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「相剋」論(necromancerさまへ)本文
「相剋」におけるジョー&フランソワーズ
〜「見る」ことを中心に〜
 
 
序 無理かもしれないけどやってみる
 
 
「相剋」には、「諸注意」がついている。
 
「諸注意」その1。
 
この小説は『009小説』であり、ジョーとフランソワーズの話ではありません。二人のラブラブ系な話を希望される方は、やめた方が良いです。
 
今だったら、「29とか24とか49とかはありません」というのも付け加えたり…(悩)←やめれ
 
…だもんで。
私は、そうか、そうなのか…と思って読み始めた。
が。
読み終わって。
 
たしかにラブラブ系じゃなかったけど…でも。
ここのジョーとフランソワーズって…すっごく…すっごく…なんだその、すっごく〜〜っ!!!(おろおろおろ)
 
とおろおろしまくっていた。
…と思う。
 
実際、「相剋」をそーゆー目で見るのはちょっと違う…とも思うのだけど。
でも。
 
「『相剋』におけるジョー&フランソワーズ」について、無理矢理書いてみる。←書けるのか?←駄目そうだったらやめます(涙)
 
…なんか不安ですが(汗)
 
 
1 『…フランソワーズ…僕を、見つけた…?』
 
 
「相剋」における003の登場頻度は低い。「諸注意」は正しい。
 
まず、冒頭。
003誘拐…から事件は始まる。
 
とはいえ、この「誘拐」は単なる発端であって、その後の展開の中心にはならない。
009も、
 
「フランソワーズが、行方不明だってっ?」
受話器に噛みつかんばかりにして009は叫んだ。(Act.0 回想)
 
の辺りで、そこはかとなく気合いを見せてるような感じがしないわけでもないわけでもないような気はするが(?)それ以上の描写は何もない。009が003の身を案じて必要以上に(笑)煩悶したりもしない。
 
私が「相剋」を初めて読んだ時は、009の二次創作というものを、それほど読んでいない時(数も少なかった)だった。
9&3を扱う二次創作では、二人がまず何よりも第一に、愛し合う恋人同士…となっているものが多いし、今なら私もそれが当然!って感じで読んでいたりするが。
原作や新ゼロでは必ずしもそうではなかった。というより、妄想を取り除いて見れば、きっぱりそうではない。と言うことさえ可能だ。
 
…ので、当時、私はここでの009の態度に…かなり納得していた。と思う。
彼は、003を「大切な仲間」として扱う…けれども、それ以上の言動(笑)を自ら起こすことは、まずない…のが原作や新ゼロでの自然な感じ、と思っていたので。(超銀は…う〜む(汗))
 
そうそう、009&003ってこんなもんだよな〜、実際。
 
…というか。
 
で、「諸注意」を思い出し、「ラブラブ系」ではない…ことを再確認し、先に読み進めていった。
 
この後の、めちゃめちゃかっこいいジョーくんの描写その他についてすっとばしていくのは、もお何やってるんだよわたし〜(泣)という気分だったりするのだが。しかたない(涙)
 
次に彼女が登場するのは、009が捕らわれた後…004、005、003が覚醒し、002、006、007、008を連れて「脱出」する場面。
 
004と009が通信で話し合っているとき、突然目覚める003。
 
「わ…たし……?」
苦しそうな003の傍に005が膝を付き、そっと背中を撫でる。
そこへ、009の声が響いた。
『これで、三人で四人を…って事になったね……』(Act.1 それぞれの決断)
 
…あっさりしてるな〜、ジョーくん…005だって、もーちょっと優しいじゃないか(笑)
と、思いつつ、やはり納得…していた。
 
そうそうそう、009&003って、こんなもんだし〜、いやほんと♪
 
ところが。
この辺りから、なんか…「?」になってくる。
 
『…フランソワーズ…僕を、見つけた…?』
『……え…ええ……』
不意に問い掛けられ、003は小さく頷いた。
『じゃあ…判っただろう? 僕を助けるのが、不可能に近いってことが』
『……えぇ……』
003は頷いた。頷くしかなかった。(Act.1 それぞれの決断)
 
…フランソワーズ…僕を、見つけた…?
 
これは、「相剋」のジョー&フランソワーズを考えるときのキーワードの一つ…かもしれない。
009は、「見つけた?」と聞くけれど…おそらく、彼女が自分を見つけることを確信した上で聞いている。
確信…というより、疑うことを知らない、と言った方がいいのかも。
 
「Act.9 決着」に、こんな描写がある。
 
地下牢までの道は、003が見つけてくれる筈だ。自分が何処に居ようとも、003の『目』は必ず自分を見つける。
すぐに、仲間達が追って来てくれる。それは間違いない。
 
一人でクワイトとの決戦に臨もうとする009が、怯える自分を励ます場面。
…自分は一人ではない。仲間が来てくれる。
そういう文脈の中なので、この描写はごく自然だ。
003の能力については、いまさら言うまでもない。003なら、必ず009の居場所を見つけるだろう。
共に戦ってきた仲間への信頼が、ここにある。
 
でも、それだけではない…と思う。たぶん。
 
003は、いつでも009を見つけるヒトなのだ。
彼女がどう思っているかはともかく、009はそう信じている。
…信じていることも、意識していないと思うけれど。
 
いや…意識してない…ってところが、ホントにジョーくんなんだよな〜(笑)
 
 
2 見つめ合うということ
 
009を発見した003は、すぐ納得する。彼を助けることはできない…と。
…で。諦める。
 
これがスゴイと思う。
 
004にも言えることだが、ここで009を諦めるのは、正しい。
彼らならそうする…というか、それが彼らだろう、と私も思う。
 
でも…そう書くのはムズカシイよな…(涙)
 
ここで、「あなたを置いては行けない!」と003が言い、それを009が説得する…みたいな展開にならない、のがスゴイと思ったりする。
 
監督&執筆のお二人の自制心…というか。(?)
 
実は、「あなたを置いては行けない!」と叫んでしまうのは、私たち…なのだ。
003なら、そうは言わない。
わかってはいるけれど、でも…!!
 
二次創作…の面白さは、キャラクターが、そのキャラクターである限り、とらないような言動…しかし、ファンとしては、是非とってほしいような言動(笑)…を、実現させることができる…というトコロにもある…と思う。
 
でも、「相剋」ではなかなかそうならない。
009はあくまで009として、003もあくまで003としてしか動かない。
 
…すごい。
と、思った。
 
それはそれとして。
 
003は009を敵地に置き去りにする。
…といっても、彼女の現状からすれば、そもそも「置き去りにする」ことを成功させない限り、「置き去りにする」ことはできなかったりするわけで。(当たり前だけど)
だから彼女と004は、この後、009を「置き去りにする」ことに集中し、それを成功させるため、懸命に努力する。
「あなたを置いては行けない!」なんて、言ってる場合ではないのだ。
 
しかし、何もかもが当然の帰結、自然に流れていくかのように見える物語の中で。
004と003が、009を置き去りにする…その決断の瞬間。
とんでもない描写が入る。
 
『フランソワーズ…』
不意に話し掛けられ、003はハッとした。目を凝らし、そして、息を呑む。
『…ジョー……』
見える筈が無いのに。それなのに、003の『視界』の中の009は、顔を上げ、真っ直ぐに自分を見ていた。
『僕は、大丈夫だ。心配しないで……イワンと博士を…頼む……』
009がふっと笑う。
それへ頷きかえし、003は答えた。
『わかったわ…』(Act.1 それぞれの決断)
 
「諸注意」を心に止め、いつもの009&003らしい描写に親しみ、読み進めてくると、完全に虚をつかれてしまう。
…なんだ、これは〜〜?????
 
009は…なぜ、003を「真っ直ぐに見ていた」のか。
いや、そりゃもう…「愛の力」だったりするのかもしれないし、しれないんじゃなくて、実際そうだとしか言いようがないのだけど…
 
でも…なんなんだ、これはああああああああああっ?????
 
「相剋」における、最大の謎の一つ(笑)…「ジョー&フランソワーズ」が突然クローズ・アップされる。
 
009には…003が見えてるのだ。
なんだかわからないけど。
 
そして、彼の呼びかけに応え、003は、009を見つける。
 
003には「能力」がある。
もしかしたら、能力がなくても、彼女は彼を見つけるのかもしれないが。
そうなってしまうと、なんというか…別の話になってしまう。
 
いやもう既に別の話になりかけてるのだけど、003には「能力」がある。
だから、彼女に彼が見えるのはとりあえず当たり前…
という具合に…一瞬揺らいだ物語は元の物語世界に引き戻されていく。
 
003は009を置き去りにする。
そして、009は彼女を「真っ直ぐに見て」いる。ずっと。
 
この真っ直ぐな視線は…なんだろう。
恋慕…ではないような気もする。
 
信頼、ということかもしれない。
もちろん、009は004のことも信頼している。
たぶん、彼の目は004のことも「真っ直ぐに見て」いる…んじゃないかと思う。
 
だが、その009を見返し、「見つける」ことができるのは、003だけ。
それは、「能力」によるものだ、と、物語の設定…事実は、私たちに説明する。
そこで納得することも可能だ。
それが、「相剋」の描写のリアルなところだし…スゴイところだと思う。
 
なぜか、真っ直ぐに見つめる009の視線。
その視線を受け止め、応える003。
 
たとえば、009が誰かを真っ直ぐに見つめたとしても。
その視線に相手が気づかなければ。
見つめたことはなかったも同然になる。
 
009が見えるはずのない003を見つめていたことに、私は驚く。
でも、それ以前のモンダイとして、それを実現させるためには、003がそのことに気づいていなければならない。
視線…とは、そういうモノだ。
受け止めてもらえなければ、存在しなかったも同然。
 
009が見つめ、003がその視線を受け止め、初めて009には003が見えていた…ということが実現する。
 
そして、009にとって、003はそういう人だ。
何があっても、どんなときでも、必ず自分を見つけてくれる人。
 
信頼というよりは、盲信(笑)という感じ。
009は、地下牢の中から、絶望することなく、003を見つめる。
視線が彼女に届くことを、彼女が自分を見つめていることを疑いもせず、真っ直ぐに見つめる。
 
そして、009の想いは003に受け止められる。彼女は視線を受け止める。
想い…とは、やはり恋慕ではないような気がする。
 
009は、彼女とともに連絡艇を発進させる。
実際には、彼に操縦を教わったときの記憶が彼女を導く…のだが。
 
目を閉じて、深呼吸を一つ。
(ジョーは……)
以前に一度、教えてくれた事があるのだ。こんなに様々な計器やスイッチがあるのに、どうして迷わないの? と尋ねた自分に、009は言ったのだ。『そんなに難しくなんか無いんだよ』と。はにかんだように笑って。『発進するくらいだったら、君にだってできるさ』と。離陸してしまえば、あとはオートパイロットがある。着陸が一番難しいけれど、でも、広いところに降りるのなら簡単だ。『戦闘飛行じゃなければ、全然、難しくなんかないよ』と。
そして……。
(…『これが始動スイッチ』……)
記憶の中にある009の言葉を聞きながら、003はつと手を伸ばした。
(……『そうしたら、こっちを確認して……』……)
コンソールの上に視線を走らせ、計器を確認する。
(…『OKだったら、今度はこのスイッチを……』……)
003の指が次々とスイッチを弾き、それにつれて、コンソール上のランプが点灯していく。
エンジンの唸りが壁を震わせ……
(……『ほら…発進準備はこれでOK。あとは……』……)
操縦幹を握り、スロットルに手を掛ける。
そして、003は、キッと前方を見据えた。
『ハインリヒ…! 発進…できるわ!』(Act.1 それぞれの決断)
 
 
003の傍らには、009がいる。
「見つめる」「見つめられる」ことで、二人の魂は呼び合い、一つになる。
二人は、連絡艇を発進させる。
 
そして。
003は立ち去った。
距離が離れ、二人は分かたれる。
 
距離があっても、思いは通じ合う…というのは、幻想だったりする。
幻想を語る物語…というのも、もちろんあってもよいが、「相剋」はそうではない。
その中に、奇跡のように忍び込んだ幻想が、見つめ合う二人の、あの一瞬で。
それに導かれ、サイボーグたちは第一の困難をのりこえた。
 
だが。
距離が離れ、009からの通信は途絶える。
幻想も消える。
009の孤独な戦いが始まる。
 
 
3 不完全な「見つめ合い」と003の退場
 
「相剋」がほんっとにジョー&フランソワーズのラブラブ話ではない…のは、以後の展開に明らかである。
 
心身ともに痛めつけられる009だが…その脳裏に、003のことはカケラも浮かばない。
003も、009を案じているが…それはもちろん仲間として当たり前のことであって…だから何が起きる、というわけではない。少なくとも、物語を動かす力にはなっていない。
 
それに対して、009に関わり、支えるのがタイラントで…
もお、彼がヒロインなんじゃないか?と思うくらい(笑)
 
これがジョー&フランソワーズのラブラブ話だったら、タイラントのやってることは当然フランソワーズの役割…になるだろう。
 
だからかどうかは我ながら怪しいが。
ジョーが救出されたとき、フランソワーズはタイラントに礼を言う。
 
「…ほんとうに、ありがとう。ジョーを守ってくれて。私達にできなかった事をしてくれて……」(Act.8 明かりを灯すもの )
 
ほんと、そのとおりで。
「私達」と言うところが、また、この後の「歓迎します。あなたを…十人目の仲間として……」というところが、やはり003はあくまで「仲間代表」である…ということを示している。
 
実際、003の「相剋」における役割…というのは、「仲間」の象徴としての存在…という感じだと思う。
ただ、それは(なぜか)いつも003…だったりするわけで。
その辺が…微妙(?)
 
 
それはそれとして。
 
003は確かに「仲間」の象徴的存在…ではあるのだが、ほかの仲間たちと決定的に異なることがある。
彼女は、迷わない。
 
ジョーと仲間たちとの再会の場面。
もちろん、彼を最初に「見つける」のは、003である。
 
『いたわ! …ジョーよっ!』
(見つけたっ! クワイトだっ!)
003とライが同時に叫ぶ。
『どこだっ…!』
004達が一斉に聞き返す。しかし。003は驚きのあまり、答えることができなかった。
(…黒い……Neo Black Ghost 幹部の服……まさか…まさか、ジョー……?)
あの、降伏勧告の映像で見たのと全く同じ服。
(そんな……)
映像だけなら、まだ半信半疑だった。合成されたものであるとか、そっくりのロボットであるとか、そういう可能性に縋っていられた。
だが。
自分の『目』が、事実を003に突き付ける。ロボットでも何でもない事が、003には判ってしまったのだ。
『フランソワーズ、どうしたっ? ジョーはどこだっ?』
002が叫ぶ。その声も耳に入らず、ふらふらと椅子に倒れ込む。
(……ジョー…そんな……ことって………)(Act.6 襲撃)
 
003は「見た」瞬間、009の現実を理解する。
迷いはない。
彼が、Neo Black Ghost 幹部である、ということを瞬時に悟り、ショックを受ける。
 
正しい。
009は「そのつもり」なのであって。
彼は仲間たちに、「そう見てほしい」のである。
 
そして、003は…そのとおりに見た。
 
009の運命が決まる。
 
003が、009をNeo Black Ghost 幹部と見た。
009は、自分をNeo Black Ghost 幹部と見てほしい。
 
だから…この瞬間、彼はNeo Black Ghost 幹部…と定まる。
 
009が敵を装うのは、仲間たちを傷つけないためであり、すべてを自分で背負うため。
何より、仲間を裏切った自分を許せないためで。
それに、003を絡めて解釈するのはさすがに強引だし、物語を損ねかねない…と思う。
 
ただ。
 
この009の陥った迷宮をどう解放するか。
きっかけは、タイラントとライ一党。
仲間と009との、ぐるぐる回る閉ざされた空間に、外から突破口を開くのは、彼らしかありえない。
 
しかし…
彼らの力が加えられるといっても、この迷宮には、どうしようもないパラドックスが横たわっている。
 
009の「強情さ」だ。
ある意味、「相剋」のテーマといってもよいかもしれないが。
 
009はその非常識な強情さでクワイトに対峙してきた。
そして、同じ強情さをもって、仲間との決別を決意している。
 
強情さを貫けば、仲間を失い、クワイトには勝てないだろうし。
かといって、仲間をとれば、009のクワイトに対する武器(?)である強情さ…を失う。
やはり、負けるだろう。
 
どーするのか???
 
ここで、003が浮上する。
仲間の象徴たる彼女は、この難しい場面で、見事なまでの行動を示す。
…というか。
行動を一切示さない。
 
彼女は、退場してしまう。
 
彼女は悲しみつつ読者の前から姿を消す。
あの、ホワイトソースの場面を最後に。
 
「ジョーに…会わせて……」
不意に003が言う。俯いたまま、震える声で。
「………」
誰も何も答えない。
「お願い……私…私、ジョーと会って、確かめたいの! 彼が本当に……」
鳴咽。
「…本当に……」
その先を続けられず、003は首を振った。
「ジョーは、そんな人じゃないわ! そんな……」
濡れた瞳を上げて、004を見る。
「そんな筈、無い! お願いよハインリヒ。私をジョーに会わせて、二人だけでっ!」(Act.7 闇を歩く)
 
もう、見た。
009はNeo Black Ghost 幹部だということを。
003は「確かめたい」と言う。二人だけで。
 
なぜ「二人だけ」でなくてはいけないのか。
009は、脱出のときと違い、003の「目」を見ているわけではない。
それが一縷の望みだったりするから。
 
003には、おそらく違和感がある。009の視線は本物だったのだろうかと。
「二人だけ」になるのは、あの脱出のときの、本物の視線のやりとりを実現させるための手段である。
 
003は、「ジョーは絶対、敵ではない!」とは言わない。
言ってるようで言っていない。
彼女は、「確かめたい」と言う。ってことは。
「確かめ」ないうちは、彼が敵ではないと言えないのである。
彼女が「見た」結果は、彼がNeo Black Ghost 幹部である、ということでしかないから。
 
彼女は、見た結果については迷わない。
たとえば、過去の彼の記憶も、彼女の判断に何も影響を与えない。
 
ホワイトソースを作りながら、彼女が思い出す009は、「過去の009」でしかない。
それが優しいから、愛おしいから、そして、現在彼女が「見た」彼と何のつながりもないから、彼女は泣く。
チアフルも慰める言葉を持たない。
 
004と仲間たちは、003を009と会わせようとしない。
ほかの仲間は(眠っている001を除いて)みんな009と会っているのに、だ。
理由は…危険だから。
もっともである。
 
この場合、「二人きり」でないと、対面の意味はない。
で、「二人きり」にするのはさすがに危険だ。
この仲間たちの判断にも、全く無理がない。
 
では。
003は…こっそり009に会いに行ったりしないのだろうか?
…しない。
 
彼女は009を信じている…のではない。
逆だ。
だから、会いにいかない。
 
会って…「確かめ」たら。
そのとき、009は「敵」になり、倒すべき相手になる。
それはつらすぎる。
 
一方、004はこう思う。
 
009が、たとえ『Neo Black Ghost 幹部』としてであっても、自分達に対して協力的な態度を取ってくれれば。態度を軟化させてくれれば。そうすれば、もう以前の関係には戻れなくても、それでも、敵対関係から離れ、新しい関係を築いていける。少なくとも、その模索はできる。
(魂まで売り渡した訳じゃ…ないだろう? ジョー……)(Act.7 闇を歩く)
 
003以外の仲間は、この立場だと思う。
009が、Neo Black Ghost 幹部であったとしても、なお「魂まで売り渡した訳じゃないだろう?」と問うてしまう。その後、どうするべきか、決断しきれない。迷う。
 
003は問わない。迷わない。
009がNeo Black Ghost 幹部なら、倒すだけだ。自らの手で。
 
だから、彼女の悲しみは深い。
 
もし、003が009と会っていたら…ということは、ここで考えてはならない、と思う。
物語の力学(?)みたいな感じでは、やはり009が主人公の強情さをもって、「敵」であることを彼女にはっきり示してしまうことになるような気がするから。
 
仲間の象徴たる003に見捨てられたら。
そのとき、009には破滅しか残らない。
彼の選択はたちまち確固たる現実となり、彼を滅ぼすだろう。
 
003は「間違い」かもしれない、という一縷の望みだけをつなぎ、悲しみつつ物語から退場する。
009は、彼女なき研究所を脱出し、闇へと向かう。
 
仲間のもとに戻った009は、ついに003と見つめ合わない。本当の意味では。
物語は巧みに二人を引き離し、本当に見つめ合うことをさせなかった。
だから、まだ…009の選択…仲間との決別は実現されていない。
 
タイラントとライ一党に、わずかなチャンスが残される。
 
 
4 「君がいてくれて良かった。」
 
003が退場し、「仲間」が退場したところで、009を助けるのは「仲間」の外側にいるタイラントとライ一党。
彼らが、閉塞した状況に風穴をあけ、仲間たちに「真実」を伝える。
伝えたのは009自身ではない。
彼は死んだも同然…ってことで。
こうして、一応、「仲間」対「強情者」…のパラドックスは消滅した。
 
そして。
009を連れ戻したライ一党から、「真実」を知らされ、003は思い悩む。その悩み方がすごい。
 
心が死んだ彼に、自分がとどめを刺す事を望めば良かったのか? それとも、心を守り通して死んで欲しいと望めば良かったのか?(Act.8 明かりを灯すもの)
 
どっちも絶対にしたくない。悲しすぎる。
でも、それ以外の道は、003には考えられない。
彼女は懊悩する。
 
すごいのは…それ以外の道は考えられない、彼女だったりする。
それ以外の道はある。
ウィッチが選んだ道だ。
 
「私が愛しているのは彼なのよ。彼のすべて。彼という存在そのもの。彼がどんな人間だろうが、そんな事は関係無い。善にも悪にも、興味なんか無いわ。彼以外の総ては、私にとって、どうでも良い事なのよ」
ニィっと薄く笑みを浮かべ、ウィッチは言葉を続けた。
「彼が世界の敵だと言うなら、私も世界の敵になるまで。彼が悪を為すのなら、私も一緒に悪を為すわ。共に地獄へ堕ちられるようにね」(Act.9 決着)
 
009がどう変わろうと、彼を肯定する。
彼の心が死んだのなら、その彼とともに自分も心を殺して生きる。
彼が死ぬのなら、自分も死ぬ。
 
しかし、003は。
 
彼が死んだら自分も死のうと思い、けれど、彼はそれを悲しむだろうと想う。彼の居ない世界で生きる事など出来ないと思い、彼が守った世界を守らなくてはとも想う。彼に生きて欲しいと思い、彼が『敵』となるのであれば倒さなくてはならないと想う。(Act.8 明かりを灯すもの)
 
「思う」と表記されている方が、どっちかというとまっとうな(?)感覚だと思う。
ウィッチに近い。
 
彼が死んだら自分も死のうと思い、
彼の居ない世界で生きる事など出来ないと思い、
彼に生きて欲しいと思い、
 
しかし。
003はそう思えない。彼女はむしろ「想い」のほうに向かう。
 
けれど、彼はそれを悲しむだろうと想う。
彼が守った世界を守らなくてはとも想う。
彼が『敵』となるのであれば倒さなくてはならないと想う。
 
「彼が守った世界を守らなくては」と、003は考える。
自分が死ぬと、彼はそれを悲しむだろう…という、「彼」とは誰か。なぜ悲しむのか。
 
悲しむ「彼」は、世界を守った009…だろう。
その009が003の死を悲しむのは…自分(たち)が守った世界を守る仲間がいなくなるから…?
 
…って言うと、なんか冷たいみたいだが…そんな気がする。
 
これは「愛」だろうか?
 
「でも…フランソワーズ…もし……もしも、僕が本当に狂ってしまって……人々を苦しめるようになったら……きっと、君は僕を止めてくれたよ……そうだろう?」
「それは………」
003は目を閉じた。
考える。何の感慨も無く、罪も無い人を殺す彼を。冷たい瞳で戦火を見下ろす彼を。自分の愛した彼が命懸けで守って来た筈の、歴史に名を刻む事も無い人々のささやかな幸せ。それを踏み躙って何の痛痒も感じない彼を。
それは、冒涜的な光景だった。これまでの年月、彼が悩み苦しみながら守ってきたもの。それが一瞬で破壊されるのを、黙って見ていられるだろうか?
目を開き、003は頷いた。
「……ええ……。私は……ジョー、あなたが守ったものを壊す者と…戦うわ。それが……たとえあなたと同じ姿をしていたとしても……」
「うん……」
009がにっこりと笑う。
「…それでこそ『003』だよ……」(Act.9 決着)
 
すごいやりとりだ。
「きっと、君は僕を止めてくれたよ」と、009は言い切る。
この場合、二人の力の差…みたいなことを考える必要がないのは、言うまでもない。
009は、信じている。疑うことを知らない眼差しで、003を見る。
 
圧倒的な力の差。どうやって狂った自分を003が止める(殺す)のか、009は考えない。
信じているから、そんなことを考える必要はない。
 
003は思い浮かべる。「冒涜的な光景」を。
自分が愛した009の守ろうとしたものこそが、彼女の守るべきものであり、それを壊す者は彼女の敵となる。単に、「あなたと同じ姿」をした敵にすぎない。
 
ほんとか?フランソワーズ???
 
…と言いつつ、「ほんとなんだろうな〜」と思っている自分がいたりする。
これが、「相剋」の二人だ。
そして…こんな事を言いきれる女性がほかにいるだろうか、とも思ったり。
 
愛なのかどうか…なんてどうでもいいのかもしれない。
この009の伴侶(?)にはこの003しかいない〜!…ってことで。
 
そして…「冒涜」という言葉。
二人が守ろうとしているものは…信じているものは、同じ。
それは神聖なものであり、それを同じように守り続けることが、彼らの絆となる。
 
それで、幸せになれるのか?
…と、私はなお、思ったりする。
しかし。
幸せになるのが…彼らの目的ではない。
少なくとも、自分たちだけが幸せになる…ということは、彼らの目的にならない。
 
たぶん、だから…こうなってしまう。
 
自分の幸せは考えない。ひたすら他人を思う。
これは、孤独だ。
009の苦しみを見ればわかる。
 
もし、009を本当に理解し、孤独から救い、彼と歩む者がいるとするなら。
その者と009の関係はこうなるしかない…のだと思う。
 
自分の幸せは考えない。
そして。
ともに歩む者の幸せも考えない。
 
ただ、ともに歩み続けることが…彼らの幸せといえば、幸せ…になる。
 
これは、恋愛とはいいがたい。
恋愛の場合、二人が目指すものは、自分と自分に等しい愛する者との幸せ、それだけだ。
それが最優先する。
 
だから…「公」の場で恋人同士がいちゃいちゃするのが御法度、ということになる。
同じように、自己の崇高な目的のみに邁進する者にとって、恋愛は邪魔になる。
 
003は…009の恋人ではない。
「仲間」としか言いようがないのだが。
ほかの仲間と同じ…しかし、その純度(?)は極めて高い。
彼女は、ほとんど009と同じ人間だ…と言ってもよい。
それが、『003』だ。
 
こんな女性が、そうそういるとは思えない。
おそらく唯一無二。
心から愛し合う恋人を見つける方が、よっぽど簡単だという気もする。
 
そして。
009は003に言う。
「君がいてくれて良かった。」と。
 
「でも……。その事を考えるのは、とても恐いのよ……もし…もし、本当にそんな日が来て…そして、あなたを倒したとして……」
その後、自分はどうしたらいいのか。どうなってしまうのか。
震える003に、009が手を差し伸べる。
「ジョー……」
その手を取って、003はそっと頬に当てた。
「大丈夫だよ」
009が言う。
「君にそんな事はさせない……絶対に………」
僕が狂ってしまったら、君はきっと、僕を止めてくれるだろう。だからこそ。
「だからこそ……僕は耐えられたんだと思う……」
君がいてくれて良かった。
そう言って、009は微笑んだ。(Act.9 決着)
 
003は009自身であり、彼の心のとおりに動いてくれる。彼の望みを叶えてくれる。
しかし、同時に、003は歴然とした「他人」でもある。
「他人」を守るためなら、009はどんな苦しみにも耐えられる。
 
自分自身でありつつ、他人でもある。
それが『003』であり、『仲間』である。
 
003を守ることによって、009は自分自身を守る。
彼は、そういうやり方でしか、自分を守れない…のかもしれない。
 
 
5 内なる声 〜003とは何者か〜
 
タイラントが「十人目の仲間」となるとき。
009は、まず、彼を「友達」といって紹介する。
 
「僕の…友達だ。彼が居なかったら、僕は生きてここに居なかった。それは間違いない。本当に……僕にとって、彼は命の恩人だ。いや…そんな言葉じゃあ、とても足りない。あそこで……」
009はつと目を伏せて、唇を噛んだ。
「…あの… Neo Black Ghost 本部で、僕に味方する事が…どれ程の危険を伴う事だったか……。僕は……」
「ジョー、もういいから」
見かねたタイラントが、009の肩に手を置き、言葉を遮る。
「…もう…いいから…さ……」
「でも…」
(僕は、君を…殺した…んだよ……)
「お前の所為じゃない……」
気にするな。そういう瞳に、009は躊躇いがちに頷いた。
「…ご…めん……」(Act.8 明かりを灯すもの )
 
009はタイラントを「殺した」ことを許される。
そして、そのようにタイラントに許された自分を009自身がともかくも受け入れることができたとき。
タイラントもまた「仲間」になった。
 
とはいえ、カティサックのいう「009の『仲間』」には、まだ少し届かないのかもしれない。
 
『ようするに、タイラントは、009に『仲間』とは認められていないのです。所詮は…と言うのも語弊がありますが、タイラントは、勿論、私達もそうだろうと思いますけれど、009にとって、あくまでも『守るべき相手』であって、『共に戦う仲間』ではない。恐らく、009は戦いに臨んで必要とあらば、あなた達を見殺しにもするでしょう。けれど、タイラントを見殺しにすることは絶対に、無い……違いますか?』(Act.8 明かりを灯すもの )
 
「友達」というのは、微妙なところだ…と思う。
009は、あくまでタイラントを『守るべき相手』と考えていたが、タイラントが強引にその枠を乗り越え、009に自分を認めさせた、という感じかもしれない。
 
ともあれ。
 
この「仲間」の定義は実に厳しい。
そしてさらに言うなら…前述のように、「仲間」は自分たちの幸せのために戦うのではない。
 
クワイトとの決戦に臨み、003はほかの仲間が躊躇するときでも、迷わず009の意志を尊重する。
タイラントは、その姿にウィッチを見たりもするが。
根本的に違うと思う。
 
003は「009」を肯定しているのではない。
「009が守ろうとしているもの」を肯定するのである。
 
二人はまた別れる。
地底と…地上に。
それぞれ同じ目的のために。
 
009は入り口の所まで進むと、全員を見回して、微かに笑ってみせた。
「大丈夫。僕は、勝つ。また会おう……」
最後に003を見、頷く。
「必ず、帰る。待ってて……」(Act.9 決着)
 
009は003を見た。
003も009を見た。
…だから、009は頷く。
 
003が待っているなら…そのためになら、帰れる。
最後の最後まで「自分」を投げ出して闘っても、すべてを投げ出して闘っても、「自分ならざる自分」がいつまでも扉の外で待っている。
 
だから…009は帰ることができる。
 
(大丈夫だ……)
光なら、ある。
自分の中に。
(僕は…一人じゃない……)(Act.9 決着)
 
003は光の中にいる。いるべきだと009は思う。
そして、003は彼自身でもある。
彼女が光の中にいるかぎり、彼女と見つめ合っているかぎり、光は彼の中にもある。
 
二人のほかに、仲間は7人いる。
7人とも、003と同じだと言っていい。
 
009を絶望から救ったのは、8人の仲間と、009自身の光だった。
しかし、カティサックは、003の感情が、もっとも深く009と重なった…と言った。
やはり、ある意味003は「特別」…ということか。
少なくとも、「仲間」の象徴である…とは言える。
 
003が「仲間」の象徴である理由を、彼女が女性である…という事実に求めることはできる。
漠然としているが、男性である009に対応して女性…ってことで。それほど深い意味ではないが。
もっとも弱い…守るべき存在であることも大事だ。
弱ければ弱いほど、「守らなくては」という気になりやすい。
003は、利他主義へ暴走する009のストッパーでもあったりするので。(笑)
 
それから、彼女の能力。特に「目」の特化。
009が自分と彼女とを重ねるときの、一つの通路(?)が…目だ。
 
機械的に強化されていることとそれとは関係ないが、もっとも優れた「目」を持つ003にその役割が与えられる…というのは、物語の中では比較的自然な成り行きで。
 
どうして、003が「特別」になりうるのか…という理由は…上記のような「事実」に無理矢理見るのではなく、素直に(?)「それは、二人が愛し合っているからだ!」と言ってしまった方がいいのかもしれない。
たしかに、それを完全に否定するような描写もない。
 
しかし。
「恋人」は…009を救えなかっただろう。
003は、009を救った。
 
やはり…彼女は「恋人」ではない。と私は思う。
 
003は009の中で、ただ一人、彼に「生きよ」と囁く存在なのかもしれない。
世界を守るために自分のすべてを投げ出すことを自分に命じ、同時にそのために生きることを許す。
003を守ることで、009は世界を守り、自分自身を守る。
 
クワイトを倒した後…003は再び退場する。
009の傍らに立つ場面でも、彼女はもう空気のような存在になっている。
003は009の中にいる。それ以上語る必要はない…のかもしれない。
 
そして。
003は「帰りましょう」と009を促す。
最後の…視線の交錯。
彼女に頷き、009は戦いの終わりと安らぎを自分に与える。
 
「終わった…な……」
004が言う。
「うん……。でも……」
009の応えに002が苦笑する。
「俺達の『闘い』は、終わっちゃいない。そうだろ?」
「うん……」
一つの戦いは終わった。長く辛い戦いが。
「…帰りましょう……」
003が言う。
「……そうだね…」
これはつかの間の平和。
けれど。
だからこそ。
平和な日々を享受しよう。
自分の守ったもの、守りたいもの、それを確認する為にも。
「…帰ろう」
頷いて、009は操縦幹を握った。(Act.10 夜明け)
更新日時:
2002.04.05 Fri.
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Last updated: 2015/11/23