「ブリテン。君、俺にケンカ売ってるんだって…思っていいよな?」
「なんだ、気にくわないか?いい役だぞ?…ってか、主役だ」
「そんなことわかってる!でもさ、他に何か考えつかないのか?第一、なんで芝居なんか…!」
「うーむ。たしかに、主賓を主賓として扱いたいのは山々なんだが、なにせ人手不足でなー」
「だから。俺はそもそも芝居なんかやりたくないんだ!」
「なーに、気楽にいけって。どうせ観客はいない。人手不足だからな」
「観客のいない芝居なんてあり得るのか?」
「うむ。それはたしかに、本質的な問題ではあるが…いや、いちいちそう難しく考えるな。悪い癖だぞ」
「どっちが…!」
「演技については、フランソワーズがリードするから大丈夫だ。アレはさすがに舞台ってもんをわかってる…まあ、ジョーだってできたんだから心配するな」
「待てよ。ジョーにも何かやらせたのかい?」
「おう。ハムレットな」
「…ロミオじゃないのかよ」
「アイツにできるわけないだろう」
「……」
「そういうこと。我が輩だって、ちゃんとそういう考慮はしておるのだよ、ピュンマ。君ならできる」
「ぜーったい、違う。もっと安易に考えたにきまってる!黒いからオセロー、違うかっ?」
「誰だって塗れば黒くなるぞ?」
「そういう問題じゃないっ!」
「落ち着けよ、ピュンマ…そもそも、ムーア人が黒人だと決めつけるなんざ、インチキな話だ。お前なら知ってるだろうが」
「じゃ、なんでオセローなんだ?どうして僕の誕生日に、フランソワーズと駆け落ちして、結婚して、さんざん悲しませたあげく殺しちまう芝居なんかしなくちゃいけない、それもジョーの見てる前でっ!」
「それが面白いんじゃないか…お、だったら『真夏の夜の夢』にするか?アレは喜劇だ」
「……」
「どうだ?もちろん、フランソワーズがタイターニア、ジョーは、オーベロンにしとけば文句も言わないだろうし」
「ってことは…ロバかよ、俺は」
「悪くない話だろ?」
「どこがだっ!」
「アイツらの夫婦ゲンカが見られるぞ?」
「……」
「……」
「それ、本気で面白いと思ってるのか、ブリテン?」
「うーむ。そう、言われると…」
「君のシェイクスピア理解もあてにならないな」
「…ハムレットは面白かったんだがなあ」
「いいよ、もう」
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