カナダから、リンゴが送られてきた。
もちろん、ジェットとアルベルトから。
自分の果樹園でとれた…というわけではなくて、近所の知り合いから大量にもらったもの…らしいけど。
「おいしそうだね」
ソファで、ジョーが目を少し細めた。
でも、本気でおいしそうだと思っているようには、あまり見えないわ。
「こういうの、よく送ってくるのかい?」
「いいえ、初めてよ。手紙も初めて。うまくいっているみたいで、安心したわ」
「ふうん…?」
ジョーはフォークをとらずに、八つ切りにしたリンゴを手でつかんだ。
「キレイだ」
「…リンゴが?」
「うん。キレイにむいて、キレイに切ってある」
「そうかしら…」
「うん」
そのまま一口かじって、顔を上げて、ジョーは黙ったままこっちを見た。
やがて、ぽつりとひと言。
「おいしい」
ニコリともしない。
どうしたのかしら、ジョー。
何か、嫌なことでもあったのかしら。
たぶん、そうなんだわ。
だって、こんな…前触れもなく訪ねてくるなんて。
「でも、味は同じなんだな」
「…え?」
「コレ、さ。キレイに切ってあっても、皮ごと丸かじりしても」
「あ…そ、そうかも…しれないわね」
リンゴは、禁断の実、と言われることもある。
それを思い出したのは、その夜…私たちの初めての夜が、明けたときだった。
彼があのとき何を思っていたのか、私にはわからない。
そして今、ひとりの部屋で、私はそうっとリンゴをひとつ抱きしめている。
ジョー。
やっぱり、キレイに切り分けておくことにするわ。
だって、私たちは二人きりで生きるわけにいかないから。
きっといつも、何かを誰かと分け合いながら生きていかなければならないから。
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