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  3   ピュンマさま002と遊ぶ
 
 
「うーむ。どーも今日は調子が悪いぜ」
「…これだけ人が少なければね。……いいかげん、観念したらどうだい、ジェット?」
「観念って、なんだ?」
 
ピュンマは やれやれ、と嘆息した。
こうなることは或る程度予想していたものの、ここまでとは思わなかった。
 
「ナンパもいいけどさ、せっかくこんな見事な海があるんだぜ?……そろそろ泳がないか?」
「うーむ」
 
ジェットは難しい顔になり、腕組みをした。
わけがわからない。
 
せっかくだから、カワイイ女の子を誘って……という気持ちはわかる。
自分にはそういう発想はないが、そういう発想のオトコは普通にいるだろうし、それが大事な友ならば、もちろんたまにソレに付き合うことぐらいなんでもない。
……しかし。
 
その浜辺には、ほんとーにぽつりぽつり、としか人がいないのだった。
カワイイ女の子、とかいう問題ではなく、人間自体が恐ろしく少ない。
 
天気は快晴。
抜けるような青空のもと、太陽が容赦なく照りつける。
別に水中型サイボーグでなくても、せっかく水着を着ているのだから、海に入りたくなるのが当然だろう。
それを、どういうわけか、ジェットはあくまでカワイイ女の子をさがして、うろうろと歩き回っている。
 
「……ま、そういやそうだよな……悪りぃ。お前、ちょっと泳いでこいや」
「へ?……君は?」
「いや、俺はだな、ちょっと……」
 
珍しく言葉を濁すジェットに、ピュンマは首を傾げた。
しかたないか、というように肩をすくめ、ジェットがにや、と笑う。
 
「海に入っちまうと、後がちょっと面倒なんだよな」
 
…と、言いながら彼はひょいっと足を持ち上げ、足裏の噴射口を見せた。
一応、人工皮膚で、不自然にならない程度にふさがってはいるけれど……
 
「……って、ジェット。……まさか」
 
ソコから水がはいる、とかいう話をするんじゃないだろうな?と、ピュンマは疑わしげにジェットを見つめ返した。
 
そんな、馬鹿な。
 
「まさか、と思うだろ?……だがな、案外モロいんだよなー、コレ」
「嘘だろ?そんなことじゃ、戦闘の時……」
「ブーツがあるじゃねーか」
「……あ」
 
たしかに。
裸足で海に入る、というような戦い方は、まずない。
少なくとも、002においては、ない。
 
「リクツは今ひとつわからねーが、噴射しながらなら、そう悪くないらしいんだよ。ただ、ぼーっと水につかるとな、この辺から……」
「待てよ。だったら、君、入浴はどうしているんだ?」
「ジョーじゃあるまいし、風呂につかることなんかねえさ。シャワーでたくさんだし、それなら生活防水の範疇だ」
「……生活防水」
「ま、もちろん、入れないってことでもないんだぜ?ただ、後のメンテがどーにも煩わしくてなあ……」
「……そう、だったのか……」
 
悪いことをしてしまった、とピュンマはひそかに息をついた。
ジェットの体にそんな盲点があったとは。
 
僕たちは、それぞれが違う痛みを抱いて戦っている……そんなことは十分わかっているはずだったのに。
そういえば、ジョーがジェットを海水浴に誘った、という話は聞いたことがなかったかもしれない。フランソワーズも。
僕は、これまでいったいジェットの何を見ていたんだろう……
 
「すまなかった、ジェット……アレ?」
 
ぐるぐる考えているうちに、気づくとジェットがいなくなっていた。
慌てて見回すと、少し離れたところで、若い女性二人と楽しげに話をしている。
 
――いつの間に。……ってか、どこから出てきたんだ、あの子たち?
 
あっけにとられていると、ジェットがこっちを振り向き、大きく手を振った。
 
「おーい、ピュンマ!おっけーだってよ!」
「う、うん…!」
 
急いで駆けつけた。
そこそこカワイイ、という感じの女性たちは、ピュンマの鍛え抜かれた黒いボディに、きゃあ、と歓声を上げ、あれこれと話しかけてくる。
ジェットはすっかり上機嫌になっていた。
 
「よーし、じゃ、とりあえず泳ごうぜ!」
「え……でも……私たち、あまり泳ぎは……」
「はは、俺たちに任せとけって!…特にこの兄さんは、泳ぎに関してはプロフェッショナルだ。しっかり、リードするからよ」
 
さっさと歩き出し、波打ち際に向かうジェットに、ピュンマは慌てて駆け寄った。
 
「お、おい、大丈夫なのか、ジェット?」
「うん?…何がだ?」
「何がって……君、足……」
 
ああ、とジェットは笑った。
 
「まー。後でちょっとメンテすりゃすむことだからな」
「後で、ちょっと……って」
「なに、お前が手伝えば博士も楽勝だ」
「……」
 
ジョーやフランソワーズがジェットを海水浴に誘わない理由がわかった気がした。
いや、フランソワーズの場合はちょっと違うのかもしれないけれど、それはどうでもいい。
 
ちょっとメンテ…って、どれくらいなんだろうなあ…
 
つい沈みそうになる気分を懸命に奮い立たせながら、ピュンマはジェットを追って波打ち際へと走った。
 


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