さきに恋ひさきにおとろへ先に死ぬ女(をみな)の道にたがはじとする 与謝野晶子
いつから、と聞かれたらほんとに困るわ。
たぶん、初めて会ったときから。
あの島で、私はあなたに恋をした。
そして、思い出したの。
私が、女だったことを。
あの頃の話になると、あなたはとても申し訳なさそうな顔になって。
埋め合わせをしようとするみたいに、私を抱きしめて。
でも、私はいつも幸せだったのよ、ジョー。
あなたには…ううん、みんなも、わからないみたい。
でも。
少しも私を見ようとしないあなたに焦がれていたあの頃。
私は、幸せだった。
もちろん、今だって幸せよ。
私は、いつも幸せなんだわ、ジョー。
あなたがいるから。
あなたが遠くへ行ってしまったときも。
あなたが、他のひとと行ってしまおうとしたときも。
泣いて、泣いて…私は、幸せだった。
泣いていることも忘れてしまうくらい、泣くのに慣れてきたころ。
あなたは、いつのまにか私の手を握っていた。
フランソワーズフランソワーズと、あなたの声が私を呼ぶ。
優しく、包むように。
切なく、甘えるように。
あなたに手を引かれて、私はどこへでも行った。
歩き疲れたときは、あなたの腕に抱かれて眠った。
あなたは、私を離さなくなった。
私は、いつも幸せよ、ジョー。
こうして…あなたの腕の中で。
その澄んだ瞳から、ふたつとない想いを注がれて。
そうして…私は少しずつ眠りに向かう。
きっと叱られるから、今は言わない。
でも、わかってる。
これでいいの。
私のすべてはあなたのものよ、ジョー。
あの島で、あなたに会って。
私は自分が女だということを思い出した。
…思い出してしまったから。
後悔なんかしない。
するわけないでしょ、こんなに幸せなのに。
でも、きっと叱られるから、今は言わない。
私のすべてはあなたのもの。
だから、いつかあなたにすべてを与えてしまうわ。
そうせずにはいられないもの。
そして、そのとき。
私は消えるの。
あなたの腕の中で。
「フランソワーズ…?」
そんな顔したってだめよ、ジョー。
もう、きまっていることなんだから。
愛してる…とあなたが囁く。
君がいなければ、僕は生きられないと。
あなたに優しくうなずきながら、私は目を閉じる。
大丈夫よ、ジョー。
あなたは、大丈夫。
私がいなくなってからも、あなたは歩いていける。
この強い腕も優しい心も、少しも損なわれることなしに。
だから、私はあなたを愛した。
私の全てをかけて。
あのときから。
あの島で、初めてあなたに会ったときから。
ありがとう、ジョー。
機械の体になるまえの、当たり前の女の子だったとき、私は知らなかった。
自分が女であることを。
そのまま当たり前の女になっていたら、今でも知らなかったでしょう。
だから…私は幸せなの。
誰よりも強いあなただから。
いつか、そのときがきたら…あなたはきっと私を許すわ。
いつか、遠い未来。
あなたの腕の中で。
それが、私の秘密。
叱られるから、今は言わない。
|