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  5   ピュンマさま004と遊ぶ
 
 
たたたたたたたた、と小気味よいリズムで野菜を刻んでいるのは、左手の電磁ナイフ。
つい人目が気になって、辺りをきょろきょろしてしまうピュンマだったが、不用心、とか雑、 とかいう言葉から誰よりも遠いトコロにいるアルベルト・ハインリヒのこと、心配はないはず だった。
 
「ホントにお前が行かなくてよかったのか、008?」
「え…?……ああ、『狩り』のことかい?」
「そうだ。俺が覚えている限り、お前以外のヤツらがマトモな獲物をとってきたためしなどな いからな」
「そうかなあ?……見てくれを気にしなければ、みんな、比較的食べられるモノを持ってきて くれるけど」
「戦闘時ならそれでもいいが、な」
 
ジャガイモ、玉ネギ、にんじんに……キャベツ?
 
切り刻まれた野菜が文字通り山盛りになっている。
目を丸くしているピュンマに、アルベルトは鍋をもってこい、と視線だけで示した。
慌てて大鍋を引っ張り出す。
 
「ずいぶん大量だな……」
「人数が多いからな。それに、こういう料理をするときは分量を多めにした方が見当をつけや すい」
「ああ、なるほど。そうかもしれないね」
 
ピュンマはふと故郷を思い出した。
たしかにそうかもしれない……が、僕たちは、そうすることができなかったんだ。
 
「それにしても、意外だな……君に料理ができるとは」
「この程度で、できる、とは言わん。自分の食うモノをどうにかしなくちゃならない…ってレ ベルだ」
「そうなんだろうけど……ジョーだのジェットだのグレートだのを見てると」
「アイツらと一緒にするな」
「ま。そうだよね」
 
鍋にざっざっ、と野菜を放り込み、タンクから水を大量に注ぐと、アルベルトはジェロニモが 組み上げ、ピュンマが火をおこしたかまどに鍋をかけた。
 
「これで、ひとまずよし……それじゃ」
「……アルベルト?」
 
アルベルトは悠然と去っていき……ほどなくまた悠然と戻ってきた。
巨大なドラム缶を転がしながら。
 
「な、なんだい……ソレ?」
「うむ……コレに、海水をめいっぱい入れて、わかす」
「…………」
「俺もよくは知らん。風呂にするらしい」
「……風呂?」
「と、ジョーが言うんでな」
「なんだ、それ?」
「だから、よくは知らないと言っただろうが」
 
不機嫌そうに、アルベルトはピュンマにバケツを投げ渡した。
 
「……で、コレで汲みにいけって?」
「他に道具がないからな」
「というか、こんな風呂、誰が入るんだ?」
「順番に入ればいいだろう、1人ずつだ。005は難しいかもしれないが」
「……順番に……って。……僕もか?」
「イヤなら無理をするな」
「……君も?」
「馬鹿馬鹿しいが、他にすることもなさそうだしな」
「すること……」
「メシを食って後片付けをしてから寝るまでたっぷり2時間以上ある。1人が5分入って、海 水を補充して沸かし直すのに15分。イワンとジェロニモとフランソワーズを除いて6人、とす れば。まあまあの時間になるだろう」
 
たしか、003が言ってなかったか?
何もないところで何もしない休暇にしよう、とかなんとか……
 
「行くぞ、ピュンマ」
「……いや。でも」
「なんだ……気にいらないか」
「気にいらないとか、そういうことじゃ……なくて」
 
バケツをぶら下げ、ざぶざぶと海に入っていくアルベルトを、ピュンマは慌てて追った。
よくわからないが、こうなったらやるしかない。
二人は黙々とバケツに海水を満たしてはドラム缶に注ぐ……ことを繰り返した。
 
「…あ!」
 
思わず声を上げてしまった。
振り返ったアルベルトに、ピュンマは苦笑いしながら、今汲みあげたバケツを僅か傾けて示し た。
小さな魚が泳いでいる。
 
「コレが、今日の唯一の獲物……だったりはしないよなあ、まさか……」
 
つぶやくと、アルベルトは笑った。
 
「もしそうなら、いよいよ俺たちで採りにいくしかないな。仕事がもうひとつ増える、か」
 
なんだか嬉しそうだな……と、ピュンマはこっそりぼやいた。
結局、仕事好きな奴なんだろう。
貧乏性、とか言ったっけ、こういうのって。
 
で、その彼のパートナーになりうるのは、たぶん僕しかいないんだろうな、という気もなぜか ピュンマには濃厚にしたのだった。


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