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介護のお仕事 街頭インタビュー 百合男子?

   超銀
 
 
「ジョ、あの……シマムラさん、何か、ご用ですか?」
「えっ?!……あ、……その」
 
青い瞳に強い非難の色を認め、ジョーはうろたえた。
別に、やましいことがあるわけではない。たしかに、つい目を奪われて見とれてしまっていたけれど、のぞいていたわけではないし、百歩譲って実はのぞいていたのだとしても、フランソワーズがそれ以上……なんというか、脱いだりするはずはないわけだし。
……しかし。
 
「とにかく、もしご用なら後でうかがいますから、今はご遠慮ください……ごめんなさいね、玉田さん」
「いいえ、お気になさらないで、アルヌールさん……うふふ、こんなおばあちゃんですもの、恥ずかしいことなんてもう何もありませんわ」
「あ!……す、すみませんでした!」
 
ようやくハッとしたジョーはしどろもどろになりながら後ずさりし、そのまま足早に立ち去った。
かーっと熱くなる頬をもてあまし、馬鹿か、俺は……と、心で繰り返す。
 
半袖のTシャツ、短パンになったフランソワーズのすらりとした手足と、やや上気してバラ色になった頬……しか見えておらず、なぜ彼女がそんな状態になっているかというところに、全く考えが及んでいなかった。
 
「……あんなお若い素敵な方の目にとめていただけるなんて、むしろ嬉しいことですのよ」
 
老婦人の鷹揚で上品な声と、申し訳なさそうに非礼を詫びるフランソワーズの声を耳を澄まして拾い、ジョーは思わず溜息をついた。
 
お年寄りたちの……特に女性の尊厳を損なうような言動には特に注意してほしい、といつも念を押されていたのに、油断していた。
幸い、さっきフランソワーズが入浴介助をしていたのは、温厚で品のある老婦人として施設でも一目置かれている玉田さんだったから、シマムラにのぞかれたと騒いだりすることはなさそうだ……が。
後でフランソワーズに叱られることは間違いなかった。
 
 
 
研究所への帰途の車中、ジョーは覚悟していたほどには叱られなかった。
が、その代わり、何ともいえないもやもやした思いを味わう羽目になっていた。
 
「別に、そんなことまでしなくてもいいんじゃないかな。……この手伝いだって、いつまでもするわけじゃないんだし」
「そういうわけにはいかないわ。入浴って、お年寄りの皆さんにはとても大事なことなんですもの……少しでも不愉快な思いをさせるのは申し訳なくて」
「でも……だからって」
「ええ。グレートにはとても失礼なお願いだって……わかっていたわ。でも、彼、何でもないことだって、笑って引き受けてくれたの」
 
そりゃそうだろう、誰だって引き受けるにきまってる……と言いそうになるのを懸命にこらえた。
なんなら自分にも今すぐ変身能力をつけてくれと、ギルモア博士に頼みたいぐらいだ。
 
そんなジョーの心中を知ってか知らずか……いや、知っているに違いないグレートは、その晩、フランソワーズの求めに従って髪を伸ばしたり縮めたり、増やしたり減らしたりしながら、シャンプーの練習台となった。
もちろん、聞こえよがしに、時折楽しそうな声を上げながら……だ。
 
(あ〜、念のため、誤解のないように言っておくが、吾輩は英国紳士の誇りにかけて、フランソワーズに触ったり、邪な視線を投げたりはしておらんからな、ジョー)
 
こちらの神経を更に逆撫でするような、いらん脳波通信まで送ってくる。
ジョーはひたすらそれを黙殺し、フランソワーズに頼まれたイワンの世話を淡々とし続けた。
 
〈ねえ、ジョー……君って、やっぱり……〉
「……なんだい?」
 
思わず不愉快な声が出てしまった。
この赤ん坊はこういう時、ロクなことを言わないのだ。
 
〈……脱がせるの、上手いねぇ……〉
「は?」
 
わけがわからない。
わかっても仕方ない、とも思った。
 
 
 
「え……ジョ、シマムラさんのファンクラブ……です、か?」
「そうなの。まあ、それ自体はちょっとした生きがいみたいなモノだから歓迎なんだけど、実はその人たちが、玉田さんとトラブルになっているっていうか……」
「トラブル……まさか、シマムラさんをめぐって…?」
「そういうこと。アルヌールさん、気付いてない?島村さん、彼女のことだけファーストネームで呼んでいるの。弘子さん……ってね。それがファンクラブのおばあちゃんたちには気にくわないのよ」
「……」
「どうも、玉田さんがそう呼んでくれって言ったらしいんだけど……」
「ファーストネームで呼ぶのは……よくないんでしょうか?」
「うーん……まあ、ご本人の希望なら、よくも悪くもないことね。でも、こうなってしまうと、フツーに玉田さん、って呼んでくれる方がいいかなあ…」
「そ……うですか」
 
フランソワーズは複雑な思いでうつむいた。
ジョーが彼女を玉田さん、ではなく弘子さん、と呼ぶようになったというのは、おそらく、彼女に頼まれたから……というだけでなく、自分を気遣ってのことではないかと思うのだった。
 
彼には何も言ったことがないし、彼も何も言わない。
が、最初に、誰かが「タ・マ・ダ・さーーん!」と呼ぶ声を聞いたとき、思わず体がこわばってしまった……のを、彼はたぶん気付いている。
次の瞬間、強くぐっと抱き寄せられた……のも、たぶん錯覚ではない、とフランソワーズは思っていた。
 
所長は、暗に、ジョーに忠告してほしいと言ったのだろう。
しかし……何をどう話したらいいものか。
 
もうすぐ、自分たちはここを去らなければならない。
老人たちに、不要な確執を残していくのは本意ではない。
 
考え考え歩いていたフランソワーズは、はっと顔を上げ、咄嗟に後ずさりして物陰に身を隠した。
日当たりのいいベンチに、ジョーと玉田さんが並んで腰掛けていた。
玉田さんはジョーによりかかるようにもたれ、ジョーは彼女の腰に腕を回し、しっかり支えている。当然といえば当然の姿勢なのだが。
 
「あなたは、もうすぐここを去ってしまわれるのね……さびしくなるわ。私、これからどうすればいいのでしょう」
「大丈夫ですよ。みなさんが、僕たちなんかよりずっとよくしてくれているじゃないですか」
「いいえ……私にはわかります。誰も私のことなど……でも、それも当然なのですわ」
「……弘子さん」
「そう呼んでいたけて、嬉しい……あなたがいなくなったら、もう私をその名で呼んでくれる人などいないでしょうね」
「……」
 
「まーたやってるよ!ほら!」
「――っ!」
 
いきなり後ろから腰を叩かれ、フランソワーズは思わず悲鳴を上げそうになり、懸命に口を押さえた。
おそるおそる振り返ると険しい顔つきの老女が数名、玉田さんとジョーをじーっとにらみつけている。
 
「まったく、島村さんもだらしないねぇ!ちょいとしなだれかかっただけであのザマじゃあ……」
「ちがいますよ、島村さんは悪くありませんって……かわいそうに、あの女狐にすっかり騙されて……」
「……」
 
つまり、この人たちがジョーのファンクラブの老女たち……ということらしい。
 
「アルヌールさん、あんたからビシっと言ってやらなきゃ。男ってのは馬鹿だから、そうでもしないと目を覚ましませんよ」
「え……」
「そうそう、それが一番いい薬になりますからね。どんな男でも惚れた女には弱いんだし、それがこんなに可愛らしいお嬢さんとくれば……」
「あ、あの」
 
どうしたらいいかわからず、おろおろするフランソワーズだったが、老女たちはそれ以上彼女を振り向くことなく、玉田さんとジョーにじーっと注目しては、あれこれと陰口を言い続けた。
やがて、そうっとそうっと後ずさりするように彼女たちから離れ、フランソワーズは大きな溜息をついていた。
 
 
 
どうした、と心配そうに問われ、フランソワーズは何度目かの溜息をようやくのみこんだ。
 
「疲れているんじゃないのか?……もう休むといい。ここは僕だけで大丈夫だから」
「そういうわけにはいかないわ。お仕事ですもの。それに、いつものミッションに比べたら……いいえ、比べものにならないくらい楽をしているわ」
「……そうかな」
「あ……そうね。たしかに、大変なこともあるけれど……でも、それも楽しい。誰かの役に立てているんだってわかるから」
「フランソワーズ」
 
不意に抱き寄せられて驚いたように見上げるフランソワーズにジョーは半ば強引に唇を重ねた。
 
――僕は、怖がっている。もし、君がここに残る、と言ったら……
 
国際宇宙科学研究所に一種のノルマとして課せられている社会貢献活動……ボランティア活動にいかにも人出が足りなそうだったのを見かねて、フランソワーズとともに参加してみたものの、ジョーはそこで生き生きと働く彼女の姿に淡い不安を抱くようになっていた。
 
――わかっていたはずだ。君には戦いは似合わない。バレエより、とかいうことじゃない。どんなことよりも……一番似合わないのが、戦いなんだ。
 
「ジョー……ジョーったら……心配して……くれたんじゃなかったの?」
「……心配?」
「私が……疲れているんじゃないか……って」
「ああ。……そうだね。心配だ」
「嘘。だって、こんなの、疲れているヒトにすることじゃないわ」
 
拗ねた表情が珍しく、愛おしい。
ジョーは彼女の抵抗を抑え込み、しっかりと抱きしめると、耳元に囁いた。
 
「じゃ、君を疲れさせている問題を根本的に解決しよう。たとえば、スキャンダルをスキャンダルで封じる……っていうのはどう?」
「……え?」
 
仮眠用のベッドに押し倒され、息をのんだフランソワーズが、咄嗟に周囲を「見た」ことに、ジョーは気付いた。
同時に抵抗が激しくなった……ということは、もしかすると。
 
「誰か外にいた?……そうだな、所長さん、こうなることを心配していたみたいだし……あのおばあちゃんたちも……もしかすると、タマダさんもそうだったのかな」
「ジョー、やめ……て、お願い……!」
「でも、結局こうして君と宿直させた……ってことはさ……期待に応えなくちゃいけない……ってことかもしれないじゃないか」
 
――そうだ。見せつけてやればいいんだ。
 
「とにかく、疲れているならおとなしくしたほうがいい。どうせ暴れたって無駄だろう?……僕は上手だって有名らしいよ。この前イワンにも言われたっけ」
 
そう言われても何のことだかわからないらしい。
そんなフランソワーズから、最後の衣服をするりと自然に取り去り、ジョーは満足そうに微笑んだ。
同時に間違いなく背後に感じ取ったのは、息をころしてこの部屋の内部をうかがっているヒトの……それも複数の気配。
もっとも、フランソワーズのことだから、これから何をされようと決して声をもらしたりはしないのだろうけれど。
 
「僕は、コレでクビになっても別にいいんだけど……」
「……」
「でも、君は、そうじゃないんだろう?」
 
 
彼女がそれには答えない……ことを認めなくてもすむように。
ジョーは彼女の唇をゆっくり塞いだ。
 

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