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 3      平ゼロ
 
「へっ?……学校?……お前がか?」
 
この家に来ると、いつも何かしら新しく妙なコトがあるよなぁ……と半ば感心しながら、002はコーヒーを啜った。
 
「ええ……困っちゃった。009が親切で言ってくれているのはわかるんだけど……でも、わかるのはそれだけ。不思議な人よね」
「親切っつーか、大きなお世話ってヤツだろ?……お前って確か、結構ガクがあるんじゃ……」
「それはずいぶん昔の話、だけど……でもね、009は学問を勧めたいわけじゃないみたいなの」
「なんだそりゃ?……学校ってのは勉強するトコロじゃないのか?」
「もちろんよ。……でも、彼が言ってるのは、少し違ってて……つまり、私にお友達ができるといいなってこと……なのかしら」
「……オトモダチ?」
「ええ」
「な、るほど……」
「002、わかる?」
「いや……わかるっちゃわかるような気もするが……フーン、オトモダチ、ねぇ……」
 
しきりに首をひねっている002に、003はためらいがちに、何冊かの色刷りのパンフレットを見せた。
 
「見ておくだけでいいって言われたんだけど……ここから無理なく通える学校の入学案内なんですって」
「へぇ……?ギルモア博士は何て言ってるんだ?」
「私が行きたいなら……って。コズミ博士も、悪くない発想だけど、私の気持ち次第だっておっしゃったわ」
「しっかし……どうせ行くならカレッジの方がいいんじゃないのか?コレはどう見てもハイスクール……いや、ジュニア・ハイか?」
「ハイスクールよ。……日本人は若く見えるから」
「それにしたって……」
「年齢の問題なら……もともと、あってないようなものでしょ、私たち」
「大体、人のコトより、アイツ自身はどうなんだよ、学校?」
「もう卒業してるんですって」
「……ふぅん?」
 
――まさかコイツを自分より「年下」にしようってツモリじゃないよな……?
 
ふと浮かんだ考えを、002は即座に打ち消した。
そんなはずはない。
003ではないが、そもそも自分たちにとって、年齢が上とか下とかいう話はナンセンスの極みだ。
 
 
 
挑発するつもりも半分はあった。どうせ乗ってこないだろうという気はしたが。
その気分がおそらく伝わったのだろう、009はやや不愉快そうに、なぜ君がその話を知っているんだ?と尋ね返してきた。
 
「まあ、相談されちまったからな」
「君が?……003に?」
「ああ。まあ……俺たちは古いつきあいだし」
「……なるほどね」
 
それきり黙り込んだ009に、002はむっとした。
たしかに、学校うんぬん、というのは003の問題であって、002には何も関係のないことだ。おそらく、009はそう言いたいのだろう。そう言ってはいないが。
 
「俺にはサッパリわからないが……日本のハイスクールってのは、そんなにいいトコロなのか?」
「別に……そういうわけじゃない、でも、003は当分フランスに帰らない、ここにいるって決めたらしいんだ。それなら、僕やコズミ博士しか日本人の知り合いがいないって状態はもうひとつなんじゃないかと思ったんだよ。学校に行けば、友達だってできる。……今の003は何かあっても気軽に相談できる相手すらいないんだ」
「は?……何言ってるんだ、現にアイツは俺に……」
「だから、じゃないか!……僕たちなんかより、同じ年頃の女の子にいろいろ相談できる方がいいって、君は思わないのか?」
 
そう言われてみると、思わない、とは言えない。
しかし。
 
「お前って、変なヤツだな……009」
「そうかな。……よくわからない。003にもそう言われた」
「まあ……別に、悪いことじゃないんだろうが……だが、よくそんなことに気付くもんだ。本来ならギルモア博士あたりが言うだろ、そういうのは」
「どうだろう。……僕だって、気付いたのはたまたま、なんだ。でも、どっちにしても003が君にそうやって相談したってことは、相当悩ませちゃってるってことだよね」
「……まあな」
「無理強いするつもりはないんだ。……僕だって、学校にそれほどいい思い出があるわけじゃない。でも、彼女はきっと違うって気もする。よくわからなかったけど、僕が通っていた学校でも、女の子たちはなんだかいつも楽しそうだったから」
「楽しそう、ねえ……?だが、コレを見る限り、どれもこれも、やけにお堅そうなトコロばかりだぜ?しかもみんな女子校だ」
「003はカトリック信者だって聞いたから、そういう系列の学校がいいかなって思ったんだ。そうすると、こんな感じになる……でも、君や僕が窮屈に思うぐらいの雰囲気の方が、彼女には向いているんじゃないかな」
「ふーん?……なんだ、どこも制服があるのか……妙な服だな?」
「そうかな?張々湖飯店の制服よりは普通だと思うけど」
「……アレは制服なのか?」
 
009は眉を寄せ、考え込んだ。
考え込むようなことか?と思いながらも、002は口を噤んでパンフレットをめくり続けていた。
 
 
 
やっぱりやめておくわ、ありがとう……と微笑む003の言葉を、009は穏やかに受け取った。
それはそうだよな、という思いもあった。
 
「でも、私のことを心配してくれたのは、嬉しいわ……009、どうしてそんなことを思いついたの?」
「……ミュートスとの戦いのとき、僕を助けてくれたアルテミスのことを……思い出したんだ」
「アルテミス……あの、黒髪の……?」
「うん。……彼女と、少しだけ話をしたんだ。そのとき、君を思い出した。どこが似ているっていうわけじゃなかったけれど……それに、わかり合うことも結局できなかったけれど」
「……」
「もし、彼女と話をしたのが僕なんかじゃなくて君だったら、もっとよくわかり合えたんじゃないかって……今でも思う。そうすれば、もしかしたら、誰も死なずにすんだのかもしれない……って」
「……009」
「わかってる……甘いよね」
「そうね。……それに、危険な考え方だわ」
「……」
「だって、あの島がああなったのは……あなたのせいじゃない」
「……うん」
「あなたはバカよ、009」
「……うん」
「いいこと?……私、ホンキで言ってるのよ」
「……」
 
うつむく009を003はそっと抱き寄せ、その栗色の髪を優しく梳くように撫で続けた。
 
「学校……楽しいかもしれないわね。あなたが会った、アルテミスのような素敵な女の子もいるかもしれない……そういう友達が自然にできて、この国にもこの時代にも自然に馴染むことができて……自分は生まれ変わったんだ、もう普通の女の子なんだって、自然に思えるかもしれない。そうなったら、きっと幸せね」
「……003?」
「でも、ダメ……そうしたら、誰が001や博士や……あなたの面倒を見るの?」
「そ、それは……!そんな心配はいらないよ!」
「いいえ、ダメよ、009。……せめて、あなたがもっと、ちゃんとしたオトナになってくれなくちゃ」
「……」
「でなきゃ、私……どこにも行けないわ」
「僕のせいに、するのか?……ズルいよ」
「そうね……ズルいわね、きっと……でも、あなたのせいなのよ、009……私は、どこへも行かない。あなたが子どもで、わからずやで、少しも目を離すことができないお馬鹿さんだから」
「……」
「ずっと、お馬鹿さんでいてね、009……そうすれば、私、ずっとここにいられるわ」
「003……?」
 
そんなの、ダメだ……と言おうとして、言えなかった。
言ってはいけないような気もした。
 
なぜそんな気がするのか、そのときの009にはどうしてもわからなかったのだけれど。
 
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Last updated: 2014/10/13