1
君は、何か誤解しているのかもしれないけど、僕は女の子を好きになったことなんて今まで一度もない。
で、これはとっくにバレてるんだと思うけど、君のことだって、ホントのとこ、好きなのかって聞かれたら、ちゃんと答えられない。わからないんだ。
わからないんだけど、僕は時々、無性に君に触れたくなる。
ってことはつまり、それが好きってことなんだって、ジェットなら言うのかもしれないけど。
でも、なんだか違うような気がするよ。
君に初めて触れたい…って思ったのは、もうずいぶん前のことだ。
ブラックゴーストから逃げ回って、でも逃げ切れなくて。
とうとう、こっちから切り込んでやる!とみんなで決心した、あの暗い潜水艦の中。
武者震いする仲間達の中で、君だけが、そんなのは厭だと言った。
戦争も、殺し合いも……もうたくさんだ、と言って泣いた。
僕はね、フランソワーズ。
今でもそうだけど、女の子に泣かれるとちょっとウンザリする。
めんどくさい。
…冷たい?
だから、言ったじゃないか。
僕は女の子に優しくなんかないし、好きになったことだってないんだ。
で、君は…003は見事にめんどくさくない女の子だったと思う。
いきなり泣き出しちゃったあのときまで。
僕があのとき君にウンザリしなかったのは……いや、きっとしてたんだけど、それよりビックリしちゃったんだと思うな。
どうしたらいいかわからなくなった。ちょっと混乱したっていうか。
とにかく、このままじゃマズイと思って、僕は君の肩を抱いた。
君は、本当に壊れてしまいそうだったんだ。
壊れそうなフリをするめんどくさい女の子ならいくらでも……ええと、うん。
いや、だからいくらでも…ってほどじゃないけど、まあまあ、知ってた。
でもさ、ホントに壊れちゃった女の子なんて見たことなかったから。
壊れちゃうと思ったよ。
だって、君が…あの003がぽろぽろ泣いてるんだぜ、僕たちの真ん中で。
声出してさ、もうイヤだーって。
どうしたらいいかわからなくなるだろ?
なんで笑うんだよ?
壊れたら大変だと思ったから、僕は君の肩を抱いた。
抱いた…というか、壊れないように押さえたっていうか。
そしたら、君が僕にもたれてくれて……とりあえず、安心したな。
こうやって支えていれば、きっと壊れない。
こうやってる間だけは、少なくとも、壊れない。
そう思ったから。
え?
壊れるって……どういうことかって?
わからないよ。
僕にわかってるのは、とにかく君が壊れそうだった……でも、壊れなかったってこと。
壊れなかったんだから、壊れたらどうなるのかなんて、わからないさ。
第一、そんなことはね、わからなくていいんだ。
まったく、冗談じゃない。
とにかく、そういうこと。
君に初めて触れたい…って思ったのは、君が好きだとか、さわってみたいとかじゃなくて…なんていうのかな。
守りたい…っていうのともちょっと違うし。
そういうのは触れるって言わない?
そんなこと言われても、僕にはわからないよ。
とにかく、君に触りたいって、僕が心から思ったのはあのときだ。
君に触って、それで、かなり安心した。
君に触ると安心するってわかったのも、あのときが初めてだったな。
2
そう。
僕は、君に触ると安心する。
なんだか、安心するんだ。
どうしてかな。
今だって、安心してる、だから。
えー。
他の人だとどうかって?
うーん……。
わかんないよ。
だって。
触ったことないからなあ……。
そもそも無理じゃないか?
戦闘中なんかに抱えたりするのは、触るってことじゃないだろう?
自分から誰かに触ってみたいなーと思って、実際に触ってみるなんて…そう簡単にできるもんじゃないよ。
そうだろ?
どうして怒るんだよ!
3
こうしていると、大丈夫なんだ…って思う。
君は壊れない。
だから、僕も壊れない。
泣いたらダメだよ、フランソワーズ。
君は、泣いちゃダメだ。
それでも、どうしても泣くなら、僕の傍で……こうしているときに泣いてほしい。
それなら、安心だから。
君は、暖かいね。
当たり前かい?
それは、そうだけど……でも。
さっきも言ったろ?
僕はわからないんだ。
きっと、他の女の子だって暖かいんだろう。
でも、こうして…君みたいに抱いてみたことがないから、本当のところはわからない。
他の女の子も…暖かいのかな。
君と同じように……本当に?
本当かな。
…まさか。
そんなこと、試してみたいなんて思わない。
ちょっと考えてみたことだってないよ。
だって、どうして、わざわざ君以外の……
だからさ。
僕は、女の子を好きになったことなんかないんだってば。
めんどくさいだけだもんな、女の子なんて。
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