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介護のお仕事 街頭インタビュー 百合男子?

3      原作
 
 
僕は、003が女の子だということを普段あまり意識していない。
たまに思い出したりする。
で、思い出すときってのは、ロクなときじゃなかったりするんだ。
今日のように。
 
そもそも、彼女が、縁結びで有名な某神社のお守りがほしい、なんて言い出したあたりから何だかおかしなことになりかけていたんじゃないかと思う。
それは、新しい友達から仕入れてきた情報らしかった…のだけれど。
 
縁結び…って意味自体、彼女がわかっているのかどうかわからない。
たぶん、その友達っていうのも、宗教とか御利益とかそういうことを真剣に考えていたわけではなく、ただ金髪碧眼の彼女に「日本」を教えてあげたいとかなんとか、ごく軽い気持ちで思ったんじゃないかと僕は思っている。
もう日本に慣れきっている彼女には、そんなの大きなお世話なんだけど、ついこの間、ようやくミッションが一段落して、新しい土地に落ち着いて、通い始めたバレエ教室でできた友達…だから…仕方ない。
 
もっとも、ソレを言うなら、その教えられた神社に僕が彼女をわざわざ連れて行く…なんてことの方が、彼女にとってはよっぽど大きなお世話だったろう。
でも、これも仕方ない。
ミッションが一段落した…といっても、完全に解決したというわけではなかったのだから。
いや、ほぼ完全に解決…って考えていいレベルではあったのだけれど。
だからこそ、彼女もバレエを始めたりしたわけで。
 
とにかく、微妙に不安が残る状態だったし、慣れない土地で、そうでなくても人目に立ちやすい容姿の彼女を、一人でふらふら歩かせるのもどうかと思ったし、その神社というのが、これもまた微妙にいまひとつ治安のよくない場所の近くにあって、ちょっと道に迷うとそっちに踏み込んでしまう危険もあったりしたし。
 
003にそんな心配は必要ない、ということは僕だってわかっている。
でも…まあ、ヘンに嫌な予感がしたというか。
で、結局、それで正解だったのだ。
 
 
 
「見て、ジョー!これ、とっても可愛いわね…!」
 
と、嬉しそうに振り向くのだ。
金髪碧眼の彼女が。神社のお札売り場で。
当然、周囲の視線は一斉に彼女から僕へと集まる。
カンベンしてほしい。
 
彼女が「可愛い」と言ったお守り袋は、たしかに可愛い…んだろうな、と思った。
小振りで、ちょっと丸っこくて。
もちろん、色もきれいだったし、なんか、鈴までついていた。
まあ、とにかく気に入ったのが見つかってよかったよ…と、僕は帰り道のことを考え始めていた。
あっちのブロックはあまり通らない方がいいし、来たときと同じ道を戻るんじゃちょっと芸がないかもしれないし…ってことは地下鉄の路線を変えてみて…
 
…とか。
結構な時間、ぼーっと考え込んでいたと思う。
ふと我に返って、しまった、フランソワーズは…!と思ったら。
 
呆れたことに、彼女はまだお守り袋を選んでいる…というか、どれにしようか迷っているようなのだった。
どれも同じ…にしか、僕には見えないんだけどな。
 
これは、いつになるかわからないぞ…と、思った。
それで、久しぶりに思い出したのだ。ああ、フランソワーズは女の子なんだよなあ…って。
女の子は、こういう買い物で迷い出すときりがない。
時間なんてあってないようなものだ。
 
長丁場になるとわかれば、ぼーっと突っ立っているのも馬鹿みたいだ。
僕は辺りを見回して、近くにあったベンチに腰掛けることにした。
ついでに、缶コーヒーも買っておく。
 
コーヒーを一口飲んで、やれやれ…とお札売り場を見て…あれ?と思った。
さっきまで人混みに見え隠れしていた、金髪の小さい頭が見えない。
思わず目をこすってしまった。
 
彼女から目を離してから、ものの1分とたっていないと思う。
僕はちょっと慌てて立ち上がり、大声で「フランソワーズ!」と呼ぼうとして……また慌てて口を押さえた。
 
なんか、スゴイ名前だよな、「フランソワーズ」って。
特に、ココで叫ぶにはスゴすぎる。
かといって「003!」じゃもっとスゴイし。
 
もちろん、緊急事態だったら、そんなことを考えている場合ではない。
で、僕は自分が緊急事態に直面している、なんて、思っていなかったのだ。
 
少なくとも、そのときは。
 
 
 
が、彼女の姿が見えなくなって…通信にも応答しなかったわけだが…3分たったとき、僕は動き始めた。
緊急事態であるかどうかなど、やはりわからない。
でも、もし何かあったのなら……もう、ぎりぎりの時間だったから。
 
まず、彼女がさっきまで立っていたお札売り場の前へ進んだ。
もちろん、そこに彼女がいないことは確認済みだ…が。
 
ちりん、と足元で微かな音がした。
小さい鈴が落ちている。
今落ちたばかりのように、きれいで真新しくて…
そして、ごく細い光る糸くずのようなものが、まとわりついていて。
その色を確かめた瞬間、僕は迷わず加速装置を噛んだ。
 
ルートを考える必要はなかった。
この町中で、加速した僕が通れる道は限られている。
そこを突き進めばいいのだ。
なぜなら、これが「敵」の仕業なら、ソイツも当然……
 
いた!
やっぱりそうだった。
 
僕は加速のレベルを上げた。
油断するわけではないが、気持ちにはかなりゆとりができていた。
そもそも、こうして追いつくことができた、というのが、つまり相手のスペックが僕よりずっと劣ることを示しているからだ。
 
「敵」は3人いた。
加速ができるのは1人…彼女を攫ったヤツだけで、それもさほど性能のよい加速装置ではないようだった。
僕は難なく彼らを叩き伏せ、停めてあったクルマに寝かされていたフランソワーズを抱え、離脱した。
建物の隙間に隠れ、加速を解くと、遠くで爆発音が聞こえた。
 
「…ジョー?」
 
少し怯えた声だったが、さすがにフランソワーズは取り乱したりしていない。
彼女にしてみれば、何もかも一瞬の出来事だったに違いない。
いきなり加速装置で攫われて、気づいたら拘束され、クルマに寝かされていて、さらにその一瞬後は僕の腕の中にいた…という感じなんだろう。
そして。
 
「…あなたって」
 
ホントにいつも防護服を着ているのねえ…と、小さく彼女がつぶやいた。
呆れたような声だった。
君だって人のことはいえないじゃないか。まして、女の子だってのに。
 
とはいえ、彼女が防護服を着込んでいてくれて助かったことは助かった。
お互い、服はとっくに焼け落ちてしまっていたのだから。
 
ああ、でも。
僕が何となく嫌な予感がしていて、それなりに用心していた…ってことは、もちろん、彼女だってそうだったはずなのだ。
ふとそう思った。
 
 
 
裸よりマシであることは間違いないけれど、だからといって、町中を堂々と歩けるような服装ではない。
僕はフランソワーズを抱いて、物陰から物陰へと加速を続けた。
一気に研究所へ走ってしまえば簡単なのだが、さすがにそれではフランソワーズがちょっと気の毒だ。
 
ようやく研究所近くの林まできた。
隠れる場所はないが、人もめったに来ないから、ここからはフツウに歩いても大丈夫だろう。
 
そうっとフランソワーズを抱き下ろそうとして、あれ?と思った。
なんだか、彼女の顔色がよくない。
 
「もしかして…『酔った』?」
「…え」
 
フランソワーズは言葉を濁した…が、大丈夫、というわけではないらしい。
一応気を遣って走ってきたつもりだった…のだけど。
 
…いや、そうじゃない。
…そういう、ことなのか?
 
僕は思わず彼女を抱く腕に力を込めた。
 
「何か、クスリを使われたのか?」
「…最初に…首の辺りがチクっとして…一瞬気が遠くなったの。大丈夫、たぶんフツウの麻酔薬だと思うから…」
 
フツウのってなんだ。
そもそも、大丈夫ってなんなんだ!
 
かーっと頭に血が上った。
そんな僕にすぐ気づき、フランソワーズは宥めるように話しかける。
苦しいはずなのに、一生懸命に。
だから、僕はとにかく落ち着こうと…深呼吸したのだ。
 
「大丈夫よ…それに、ほら…見て、このお守り…可愛いでしょう?こうやってずっと握っていたから、燃えていないわ…あ。でも、鈴がちぎれてしまったみたい…」
 
知ってる。
その鈴のおかげで君に追いつけたんだ。
 
「これ…大事にしなくちゃ。こんなにすぐに、私を守ってくれたんですもの」
 
君を守ったのはその布袋じゃなくて、僕なんだけどな。
わかってるのか?
大体、ソレは縁結びのお守りなんじゃないのか?
 
ホントに、女の子ってのは。
どうしてこういいかげんで脳天気で……
いや、そうなんだよな。
つまり、フランソワーズも、ちゃーんと女の子だってことで…
 
「鈴、つけ直そうかしら…ね、ジョー見て…やっぱりこれが一番可愛いかったのよ」
「…そうだね」
 
ふらふらになってる君とケンカしても仕方ないから、話を合わせておくことにするよ。
そんな布袋、どれだって同じだと僕は思うけどね。
まあ、どうせ同じなんだから、君が一番気に入ったのを身につけていればいいさ。
御利益だって、縁結びだろうが商売繁盛だろうが関係ない。
 
君がどんなお守りを身につけていようと、君を守るのはいつも僕で、それに変わりはないんだから。
わかってるのかな、その辺り。
 
わかってないみたいなんだよなあ……
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