すらすら嬉しそうに語る009の言葉に、003はあっけにとられ、まじまじとその横顔を見上げた。
ふと気付くと、インタビュアーもカメラマンも、虚を衝かれた表情になっている。
――当然よ、ここは、トウキョウ……日本なのよ、ジョー!
「……それじゃ、もう……いいですか?」
「え、あ、ああ、はい、ありがとうございました……」
「こちらこそ。……行こうか、フランソワーズ」
「……え」
ぐい、と肩を引き寄せられた。
そのまま、半ば抱きかかえられるようにして、うつむいたまま黙々と歩き続ける。
ようやく足が止まり、顔を上げると、大きな交差点に来ていた。
向かっていた先とは方向が違うことに気付き、003は首をかしげた。
「ジョー……駅に行くのではないの?」
「無駄だ。泊まれるところを探そう」
「え?!」
「トウキョウは雪に弱いんだ。すぐ交通機関がマヒする。もちろん、飛行機だって飛ばない」
「……」
耳を澄ませてみると、たしかに近辺の駅では小さな混乱が始まりつつあるようだった。
「少し急ごう。……同じことを考えているヤツはたくさんいるだろうから、ホテルもすぐ満室になる」
「……」
「君を、空港のロビーで寝かせるわけにはいかないよね」
「……あの」
「理由があるってのは、いいもんだな……めったにないからさ、こういうことは」
「つまり、それが『特別な気持ち』ってことなのかしら……でも、ジョー、私たちにとってロビーで寝るくらい、なんでもないことよ?」
「特別な場合に限っては、ね」
「たしかに、普段ならトウキョウは戦場ではないけれど……でも、今は『特別な場合』そのものなんじゃなくて?」
「全然違うさ。いくら非常時の空港でも、みんなのど真ん中で堂々と君を抱いて寝るのは無理だろ?」
「……」
「『特別な気分』だからこそ、どんな場所であろうと眠れるんだよ、フランソワーズ。なんだったら試してみるかい?……ちょっと山の方まで行ってさ、雪洞を掘って潜り込んで朝まで温め合うってのはどうだろう?……君と一緒なら、きっと極上の天国になる」
長い沈黙の後、003は消え入るように、ホテルでいいわ……と言った。
「……そうか。じゃ、そうしよう」
009は満足そうに微笑し、003の肩を抱き直した。
雪はみるみる積もっていく。もしかすると、記録的な大雪になるのかもしれない。トウキョウがかつて経験したこともないほどの。
これでは、手当たり次第に街頭インタビュウをしたくなるのも無理はない……と009は思った。
このぶんだと、明日も飛行機は飛ばないだろう。
ずっと、ずっと降り続けばいいんだ。
この街がすっかり雪に埋もれても、二度と動かなくなっても、僕には関係ない。
君がいる……この、特別な時間が続く限り。
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