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  2   新ゼロ
 
 
 
さーっと受信したメールをチェックする。
全部、スパムだ…と思う。
少なくとも、アドレス帳に登録してある仲間達の名前はない。
 
研究所にいるフランソワーズにジョーがメールを送ってから、もう5日になる。
返事が来ない。
 
大した用事ではなかった。
用事…というほどのことですらない。
 
ただ、ある調査で京都にいて。
そうしたら、雪が降って。
なかなか美しい景色だったのだ。
それで、写真を撮って、彼女にメールで送った。
それだけだ。
 
研究所への定期連絡は毎日しているし、彼女がそれを受けることもある。
だから、たとえば彼女の身に何かあって…というのはつまり、風邪を引いているとかで…メールを確認できない、ということではないのだろう。
それなら別にいいんだよな、とジョーは思う。
 
実は、最近、彼女とひそかにそういう種類のメールのやりとりをしているのだった。
彼女も、町でみかけたちょっとしたものを写真にとって、ジョーに送ってきてくれたりする。
本当にちょっとしたものなのだが、可愛らしかったり、ユーモアがあったりして、結構面白い。彼女の人柄がよく出ているなあ…と思うようなメールなのだ。
 
そのうち、ジョーも見よう見まねでそういうメールを彼女に送ってみるようになった。その内容は彼女に遠く及ばない…とは思うのだけど、それでも彼女は大いに喜んでくれているらしく、楽しそうな返事を返してくる。
毎日研究所で一緒に暮らしていて、気軽に話もする間柄の彼女とそういうやりとりをしているのはなんだかおかしい、という気もするが、それはあまり気にしないことにしたのだった。
 
雪景色の写真は、かなりいいできばえだったと思う。
それについて彼女がノーコメント、ということは…ちょっと考えられないのだが。
どうしたのだろう。
 
どうしたのだろう、と思っても、それを彼女に尋ねてみることは何となくできないでいるジョーなのだった。
そもそも、状況はそれどころではない、と言えなくもなかったし。
 
 
 
調査の結果、やはり見過ごせない動きがある。
仲間たち全員を呼ぶ必要はない…としても、いくらかの応援は必要だな、とジョーは思った。
 
研究所に電話し、すぐジェットとピュンマに来てもらうことにした。
とりあえず今欲しいのは情報整理の力と機動力だ。
 
通信を切り、なんとなく画面をメール受信に切り替えてみる…が。
やはり、フランソワーズからの返信はない。
 
写真が気に入らなかった…ということはないだろう、と思う。
それにつけたコメントだって、当たり障りのない短い言葉だった。
親しい仲間だとはいってもやはり、女の子だからなあ…と思うので、その辺は結構気を付けている。
 
それとも、何か、彼女を傷つけるようなモノが写っていたりしたのだろうか。
 
ふと不安になって、あらためて写真をじーっと眺めてみても、そういうモノは写っていない…と思う。
ただ、雪が積もった無人の日本庭園の写真…なのだから。
 
…それとも。
 
この写真が、何か、彼女につらいことを思い出させるような…そんなきっかけになってしまったということ…なのだろうか。
それが何かは見当もつかなかった…が、自分たちにはとにかく「つらいこと」が多い。
そして、それは思いも寄らないところに潜んでいたりする。
 
フランソワーズは笑顔を絶やさない少女だった。
ちょっと見るだけだと、幸福そのものの少女にしか見えない。
が、もちろん、そうではない…ということを、ジョーはよくわかっている。
 
そして、それをよくわかった上で、幸福そうな笑顔を絶やさない彼女を見ると、そのたびジョーの胸はなんとなくうずくのだった。
 
…こんな写真!
 
ジョーは重い溜息をついた。
もし、こんな写真が、彼女の苦しみを呼び起こしてしまったというのなら…
そう思うと歯噛みしたい気持ちになる。
 
僕が、つい調子にのったから。
彼女の気持ちなんて、何もわかっていないくせに、きっと喜ぶだろう、なんて有頂天になって。
大体、僕はいつも……!
 
ぐっ、と携帯を握りしめた瞬間。
その携帯がぶるぶると震えた。
 
メール着信の知らせだった。
 
 
 
ジョー、忙しいときにごめんなさい。
後にしなくちゃと思っていたのだけど、どうしても気になって…
この間のメールについていた写真、もう一度送ってもらえますか?
 
つまり。
ジョーが送ったメールは、なぜか短い本文のみが届いていて、添付したはずの写真が見あたらなかった…というのだった。
 
フランソワーズは、気になりながらも、連日調査で忙しそうにしているジョーにそんな些末なことを知らせるのはどうか…とためらっていたらしい。
で、今日、ジェットとピュンマが出発してから、彼らが到着するまでの時間なら少し余裕があるかもしれない…と考えたらしく。
 
…そういう、ことだったのか。
 
ジョーはほうっと息をつき、すぐに写真を再送した。
ほどなくフランソワーズから返信がくる。
 
今度は届きました。なんてきれいな雪なんでしょう!こんなこと言ってはいけないけれど…ジョーがうらやましいわ。
 
思わず微笑し、ジョーは大きく背伸びをした。
それなら、彼女も呼べばよかったなあ…と思いかけ…いや、それどころじゃないんだし、と思い直して。
 
 
でも、やっぱりフランソワーズは好きなんだな、こういうの。
今度、ちゃんと京都を案内してあげたらきっと喜ぶだろうなあ…
この戦いが終わったら。
 
いつ終わるのか、わからない…のだとしても。


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