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介護のお仕事 街頭インタビュー 百合男子?

超銀
 
 
僕はよく、お人好しだと言われる。
自分ではそんなことない、と思うのだけど「いいように利用されている」ことが多いと、友人たちが口を揃えて言う。
 
今回の公演もそういうこと…のようだった。
たしかに、パリから中東に…特に、テロがまだ横行するといわれている結構アブナイ地域に飛ばされた、と考えればそうなるのかもしれない。
でも、そのおかげで初めての主役に挑戦できることになったし…
何より、フランソワーズと出会うことができたのだ。
彼女を見たら、僕をお人好しだと憐れんでいた友人たちも、一転して羨望と嫉妬の眼差しをむけてくるだろうと思う。本当にそう思う。
 
といっても、彼女はワケアリのダンサーのようで、所属しているバレエ団もなく、これまでもそんなに大きな舞台に立ったことなどないらしい。実際、どういうキャリアなのか、よくわからない。特に最近はレッスンすら満足にはしていなかったのだとか。その上、この公演が終わったら、しばらくバレエから離れる…なんて言っているのだ。パリの人間がわざわざココまで舞台を見に来ることもないだろうから…帰国してどんなに彼女のことを自慢したところで、誰も僕の話をマトモに信じはしないだろう。
でも、そんなことは大したことではない。
 
そもそも、すべては災難…というか災厄というか。そういう類の事件から始まった。
僕たちが宿泊していた外国人向けの高級ホテルが、テロの攻撃にあったのだ。
幸い怪我人は出なかったが、何人かのダンサーたちが、それを機に帰国してしまった。実際、僕にも、帰国しろーという通達が内々にあったりもしたのだ。
 
だから、はじめは帰国するつもりでいた。
でも、どうしても公演をやりたい、この国の人々に美しいものを見せ、明日への希望をつなぎたいのだ…と涙ながらに力説する劇場支配人に絆されてしまった…というかなんというか。
 
ぼろぼろになったキャストに、慌ただしく代役が決まっていく。
正直、大丈夫かなーというような技量の子も混ざっていたが、この際仕方がない。
ただ、さすがに主役級だけはなんとかしてほしいなーと思っていた。
そう、僕の相手役をやるはずだったプリマも、逃げ帰ってしまっていたのだ。無理もないけれど。
そうして、僕はフランソワーズ・アルヌールに出会った。
 
彼女に引き合わされたとき、最初に思ったのは、すごくキレイな子だ!ということ。
そして、踊りを見たときには仰天…というか、正直、衝撃を受けた。
フランス人…ってことは、つまりフランスで勉強していたはずで。
でも、こんなスゴイ子がいる、というような噂すら、僕は聞いたことがない。
相当のワケアリなダンサーで、祖国フランスの舞台にはあまり立っていない。所属するバレエ団もない…と聞いて、なるほど、よくわからないけどそういうこともあるのかな、と、とりあえず納得した僕を、彼女はいい人ね、と笑った。
 
 
 
フランソワーズもワケアリかもしれないが、もちろんこの公演そのものがワケアリだったりするわけで。
僕たちは、ありえないほど厳重な警備のもとにレッスンを重ねていった。
 
フランソワーズにも、護衛の青年がついていた。
はじめは、恋人かなと思っていたのだ。いつも同じ青年だったし、彼は、ボディガードというにはちょっと華奢な…それこそ、ダンサーなんじゃないの?と思うような体格だったから。
が、こっそり「恋人?」と尋ねると、彼女は笑って首を振ったし、彼も相当慌てたようだった。
 
レッスンは楽しかった。
フランソワーズの踊りは、彼女の雰囲気そのままに、優雅で繊細で、愛らしい。
僕は夢中になっていた。
 
事情が事情だから、警備の関係上、いつもというわけにはいかないけれど、レッスンの後、たまには食事ぐらいしてみたいなあ…と僕は思うようになり、彼女にそう持ちかけてみた。彼女は少し考えて、護衛付きなら大丈夫かしら、と答えた。
例の若者のことを言っているのだとすぐわかった。
 
…が。
レストランへ行く途中も、食事の最中も、ホテルに戻るまでの道でも…彼の姿は見つからない。
きょろきょろしている僕に、フランソワーズは、大丈夫よ、ちゃんと見張っていてくれてるわ、と笑った。
デートだから、ムードを壊さないように配慮してくれているのか、それにしてもスゴイなあ…プロは違う…!とうなる僕を、フランソワーズはまた笑った。
 
そうやっているうちに、彼女のことを好きになった……といえば好きになったし、そういうわけではないといえばそういうわけでもない。
たしかに彼女は魅力的だったが、僕はどちらかというとダンサーとしての彼女の魅力に参ってしまっていたのだ。
ベッドを共にするヒマがあるなら、その分少しでも一緒に踊っていたい。そんな風に思うのだった。
 
僕はお人好しではあるけれど、結構空気が読めないヤツでもあるらしく、マイペースだね、とよく苦言を呈される。
夢中になると、彼女と離れがたくなってしまう。レッスンの時間が終わっても、無理を言ってスタジオに残り、いつまでもあれこれと調整を続けていく。そうなると、文字通り寝食を忘れてしまうこともしばしばだった。
 
僕のそういう性癖は、当然ながら、女の子に大いに不評だった。
根気強くつきあってくれた子が、倒れた、なんてこともあったりした。
ところが、フランソワーズは華奢な外見に似合わず、とてもタフだった。
とうとう僕の方がいつの間にか倒れてしまい、気がつくと点滴を受けていたりして。
もちろん、あちこちからこっぴどく叱られ……さすがに、ちょっと自重するようにしたのだ。
 
 
 
公演が近づくと、そのせいなのか関係ないのか、警備は慌ただしくなっていくようだった。
一方で、フランソワーズのボディガードが時々姿を見せないのに、僕は気付いた。
不思議に思って尋ねると、他の「任務」が忙しくなっているから、と彼女は手短に答えた。
やっぱり、警備も人手不足なんだろう。でも、ちょっと不安だった。
もし、今彼女に何かあったら、公演はできなくなってしまう。少なくとも、僕たちがイメージしている舞台は崩壊する。
その懸念を彼女に伝えると、彼女はちょっと驚いたように僕を見つめた。
 
「心配してくれてありがとう。でも、私は大丈夫よ、ジョエル」
「…大丈夫…って。そりゃ、君はたしかにかなりタフなヒトだけど、それとこれとは別の問題だろ?」
「そうね…」
「ボディーガードは必要だよ!別に、あのヒトでなくてもさ……」
「うーん…それはちょっと困るわ。彼でなければ無理だと思う」
「なんで?」
 
彼女は困ったように笑いながら言った。
 
「フツウの男の人だと、いざというとき足手まといになるのよね」
「…へっ?」
「ふふ、私、これでもかなり強いのよ?」
「なんだよ〜!僕、冗談言ってるわけじゃないんだぜ!」
 
彼女はくすくす笑いながら、そうね、ありがとう……と言った。
そして、その翌日から、僕には日替わりでボディガードがつくようになった…けれど、彼女は結局そのままだった。
 
そのとき、何かちょっとおかしいなあ…と思うには思ったのだ。
が、僕の想像を遙かに飛び越えたところに現実はあって……それに気付いたのは、そんなことがあってから数日後…公演を翌日に控えた日の午後だった。
ホテルに向かう途中で、僕とフランソワーズは突然銃撃を受け、武装した男達に拉致されてしまったのだ。
 
 
 
たしかに、僕のボディガードは役に立たなかったし、まして僕が役に立つはずなどない。
イキナリ、隣を歩いていたフランソワーズに突き飛ばされ、道に転がっているうちに、全てが終わってしまった。
 
後で聞くと、ボディガードも同じように彼女に転がされ、ついでに蹴飛ばされて、かなり遠くへ吹っ飛んでいったので、拉致には至らなかったらしい。
彼女が僕にそうしなかったのは、怪我をさせないためだった…と、これもまた後で聞いた。
 
とにかく、呆然としている間に、車の中で僕たちは縛り上げられ、目隠しに猿ぐつわまでされてしまった。
呆然としながらも、僕は彼らの会話に注意深く耳を傾け……そして、ほどなく理解した。
彼らは、テロリストであるにはあったが、政治よりは金に関心がある連中で、僕たちの身代金を狙っているようなのだった。その金額まではわからなかったけれど……
 
身代金ですむなら、なるべく早く取引して、早くはらってくれないかなーと、僕はぼんやり思った。そうすれば、どうにか公演には間に合う……いや、さすがに初日は無理か。
 
やがて、車から降ろされ、僕たちは窓のない倉庫のような場所に監禁された。
目隠しと猿ぐつわをはずされ、ようやく会話ができるようになったとき、フランソワーズが心配そうに「大丈夫?」と囁いた。
そこで、なんとなく問わず語りに、身代金の取引時期について、あれこれとそのとき考えていたことを話すと、彼女は……笑った。
忍び声ではあったけれど、笑ったのだ。
 
「さすが、ジョエルね……大丈夫、初日だって間に合うわ、きっと。怪我だけはしないようにしなくちゃ、私たち」
 
フランソワーズは、この状況にあって、自分に迫った身の危険ではなく公演のことをひたすら心配していた僕を笑ったらしい…のだけど。
この状況にあって笑える彼女のほうが、オドロキだと、僕は思った。
 
思えば、そこに閉じこめられていた時間は結局それほど長くはなかったのだけれど…その後、僕たちへの待遇は、比較的よかった。
テロリストたちは片言のフランス語で、なんだか妙に親切に、怪我をしていないか、気分はどうかと繰り返し尋ね、僕たちが快適に過ごせるように、できる範囲で心を配ってくれた。食事だって、彼らが食べているものより上等なものをあてがわれた……と思う。
 
だから、すべてが終わり、彼らが逮捕されたとき、僕はそのことを話して、彼らの罪を軽くしてもらえるように頼んでみた……のだけど、一笑に付されてしまった。
つまり、彼らは、僕とフランソワーズが、身代金の取引なんてアブナイ真似をしなくても、それ以上に金になる素材だ、と見積り、「商品」として、丁重に扱っていたのだ……という。
 
……え?
 
なんとなく、いわゆる人身売買…の話をしているのはわかった……けれど。
なるほど、フランソワーズならものすごく高く売れるかも、というのはなんとなく想像できるけど……
 
……僕?
 
きょとん、としている僕を指さし、警察の連中は大笑いしたものだ。
 
ヤバイ、たしかにかわいいぞ!
俺も買えるモノなら買いたくなっちまった!
 
…って、フザけるな!
 
だから。
実は、僕たちの捜索は困難を極めるはずだった。
手がかりはあっという間に消されていったのだから。
 
それなのに、結局僕たちは、翌日の公演初日、舞台に立つことができたのだ!
 
 
 
もともと暗い部屋だったが、食事の間隔や疲労の感じからすると、もう真夜中だと思われた。
どうにも目がさえていた僕も、さすがにうとうとしかけていた…ときだった。
いきなり、すさまじい光と音に包まれ、ふわっと体が浮いた。
 
爆発だ!と思い、僕は悲鳴を上げた……が、覚悟していた衝撃は来なかった。
あれ?と思ったときは、何かに抱えられていて……風を切っていた。
自分の状態がよくわからない。
 
風の当たり方から考えると、猛スピードで走る自動車か、列車…ぐらいの速さで動いている。
が、僕をがっちり支えているのは、間違いなく一人の人間の手で。
しかも、僕の目にはすさまじい速さで動く地面と、やはり人間の足が見えるのだ。
 
要するに、僕は一人の人間の肩に担がれていて、その人間は自動車並みの速さで走っているらしい。
すっかり混乱した僕は、やがて、どこか物陰のようなトコロに下ろされ、ここでおとなしくしていろ、絶対に動くな、声も立てるな、と厳命されたときも、ただうなずくことしかできなかった。
 
が、その人間が一瞬のうちに立ち去り、辺りがしーんとしていることに気付く…と。
僕は、ハッと立ち上がった。
 
「フランソワーズ!」
 
そうだ、フランソワーズはどうしたんだ?
たしかに、あれは爆発だった。
僕はなぜか怪我ひとつしていないけれど、あれは夢などではない。
 
「フランソワーズ!……フランソワーズ、どこだ!?」
「…この野郎っ!」
 
いきなり後ろから羽交い締めにされ、口を塞がれて、僕は泡を食ってじたばたした。
あの人間…当然というかなんというか、男だった…が、戻ってきたのだ。
 
「…っ!」
「動くな、声を立てるなと言っただろうっ!」
「…っ!…っ!…っ!」
 
僕は夢中でもがき、わめこうとし続けた。
根負けしたのか、男はやがて息をつき、わかったから言いたいことを言ってみろ、ただし小声でだ…と吐き捨てるように言うと、僕の口から手を離した。
 
「フランソワーズを、どうしたっ?……彼女に怪我などさせていないだろうな?」
「…その心配はない。彼女は無事だ」
 
あまりにもそっけなく即答するので、僕は苛立った。
男は、よく見ると妙な長いマフラーを首に巻いている。着ているものも、あきらかに何か戦闘服のようなモノだ。
どこのテロリストだか知らないが、どー見ても芸術を理解できる感性の持ち主とは思えなかった。
烈しい怒りに突き動かされ、僕は我を忘れて怒鳴った。
 
「オマエにはわからないだろうが、彼女はこの世の宝石だ!彼女に比べれば、こんなチンケな国なんかどーでもいいし、オマエらのケチな組織だって、戦いだって、カスみたいなモノなんだ!いいか、彼女をちょっとでも傷つけたら、天罰が下るからな!一生呪われろ、このクソ野郎ども!」
「…小声で、と言ったはずだが」
 
男はいかにも不快そうにつぶやくと、長いマフラーを外し、あっというまに僕を縛り上げてしまった。
ますます憤慨してもがいてみた…が、身動きもできない。さっきの連中とは縛り方が違う。
そう気付くと、いきなり恐怖がこみ上げてきた。
 
男は冷たい眼差しで僕を見下ろしている。
そして、その右手に銃が構えられていることに、僕は初めて気付いた。
 
殺されるのかもしれない。と、思った。
奇妙だと思うが、そのときになって、僕は初めてそう心から思い、恐怖したのだ。
…しかし。
それならそれで、どうしても確かめておかなければならない。
 
「フランソワーズは……僕と一緒にいた、あの女性は本当に無事なのか?」
「無事だ」
「本当だろうな!」
「…しつこいヤツだなあ…」
 
男は溜息混じりに、ぼやくように言った。
その声音がなんとなく間が抜けた感じだったので、僕はちょっと拍子抜けした。
落ち着いてよく見ると、なんだかコドモみたいな童顔の男だ。
が、その目はやはり恐ろしいほど冷たく澄んでいて、全身からは張りつめた殺気のようなモノ…いや、見ようによっては、天才的なダンサーの持つオーラのようにも見えなくもない、不思議な気配が漂っていたのだ。
 
なんだ、コイツ。
 
と、思った。
思うと、つい考えもなく口が滑ってしまう。
僕は、無造作に彼のナイフのような眼差しを見返し、こう尋ねていた。
 
「オマエは、何者だ?」
 
男は驚いたように目を見張った…が、それは一瞬のことで、その眼差しは再び氷のような光となり、僕を突き刺した。
息を呑む僕に彼は言った。
 
「そういうお前は、誰だ?」
 
……え。
 
戸惑っている僕に、彼は溜息をつき、微かに笑ったように見えた……しかし。
あっと思ったとき、彼の銃口は僕に向けられていて、その一瞬後、僕は意識を失ったのだ。
 
 
 
そして、次に目を覚ましたとき、僕は病院にいた。
どういうわけか、救出されていたのだ。
フランソワーズも無事だったということがわかり、僕は安心して少し遅くなった朝食をつめこんだ。
 
何事もなかったように、その日はスケジュールどおりにコトが進んだ。
初日の舞台は、大成功だった。
 
その後はテロの気配もなく、僕たちは公演を十分に楽しんだ。
観客もそうだったと思う。
すばらしい日々だった。
 
千秋楽を終え、控えめながら打ち上げもすませると、フランソワーズが僕のトコロに歩み寄り、楽しかったわ…ありがとう、と微笑して、右手を出した。
彼女は、これでまたしばらくバレエから遠ざかるのだという。
 
僕の方には、思わぬオファーがいくつか集まっていた。
戦火の国での危険なバレエ公演の成功は、どうやらかなり話題になっていたらしく、結果として、僕はずいぶん有名になっていた。
ということは、たぶん、フランソワーズにだって、それなりにいろんな話がいったのではないかと思う。
実際、公演の成功には、僕なんかより彼女の力量の方がずっと大きかったに違いないのだから。
 
もったいないなあ…と思わずつぶやく僕に、フランソワーズはまた笑って、ありがとう、と言った。
どんなワケアリなのか知らないけれど、本当にもったいない。
…でも。
 
「でも、バレエをやめるわけじゃないなら…それなら、きっとまた会えるよね」
「…ええ。きっと…本当に幸せだったわ、ジョエル。ありがとう」
 
僕たちはありったけの思いをこめて、短いキスを送りあった。
これで、彼女と会えなくなるのか、と思うと、なんだかこれまでのことが美しい夢か何かのような気がしてくる。
切ないけれど……やっぱり、彼女の言うとおり、僕も幸せだったのだと思う。
 
それじゃ、さようなら…と、彼女は軽やかに身を翻して駆けていった。
ちょっと追いかけたい気持ちもあったけれど、ちょうどそのとき、次の舞台の話を持ちかけてきた男に呼び止められて、僕はあっけなく彼女を見失ってしまった。
それが、彼女と話をした最後だった。
 
…のだけれど。
偶然にも、僕は帰国の途についた日、空港で彼女の姿を見ることができた。
あの、ボディガードの青年と一緒だった。
 
彼女たちは少し離れたところにいたので、フツウなら、僕が気付くこともなかっただろう。
「ジョエル!」と、彼女の声が聞こえたような気がしたので、僕ははっと振り向いたのだ。
しかし、彼女は僕を呼んだのではなかった。
 
ボディガードの青年に楽しそうに話しかけていた彼女は、やがて、そっと背伸びをすると、彼の頬に口づけた。
遠くで見ていてもどきっとするような愛らしい仕草だった。
 
ボディガードの青年は、滑稽なほどうろたえていた。
たぶん、顔も真っ赤になっているんだろう。あれじゃ、まるっきり思春期の少年だ。
彼、実際のところ、何歳ぐらいだったんだろう?
かなり華奢で、童顔で………。
 
…あれ?
 
ふと、僕の脳裏に、あの変な服を着た変なテロリストの男がよぎった。
 
うん。
アイツも同じような感じの体格だった…と思う。
そういえば、アレは、一体なんだったんだろう。
 
救出されてからは、公演のことしかアタマになかったから、アイツのことを忘れていた。
我ながらノンキだと思う。
もっとも今後アイツと関わり合うことなどないんだろから、構わないけれど。
 
やっぱり彼女に話しかけておきたいなあと思い、一歩を踏み出したとき。
僕は大きく目を見開き、その場を動けなくなった。
 
少年のようにはにかんでいるばかりに見えたボディーガードの青年が、いきなり彼女を抱きしめ、唇を重ねたのだ。
なんというか。
文句のつけようのない濃厚なキスシーンだった。
 
――なんだ。やっぱり恋人だったんじゃないか。
 
僕は口の中でつぶやいた。
考えてみたら、彼女にボディガードなど必要ないのだ。例の事件で、それがよくわかった。
ワケアリの彼女の、それがワケなのかどうかはしらないが、彼女はとにかく、ありえないほどの護身術…というか、ほとんど戦闘技術…を身につけた女性だったのだから。
 
やがて青年は彼女をそっと離し、何やら耳に囁きかかている。今度は彼女がうろたえているようだった。彼女は邪険に彼を振り払い…それから、責めるように言った。
 
「…ジョー!」
 
…そういうことか。
さっき、彼女はやっぱり僕ではなく、あの青年を呼んだのだ。
 
ジョー、ね。
僕と、結構似た名前じゃないか。
 
 
やだなあ。と、思った。
 

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