願いだから、泣かないで、フランソワーズ。
お願いだから。
 
ぼくはばかみたいに、心でくりかえすしかない。
必死で祈るしかない。
 
腕をゆるめてあげれば、きみは少し息ができて、
それで落着くのかもしれない。
でも、ゆるめることができない。
 
きみが、泣きやむまで。
きみが、いつもの笑顔を見せてくれるまで。
 
どうしたら、きみがいつもしてくれるように、きみの涙を止めることができるだろう。
ぼくはきみがしてくれる半分でもいい、きみに何かをしてあげたい。
きみが、離れてしまわないように。
 
…ああ。
そうか。そうだったんだ。
 
こうしてきみをだいているのは。
きみの涙を止めようとしているのは。
きみが離れてしまうのがこわいからなんだ。
 
ぼくは、どこまでも自分勝手だ。
ぼくがこの手を離しさえすれば、きみの涙は止まるんじゃないのか。
ぼくが、きみを解き放ちさえすれば、きみは光の中で微笑むことができるんじゃないのか。
 
でも、ぼくは動けない。
きみをだきしめて、ばかのように祈るしかない。
 
お願いだから。
お願いだから、泣かないで。
もう一度、笑って。
 
 
そうして。
ながいながい時がすぎる。
きみの息づかいが少しずつ静かになる。
 
きみは最後に大きく息を吸い込んで、ぼくの胸に顔をぎゅっとおしつけて。
それから。
そうっと顔を上げて…微笑んだ。
 
「ありがとう…ごめんなさい、ジョー」
「もう…大丈夫よ」
「私、いくじなしね」
 
 
ありがとう。
ごめんね。
 
ぼくは、いくじなしだから。
 
 
それさえ口にすることができなくて。
あるかなきかの笑顔をつくって、ぼくはきみをもう一度だきしめる。
 
強く…強く。
 
 


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