ポケットからリンゴを取り出した。
いつもの海岸の「訓練場」。
ここで、僕は戦いの技術を磨く。
いつか来る「その日」のために。
003はこの場所のことを、たぶん知っている。
僕が、昼も夜も、何度もだまって研究所を出て…結構心配をかけたから。
きっと、彼女は最後の最後に「目」を使ったんだろう。
そう思うと申し訳なかったと思う。
ちゃんと話せばよかったんだ。
こういうの、君は嫌いだろうと思った。
君を悲しませるだろうとも思った。
だから、話さなかった。
でも、君が「目」を使って、その挙げ句、こんな僕の姿を見たというのなら…
やっぱり、話しておけばよかったんだ。
僕は、いつもそういうところで間違える。
真っ赤なリンゴ。
じーっと見つめる。
かじったら、真っ赤ではなくなる。
この丸いきれいな形も崩れてしまう。
…ちょっと、かじりにくい。
でも。
さく、と音がした。
甘酸っぱい香りが広がる。
君が「目」を使ったときに見えたのが、せめてこんな僕の姿だったら。
それなら、少しはよかったのにな。
でも、今君は僕を見てはいないだろう。
どんどんかじる。
芯もできるだけかじって、最後は海に向かって放り投げた。
それから、甘い汁で汚れた手をシャツにこすりつけて……
君が僕を見るのは、たいていこういうときなんだ。
本当に、間が悪いんだよな。
…でも。
だから、僕はわかっている。
こうやって、ずうっとココに座っていれば、君がしびれを切らしてやってくるってことも。
シャツの染みがとれなくなるのを心配して、ぷりぷり怒って。
君を心配させて申し訳ないといつも思ってる。
でも、本当に僕は君を心配させているのかどうか、どうしても確かめたくなるときがあるんだ。
それが、たとえばシャツの染みであったとしても……ね。
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