学活がはじまった。
私はすぐ、ジョーに場所を譲った。
ジョーの声はそんなに大きくないけど…
でも、聞き取りやすいし、司会も上手だと思った。
手際よく種目の説明をしてから、彼は言った。
みんなが、どの種目に出るか、話し合いたいと思います。
その決め方ですが、僕たちは、みんなが、それぞれやりたい種目を選ぶようにする…というのを提案します。
…異議はでない。
ジョーは、すぐ、挙手でざっと第一希望を取り始めた。
不思議なことに、女子は…綺麗に振り分けられていた。
話し合う必要もない。
偶然?
それとも…何か裏工作があったのかしら?
でも、どの生徒を見ても、何か含んでいるような表情の子は…いないと思う。
男子は…偏った。
なぜか、異様にサッカーの希望者が多い。
逆に、ドッジボールの希望者が極端に少ない。
おまけに…やっぱり、手を挙げようとしない子もいる。
球技大会なんてつまらない…自分には関係ないし、適当にさっさと終らせてよ…って感じかな。
ジョーは慌てなかった。
彼は、体育委員を指名し、それぞれの種目の特徴やルールの説明を補足させて…。
それで、1人がドッジボールに動いた。
さらに、手を挙げなかった生徒に、ジョーは1人ずつ問いかけていく。
柔らかい問い方だった。
人数が多いからって、遠慮しなくてもいいんだよ…サッカーをやってみたい?
どっちでもいい…という子にも、
ほんとうにそれでいいの?これだけはイヤだっていうのがあったら、言ってほしいんだけど。
私がぼーっと見ているうちに、彼はとうとう全ての生徒の希望を詳しく聞き出してしまった。
…でも、まだサッカーの希望者が多い。
ジョーは、サッカー希望者に、なぜサッカーをしたいのか、他の種目の何がイヤなのか…を聞き始めた。
やがて。
少しずつ、生徒達の口が回りはじめ…
ほどなく、ほとんどの子が、目を輝かせ、勢いよく手を挙げ始めた。
…こうなれば…話は早い。
子供達は、問題の解決方法を、自分たちでよく知っている。
数分のうちに…話し合いは終わりに近づいていた。
譲った生徒も譲られた生徒も満足そうな表情になっている。
ドッジボールの選手が…あと1人決まれば、終わり…だけど。
そのとき。
私ははっとして、ジョーを見やった。
それじゃ…これで決まりました。
僕は、ドッジボールがしたいから。
…ジョー?
学活が終ってから…そっとジョーを呼び止めた。
…ほんとなの?ドッジボールがしたいって。
…はい。
あなただってうちのクラスの生徒なのよ。
あなた1人が我慢するなんて、間違ってるわ。
僕、我慢なんてしてません…先生。
でも…と言いかける私に、彼はにこっと笑った。
…う。
何となく絶句する。
そんな私に、彼は人なつこく微笑みながら言った。
先生、もし僕たちが優勝したら、何かおごってくれるよね!
…うなずいてしまった…みたい。
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