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「相剋」論3 下
第三章  力ある者
 
ライがテレパスである、ということは、物語の進行上、どうしても必要なことだと思う。
001は月の半分寝ているし、そもそも彼も009の「仲間」なので、この物語の中ではちょっと動きにくい。
 
「よかったの? ジョーを置いてきて」
そう尋ねるウィッチに、クワイトは軽く頷いた。
「かまわん。どちらにしろ……私の所へ戻って来るだろうからな」
「あなたを殺しに、かもしれないわよ?」
「ふむ。それは…ライの腕次第、だな」
楽し気に嗤う。(Act.10 襲撃)
 
クワイトが見越した…というよりは仕組んだとおり、やがてライの戦いはクライマックスを迎える。
倒れた009の悪夢がライに流れ込む。
 
断片的なイメージが駆け抜け、そして……。
バラバラのパズルが一つの絵になるように。ぼやけていた映像の焦点がピタリと合うように。ズレていた音が一つに重なるように。ライの精神の波長が、009のそれに重なる。
その瞬間。
ライは、すべてを理解した。
(な…んてこったっ…!)
クワイトが009に何をしたのか。009が何故『仲間』達の元を去ったのか。そして今、どういう状態にあるのか。
その総てを、精神を重ねたテレパスだけに可能な方法で、ライは理解した。(Act.7 闇を歩く)
 
ライがやろうとしている、ある事。それをするには、009に触れなくてはならない。そうすれば、今以上の苦痛を味わう事になる。009の苦痛を完全に共有する事になる。
それを受け入れ、それに耐え、その上で、自分の力をコントロールしなくてはならない。
(俺に……できるか…?)
歯を食いしばり、ライは想う。
しかし。迷っている場合では無かった。このままでは、009は確実に、狂う。
迷いを断ち切る様に、大きく息を吐く。
「アイラニ…俺に、触るな」
短く言う。
そして。
ライは009の額にそっと触れた。(Act.7 闇を歩く)
 
一人でクワイトと戦おうとした009と同じように、ライも一人で戦う覚悟を決める。
それは、もちろん彼しか戦う力を持っていないからだ。だから、ライは迷いを断ち切り、戦いに向かう。ただ一人で。
 
ライが危惧したとおり、それは困難を極める戦いであり、勝ち目のない戦いでもあった。
が、あえなく破れようとする彼を、001が救う。
 
<……らい…?>
呼びかける声。
<無事カイ ……?>
(…001……)
助かった。
<無茶ナ コト ヲ ……>
溜め息交じりの思考。
(すまん…他に、方法が思い付かなかった……)
<キミ ノ チカラ デハ 危険ダ トハ …… 思ワナカッタ ノ カイ?>
(思ったさ。だが……)
そうしなければ、009は発狂しただろう。
<二人トモ 発狂スル トコロ ダッタン ダヨ!>
(……怒っているのか?)
ライの問いに、001は沈黙した。
<……チガウ……。ボク ハ ………>
戸惑ったような思考。
<心配シタンダ カラ ……>
そういう事か、とライは笑う。
(……悪かったよ。だが、とにかく、助かった……)
<…ウン……>
001はまだ何か言いたそうだったが、今は、そんな場合では無かった。(Act.7 闇を歩く)
 
はっきりとはわからないのだけど、ここの001はなんだかいつもと違うような気がするのだった。
いつもと違う、というのは、妙に「人間的」であるような…。
 
001の言葉はいつも明瞭だ。
明瞭でないときは、事態そのものが明瞭でないからそう言えない、という場合だけで。
が、ここでの001の「戸惑い」はそういうものとは違うと思う。
 
001は「怒っている」のではなく「心配した」と言った。こういう表現は、彼にしては珍しい…という感じがする。001は心配するより前に行動できる者だから。
事実、ここでも彼はすみやかにライに救いの手をのばしている。
 
この001の「心配」には、ライに対する彼の「共感」のようなものが濃厚に感じられる。
彼は、もしかしたら、ライの能力者としての孤独に共感した……のかもしれない。
あるいは、ライというよりむしろ009を失うかもしれない現場をまざまざと見て取ったことからくる動揺だったのかもしれない。どちらにしても、ここの001は何かいつもと違うよなーと思うのだった。
 
ともあれ、彼の助力によって、ライはひとまず009を助けることができた。が、それはもちろん本質的な解決に全くなっていない。
ここで、ライの戦いは手詰まり状態になってしまう。
そのとき。
孤独だったはずの彼に、部下たちが手を差し伸べる。
カティサックを危険に陥れるその作戦をライは一旦拒むが、自分の力の限界を知った彼は、結局それを受け入れるしかなかった。
 
「ライは?」
その問いに、レッサートが答える。
「…我々に任せる、と」
「そ…か……」
乗り込んできて、反対演説するかと思ったと言いたげなチアフルに、カティサックが苦笑した。
「もう、反対はされましたよ。けれど、我々は許可を求めるつもりは無い、と言ったので……」
「……フテ寝しちゃったか?」
「いえ。『最善と信じる事をしてくれ』と」
チアフルが目を丸くする。
「へぇ……。ライにしちゃ。上出来な返事じゃん」
「ええ。それ程、事態は切迫してる…という事でしょう。それは、ライが一番よく判っている筈ですから」(Act.8 明かりを灯すもの)
 
チアフルの反応から、こういう時、ライは部下たちにこういう具合に問題を預けることを、本来しないヒトなのだ、ということがうかがえる。なのに「上出来な返事」をしてきた…というのは、カティサックが言うとおり、「事態は切迫している」からなのだろう。もっとはっきり言えば、ライは自分の力では絶対に009を助けられない…ということを痛感したのだ。
 
自分しか持たない力で、だからこそ一人で戦い抜こうとしたライは破れ、001に助けられ、部下に助けられた。
それは、ライにとっては下手をすると「フテ寝」につながるような事態だったのかもしれない。
が、破れたことを認めざるを得ない彼に、他の道はない。
 
ある意味で、009も001もそうなのだけれど、誰も持たない力を持つ者は、それゆえに一人で戦わなければならない。
が、人間は一人では戦えない。他者を受け入れることができなければ、おのずと限界にぶつかる。
 
倒れた009はそのことにまだ気付いていない。
001はたぶん気付いている。だからこそ、ライを…そして009を気遣う。
001が「心配」するのは、手助けができないからなのかもしれない。誰も持たない力を持つ者が一人で戦うことの孤独と危うさは、自分で気付かない限り、悟ることができないことなのかもしれない。
 
ライは戦い、破れ、助けられ、苦悶の末、他者を受け入れた。
009もそうしなければならない。
彼の方がライと比べものにならないほど強いので、それは更に困難な道となるのだけど……
でも、彼はそうしなければならないのだった。
 
 
 
終章  009なき世界で
 
009を瀕死の状態から救い、ライの戦いは終わった。
彼自身はそこで終わるつもりはなかっただろう。
さらに言えば、ライは本当の意味で009を救ったわけでもない。
 
「ライ……ありがとう」
「……009、俺は……」
何か言いかけようとするライへ、009は首を振った。
「君も君の仲間も、最善と信じる事を…そして、出来る限りの事を、してくれた。そうだろ?」
その事に。感謝を。(Act.9 決着)
 
ライは何を言おうとしたのだろう。
遮った009の言葉から推測すると「感謝されるようなことは何もしていない」ということなのだと思う。
この期に及んで、ライが社交辞令的な謙遜をする必要はない。
そして、よく見ると009も、ライのその気持ちを否定しているわけではない。
「最善と信じる事」「出来る限りの事」というのは微妙な表現だ。
 
…が。
何が足りなかったのだろう。
ライたちがいなければ、009は間違いなく死んでいたのに。
 
もちろん、そもそもクワイトを「作った」のはライなのだった。
だから、009もまたライの被害者だと言うことができる。
おそらく、それが一番の問題なのだと思う。
 
ライは少しずつ気付いているのではないか。
償いなどできないことを。
妹…ウィッチがクワイトの傍らにいることを知った今。
 
しかし、009は彼を遮り、「ありがとう」という。
彼が「出来る限りの事」をした、という事実に対して感謝する。
この態度は、後にウィッチに対して「ライを許してやってほしい」と言ったときとよく似ていると思う。
 
「相剋」は、ライを中心に据えてみると、本当に残酷な話だ。
命を賭け、全てを賭けて死に物狂いで戦い、過ちを償おうとしたライが最後につかんだのは、自分には罪を償うことなどできはしないのだ、という恐ろしい真実だけだった。
 
すべてを009に託し、地下に閉じこめ、何もできなかった…というか、することを許されなかったライは、絶叫する。
これが彼の戦いの終わりの姿だ。
 
ライが「相剋」という物語において、何も変わらなかった…無意味な人物のように見えるのは、このためではないかと思う。
「相剋」はライ以外の登場人物には、ハッピーエンド…というか、何らかの希望を与えて終わる物語なのだ。ライだけが、その恩恵を受けていない。
 
ライが受けたのは、いわば負の恩恵だといえる。
彼は、自分の罪を知った。それが償えない、取り返しのつかない事であることを知った。
それが、「相剋」という物語が彼に与えた全てであった…ような気がする。
 
もし、009がいなかったら…と思う。
ライは、たぶん物語の最後に「何か」をすることができた。
それは、残酷な結末であり、愚かしい悲劇であったはずだが、でも、「何か」ができたはずなのだった。
 
009はライを悲劇から救うのと同時に、彼には何もできないのだ、ということを教えた。
どんなに悔やんでも、努力しても、命を捨てたとしても、罪は償えない。
その罪をなかったことにはできない。
 
しかし、ライは許されるのだった。
これもまた、009がいなければ起こりえないことだった。
 
罪は消えない。
そのことを009は否定しない。
にも関わらず、ライを許してやってほしい、と彼はウィッチに頼む。
 
ウィッチは、それに応え、許す…と宣言する。
しかし、ライの表情に喜びはない。あるのは驚きだけだった。
許されたからといって、罪が消えるわけではない。
 
言うまでもなく、私たちの世界に009はいない。
私たちは、過ちを…罪をどう償えばいいのだろうか?
 
償うことはできない。
でも、償おうとし続けなければならない。
それしか道はないのかもしれない。
 
それでいい、ありがとう、と微笑む009なき世界で、私たちはあるかなきかの望みにすがり、その道を歩いていくしかない。
 
009なき世界で、ライが許されることは永遠にない。
それでも、彼は生きていかなければならないだろう。
破滅に向かいつつ償い続けていかなければならないだろう。
その姿は、私たち自身の姿でもある。
 
私たちはライのように罪を犯し、ライのようにそれを償おうとする。
ライのように孤独な戦いを重ね、ライのように他者との絆をつないでいく。
 
そんな私たちは、時に009の幻を見る。
それでいい、ありがとう、と微笑むその幻をひそかに胸の奥にしまい込むことで、私たちは絶望しかない道を歩いていける。
 
そして、同時に知るのだ。
絶望は希望でもあることを。
決して償うことができない罪を負っていることを知り、その真実を受け入れたとき、私たちは自然に他者の許しを求めるようになる。人が一人では決して生きていけないことを知る。
 
ライに、009はもう必要ない。その微笑は幻でいい。
ライにはウィッチがいる。アイラニがいる。チアフルがいる。カティサックがいる。
多くの人々に支えられ、彼はまだ歩いていける。
 
「相剋」は…009は、結局ライから全てを奪った。
しかし、物語の外で、ライは静かに立ち上がり、歩き始める。
それが、自らの全てを代償として、彼が「相剋」から受け取ったものだったのかもしれない。
 
 
 
追記 〜私だけの衝撃…?〜
 
…と、ここで終わる予定だったのだ…けれど。
何かすっきりしないなーと思っていたのだった。
 
そもそもライを中心に据えることに無理がある…のかもしれないのだけど、何かすっきりしない。
ってことで、書いたものの、章を入れ替えたり削ったり、悶々としていたのだった。
そうしているうちに、その日は、来てしまった。
 
間に合わなかった〜〜!(涙)
 
…のは、つまり7月23日…「相剋公開五周年記念チャット」の日になってしまったのだった。
 
そして、そこで。
necromancerさまのある発言に、私はしばしぼーぜんとしたのだった。
それわ。
あの、「相剋」扉の散文詩…の話で。
 
「相剋論2」で、私は「光が009、闇がクワイト」と位置づけたのだけれど、あの散文詩を書かれたとき、necromancerさまは別の二人をイメージしていた…と言われたのだった。
 
別の二人…といっても。
「相剋」に、それほどたくさんの人物は出てこない。
とすると。
 
「闇」はライだよなー、とすぐ思った。
コレを書いていたから…ということもある。
…が。
それなら、光は…誰、か。
 
009ではない。
009とライは対峙する者ではないし。
 
扉の散文詩は、正確に言うと、「光」と「闇」ではなく「光を求めし者」と「闇を望みし者」である。ここの解釈は何通りかにすることが可能だと思うので、問題は、ライが光か闇か、ということではなく、片方がライならもう片方は誰か、ということなのだった。
 
ライと対峙するということは、相手はフツウの人…でないとマズイよなーと思いつつ、私はそれが誰だかわからなかった。
 
わからなかったのだっ!!!!!!(倒)
 
やがて、necromancerさまが明かされた「もう一人」の名に、私はほんとーに、愕然とした。
というか、もぉこの時点で、「なんでわからないんだコイツ?」と思いつつ、この文章を読まれている方もいるのではないかと思う。
 
私は、その名自体ではなく、それに気付かなかった自分に、愕然とするしかなかったのだった。
そのもう一人の登場人物とは。
 
もちろん、タイラントだっ!!!!!!(倒)
 
これで、パズル(?)のピースがぱちっとはまった気がしたのだった。
ライの対極にタイラントをもってくれば、話はスゴクわかりやすくなる。
つまり、ライは「相剋」…というか、009によって闇を知った者であり、タイラントは光を見いだした者なのだった!!!
 
ってことは。
「災いなるかな 汝 光を求めし者よ/己の内なる闇を見よ」と語られているのが、ライ。
「愚かなるかな 汝 闇を望みし者よ/己の内なる光を見よ」と語られているのが、タイラント。
「光魔の翼もつ者」は、もちろん009。
 
ライはまさに災いだし、タイラントは愚かだった(しみじみ)<こら(汗)
 
「内なる光を剣とし 内なる闇を盾とせよ」もすっきり解釈できる。
物語の中で、タイラントは009のために戦い、ライは盾の役割を果たした。
 
ここは登場人物に無理にあてはめなくてもいい。
内なる光…自分の中に秘められた正しさ、美しさを勇気に、人は戦い。
内なる闇…自分の中に秘められた罪を知ることによって、人は節度を知る。
 
「されば、光は道を示し 闇は答を示す」は、物語の終わりにおけるタイラントとライの姿を象徴している…と思う。
 
もちろん、これもひとつの解釈にすぎないのだけれど。
 
 
……で。
ここで私が「追記」として本当に書きたいことは、ソレではなく。
 
私が今まで、「相剋」について論じるとき、ほとんど完全にタイラントをシカトしていた…という、極めて個人的なことなのだった!!!!!
 
なぜそんなことができたのだろうか?(汗)
ってか、タイラントはどー見ても、ものっすごい主要人物ではないか!
 
ライとタイラントが対極にある人物なのだとしたら、フツウは(涙)タイラントに注目するべきであるような気がする。ってか、タイラントに全然目がいかないということ自体がどうかしている!!!!
 
…と考えていくうちに、なんとなーく私は気付いたのだった。
タイラントをシカトしていた理由…それわ。
 
彼が、お嬢さんの恋敵だからなのでわ???(おおまじめ)
 
…いやその(汗)
 
つまり、仮に私が「超銀」について何か論じたい…と思ったとき。
タマラさまについてことさら考察しようとは、もしかしたら思わないかもしれないのだった。
それはもちろん、私にとって、タマラさまがなんとなーく目障りな立場(笑)にいるからであって。
 
そう!
タイラントは、まさに「相剋」におけるタマラさまなのだ!<むちゃくちゃ言うなっ!(殴)
 
でも、それはあくまで私の私情にすぎないわけで……。
物語について論じようとするとき、そんな(低)レベルの私情がまざっていいものだろうか?(反語表現)
 
よくないのだった。もちろん(涙)
 
というわけで。
ここに至り、自分の立ち位置が極めて怪しいことに気付いた私は、愕然としたのだった。
 
いや。
もちろん、「相剋論」を最初に書いたとき、私は自分がそのような怪しい読者であることを自覚しつつ、これは「論」じゃないよなーと思いつつ書いていたと思う。
 
でも……
年を重ねるにつれ、ちゃんとした(?)立場で「相剋」を読んでみたい…考えてみたい、と思うようになっていたのだった。
その第一歩として、ライについて考えてみよう!と思ったわけだけど……
 
その発想自体が既に怪しかった(倒)のだった。
 
ってことで!
次に「相剋論」をするとしたら、今度はタイラントを中心に……!!!!!
 
…………。むずかしいよう〜(涙)
 
た、タマラさまについて語れるようになってからにした方がいいのかもしれないのだった(しみじみじみ)
 
 
が。
よくないことばかりではなかった…とも思う。
「相剋」を読んでいると、だんだん妙な気分になってきて、焦ったものだったのだけど…
 
えと。
妙な気分というのわ。
 
まさか、まさかだけど、私にはじょーら部のケがあったりするのでわ…?????(涙)
 
…という実に恐ろしい気分で。
でも、そうではなかったのだ!!!!(踊)
 
「相剋」でわかるあなたの属性♪
 
タイラントがすごーく好き!→じょーら部
タイラントをなんとなく見ないようにしてしまう→3至上主義者
 
 
……ってことでどうでしょうか。>necromancerさま(どきどきどき)
#聞くな>自分(涙) 
更新日時:
2005.07.31 Sun.
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Last updated: 2015/11/23