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平ゼロ
 
アイツの機嫌が斜めになるときってのは、大抵がヤツ絡みだ。
だから、まあ要するにそういうことなんだろう…と思った。
オンナの機嫌なんざどうでもいいといえばいいんだが、アイツに限ってはそうとも言い切れねえトコロがある。
 
だから、面倒くせえなと思いながらも一応フォローしておいたわけだ。
そうツンツンするな、別に009はあの娘に惚れたわけでもないだろうよ……とな。
ところが、ソレが失敗だった。
 
俺としては、そう言ってやればあの緑の目が花火みたいにばちっと光って「バカなこと言わないで!」とかみついてくるだろうってんで、身構えていたのさ。
が、そうはならなかった。
代わりに、アイツはほとほとあきれ果てた、というか…こぉ、憐れむような目で俺を見やがったんだ。
で、こうだぜ。アナタって、ホントにそういう発想しかないのねえ……だと。たしかに、言われてみりゃそうかもしれねえ。俺はアイツのように学があるわけじゃないしな。
 
そんなわけで、馬鹿馬鹿しいが、乗りかかった船だ。結局、アイツの愚痴をさんざ聞く羽目になっちまった。
で、もっと馬鹿馬鹿しいことに、やっぱり問題はヤツ…009と、あの娘にあったわけだ。
 
009のドコがそんなにイイのか俺には正直サッパリだが、あの可愛げのねえ跳ねっ返りが、ヤツのことになると人が変わっちまう。おそらく、009はアイツ…003を、聖母マリアかなんかだと…要するに、慈愛の女神、ぐらいに思ってるんじゃねえか?まったくお笑いだが、たしかに、アイツは009の前ではそう見えなくもない…って気がする。まあ惚れるってのはそういうことなんだろう。
 
で、アイツは今まさに、その慈愛の女神のツラで憂えてるトコロだったのさ、大事な大事な思い人が、今、とてもつらい…不幸な思いをしているんじゃないか…ってな。
馬鹿馬鹿しいったらねえぜ。
 
アイツが言うところの「カレの気になる台詞」は、そういや俺も聞いた。
BGのヤツらから俺たちが助け出した、ちょっとカワイイお嬢さんが009をうっとり見つめて、ありがとうございます、とかなんとか言ってたときだ。
よくあることだが、ああいうときオンナってのは現金なもんさ。どう見たって009ひとりで彼女を助けられるはずもないし、そんなことは誰にだってわかりきってるはずだ。にも関わらず、お嬢さんはまあ、ヤツだけを見つめてヤツだけに礼を言うんだよな。
それがどういうことだか、俺にはわかるし、大抵の男にもわかりそうなもんだが、009にはわからねえ。なんでわからねえのかもサッパリわからねえ。
 
が、とにかく009はそういうことがわからないヤツだってことだ。
だから、件のお嬢さんが澄んだ目に涙を浮かべて、自分だけに「あなたは、誰…?」と張り詰めた声で聞いたのはどうしてなのか、ってことがまるでわかってなかったのさ。
つまり、ヤツは、しばーらく考えてからこう言った。
 
「ボクは……ボクは、ブラック・ゴーストと戦う者だ」
 
…だから、なんだよ?
 
と、俺じゃなくたってアタマを抱えるぜ。
で、それを聞いてたアイツもアタマを抱えたってわけだ。もちろん、嫉妬やら何やらが混ざってなかったとは言えねえだろうが、それよりも……なあ?
そんなわけで、アイツは憂える聖母の表情のまま、まくしたてた。
 
カレは、本当に自分をそういうモノだとしか考えていないのかしら?
自分が「島村ジョー」という、ひとりの…かけがえのない人間である、ということがわかっていないんじゃないかしら?
カレは、なぜ戦っているの?ただ、それが自分の宿命だから?サイボーグとしての存在価値がそれしかないから?
助けられた彼女の感謝の思いも、彼女が自分を慕ってくれているのだということも、カレを素通りしてしまっているような気がするの。それって……それって、とても悲しいことだわ。
 
オンナの言葉ってのはわかりにくい。
特に逆上してる、学のあるオンナとなればもう俺にはお手上げだ。
だが、アイツが言いたいこと…怒っている理由は、なんとなくわかる気がした。
009については、俺にも思い当たることはいくらかあったからな。
とにかく変なヤツだ。少しも自分を大切にしやしねえ。長生きはしないだろう。
 
そんなヤツに惚れてるアイツも難儀なオンナだってことだが。
もっとお手軽で楽な男がいくらでもいるだろうによ。
別に、俺じゃなくてもな。
 
 
 
そんなことを思い出したのは、手を離せ、とコイツがわめいたからだ。
離せ、君だけなら助かるかもしれないじゃないか、だと。
 
そのつもりなら、はじめっからこんなトコロに来やしねえ。
要するに俺の努力は無駄だってか。この正直者。
たしかにその通りらしいが。
 
それでも、何もかもが無駄だってわけでもないだろう。
コイツをとにかく大気圏に引っ張り込んだ。宇宙の浮遊ゴミにはしなかった。
で、こうして落ちていけば……運がよければ、燃え尽きるところをあの緑の目に見届けてもらえるかもしれないぜ?
いや、それじゃ運が悪いのか。
 
だがな、009。アイツは、見届けたいと思うだろうぜ。
他にどうしようもねえのなら、せめて見届けたいと思うさ。
俺にはわかる。アレはそういうオンナだ。
本当に可愛げがねえのな。
 
わかるか?
燃えていくのが。
「ブラック・ゴーストと戦う者」が、今燃えていく。
 
ざまぁみやがれ。
そんなけったくそ悪いモノなんざ、さっさと燃え尽きるがいいさ。
そうすりゃ、きっと現れるだろう。
アイツがあの緑の目で見つめても見つめても見つけられなかった……それでも焦がれ続け、探し続けたモノが。
 
アイツに見せてやれよ、009。
「ブラック・ゴーストと戦う者」とやらが燃え尽きた後、残ったモノを。
ほんの一瞬の輝きでもいい、それを見逃すアイツじゃないさ。
 
おい、わかるか?
「ブラック・ゴーストと戦う者」が、今燃えていく。
ああ、せいせいする。
これが俺たちの…本当の俺たちの始まりだ。
 
 
ジョー、きみはどこに落ちたい?
 

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