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学級経営日記

Friday, 12 April,2002
学級委員長
今週中に学級役員を選ばなければならない。
といっても、入学したばかりで、選挙なんてできないから…
担任が仮役員を決めなければいけなくて。
 
資料となるのは、小学校からのデータぐらいで…
一昨日の実力テストの結果も使えないことはないけど…勉強ができればいいというものでもないし…
 
学級委員長の経験者は…?と思って調べたんだけど。
たくさんいすぎる。
…しかたないわ。
児童会長経験者とか…探そう。
 
…3人いた。
 
ジェットとアポロンと…ジョー。
 
よくわからないので、放課後3人を呼んで、引き受けてもらえないかどうか…聞いてみた。
 
失敗だった。
 
お前やれよっ!!よ〜し、決まりなっ!!!
 
…と、嵐のような応酬のあと、2人が駆け去り…
 
ぼーぜんと取り残されていたのは、茶色の髪の少年。
 
ジョーだ。
 
だ、だめよっ!
こんなトロイ子に委員長やらせたりしたら…!
 
私は廊下に飛び出して、全速力でジェットとアポロンを追いかけ、首根っこ捕まえて職員室へ引きずり戻した。
 
逃げちゃだめっ!
じゃんけんで決めなさいっ!!!
 
二人はゴネにゴネまくった。
 
なんで俺たちなんだよ、先生〜?
やだよ〜!
絶対やだからなっ!!!
 
そ、それはそうよね〜
うう、やっぱり素直にうんとは言ってくれない…当たり前だけど…どうしよう…
 
ため息をついたとき。
 
いいよ…僕がやるから。
 
……え?
 
茶色の髪の少年がぽそっと言った。
僕…って、アナタのこと…?ジョー?
 
僕がやります、先生。
 
ジョーは唖然としている私にかまわず、くるっと振り返って、ジェットとアポロンに言った。
 
君たちは副委員長、やってくれるよね?
 
二人は鳩が豆鉄砲食らったような顔のまま…こっくりうなずいた。
 
それじゃ…先生、僕たちがやりますから。
 
ジョーはにっこり笑って一礼すると、職員室を出て行った。
 
しっかりしてそうな子じゃないですか?
 
我に返り、振り返ると…
4組の担任、ハインリヒ先生が笑っていた。
 
…しっかり…してるのかしら?
 
なんだかとっても不安。
 
Saturday, 13 April,2002
ブランチ
入学式から、初めてのお休み。
 
よく考えてみると、まだ入学式から一週間もたっていない。
でも…疲れた。
 
とにかくオリエンテーションの応酬。
 
子供達がまだ緊張しててくれるから、なんとかなるんだけど…それにしても。
 
話を聞いてる顔して全然聞いてない。あの子たちって。
 
どう?カワイイかい、中1は…?
 
少し寝過ごして、遅くなった朝食のテーブルで、兄さんが笑って聞いた。
 
ええ…もぉ、よちよち、ぷにぷに…って感じなの、男の子もよ。
でも、なんだかとまどうことばかりで。
ギャップも大きいから。
 
そうだよな。去年は高3だったんだもんなあ…
 
兄さんはちょっと心配そうに私をのぞいた。
私は慌てて笑顔を作った。
 
今日は気晴らしに…ちょっとでかけてみるか?
 
ほんと?と嬉しそうに聞き返す私に、兄さんは苦笑した。
 
休みだってのに、デートの約束ひとつないんだからなぁ、お前は…
誰か、いいヒトとか、いないのか?職場にさ?
 
…そんなこと、言ったって。
 
そういえば、ほら…何とかいう先生と同じ学年になったって…言ってたじゃないか。
 
ハインリヒ先生には、恋人がいるもの。
 
黙っている私に、兄さんはちょっと肩をすくめた。
 
しょうがないな…マジメに縁談、探すか?
このまんまじゃ、お前…
 
何よ、兄さんこそ!
 
お前が片づかないことには安心できないんだよな〜
 
私は兄さんをじーっと睨んだ。
 
ダメ、だって中1の担任になったのよ…!結婚なんて考えてる場合じゃないわ。先は長いんだから。
 
兄さんは目を丸くした。
 
お前…先は長いって、そいつらが高等部卒業するまで6年かかるんだぞ〜???
 
それは…そうだけど。
6年…6年かぁ…
 
…それまでに、あと何回週末を迎えることになるのか、数えそうになった自分をぐっと押さえつける。
 
とりあえず、目先の一週間よ!
Monday, 15 April,2002
号令
先週は、日直の子に号令をかけさせてたけど…今日から委員長のジョーにやらせてみることにした。
 
先生が入ってきて、教壇に立ったら、起立!って言って…それで、全員が立ったのを確かめてから気を付け!みんながぴちっとしたら、礼!…それから着席!
 
…と、教えなくてもいいような気はしながらも、朝、ホームルームの前に、こっそり職員室に呼んで教えてみる。
ジョーはじーっと私の目を覗き込むようにして、真剣に聞いていた。
 
たぶん、大丈夫…よね。
 
深呼吸して、教室に入った。
 
…あら?
 
号令が、かからない。
生徒達はまだ楽しそうに騒ぎまくっている。
思わずジョーの方を見ると…
彼は一人で正面を向いて立っていた。
 
よ〜く見ると…なんか口が動いている。
 
起立…起立…起立!
 
…と繰り返し言ってるらしい。
かなり…遠慮がちな感じ。
 
これじゃダメだわ…声が小さすぎる。
 
はいっ、静かに…!号令がかかってるのよ!!
 
仕方なく、生徒達を一喝した…けど。
 
ジョーは…ホームルームの間中、身を硬く縮めるようにしてうつむいたまま。
ホームルームが終ると、私は咄嗟に
 
じゃ、次の準備をしなさいね。
 
と生徒達に言い、早々に教室を出てしまった。
号令は…省略。
 
一時間目は空き時間だった。
 
号令…どうしよう…?
 
考える。
このままジョーにやらせるのは…かわいそうだけど…でも、これですぐ、あなたには無理ね…って、他の子に任せるのも…かわいそうだと思う。
 
もう少し…様子を見ようかしら。
もちろん、もっと大きい声で…って注意して…
 
注意、か…
 
さっきのジョーの眼差しを思い出し、私は息をついた。
あんな張りつめた目で見られると…なんだか話しづらいのよね…
 
もちろん、そんなこと言ってる場合じゃないけど。
 
二時間めの授業は…1−3。
とにかく、入ったら、素早くさりげなく生徒を静めて、少しでもジョーが号令をかけやすいようにしてあげなくちゃ…
 
重い気分で教室に入った途端、ほとんど怒号に近い声が響き渡った。
 
きぃりいいいいぃ〜〜っつぅっ!!!!!
 
思わず指を両耳に突っ込んでしまった。
 
…ジェット?
 
気を付けっ!礼っ!着席っ!!!
 
完璧な号令…
というか。
 
…うるさい。
 
私が口を開く前に、ジェットが大声で言った。
 
先生っ!俺が号令かけるからっ!!
 
そ…そう…?
 
思わずジョーを見た。
ジョーはにこっと笑ってから、教科書を開いた。
 
…よくわからないけど。
い、いいのかしら…?
 
授業から戻ってくると、ハインリヒ先生が言った。
 
ジェット…の号令、あれ、アルヌール先生がやらせてるの?
 
そういえば、ウチの一時間目はハインリヒ先生の授業だったわ。
じゃ、一時間目からすぐ…ジェットが号令をかけ始めたってことで。
 
え、ええと…やっぱり…うるさい…ですか?
 
おずおず聞き返すと、ハインリヒ先生は微苦笑を浮かべ、首を振った。
 
慣れればどうってことないさ、だが…
一回りするまで、どの先生も度肝を抜かれるだろうな。
 
…ほんと。
 
放課後までの間に、職員室でジェット・リンクの名を知らないヒトはいなくなっていた。
Tuesday, 16 April,2002
お弁当
ハインリヒ先生に、「昼食は教室で生徒と一緒に食べた方がいい」とアドバイスを受けた。
 
就任以来、私はずっと高等部にいたから…
昼休みは生徒を野放しにするのに慣れていたけど。
 
でも、中学校なら給食のある学校だって当たり前だし…
いろんな意味で、担任は生徒と昼食時をともにした方がいいのだ、という彼の考えには納得できた。
 
うちの学校は…中等部でも給食がない。
生徒はお弁当をもってこなければならない。
 
まだお弁当が珍しいらしく、どの子もはしゃぎ気味に食べていた。
 
ハインリヒ先生の教えてくれたチェックポイントは。
 
一人で食べてる子はいないか。
あと…お弁当の中身。
 
まだ仲間もできていないだろうから、好きな者同士で座らせるのではなく…
しばらくは自分の席近辺で、適当に机を合わせて食べさせることにしていた。
 
ざっと見たところ、一人しょんぼりしているような子はいない…と思う。
 
で、お弁当の中身は…
 
先生っ、先生の弁当、何だよっ???
 
ジェットに先回りされてしまった。
彼は、私の食べているものをじーっと眺め、目を丸くした。
 
うっわ〜、しょぼい弁当〜〜っ!!!
 
…う。
そ、そうかも…
 
今日は寝坊しちゃったから…
パンにチーズをはさんだのと、リンゴと…さっき買ったミルクだけ。
 
そうだったわ…!
いけない、ちゃんと栄養のことも考えて…子供達の見本になるようなお弁当を持ってこなくちゃ…!
 
焦っていると、どれどれどれ〜?と、アポロンがのぞきにきた。
 
…ホントだっ!だっせ〜!!
 
アポロンはふっと笑うと、自分の席に戻り、色とりどりの具がおいしそうに重なっているサンドウィッチを差し出した。
 
ひとつやるよ、先生…!
 
え…い、いいわよ…あなたの分がなくなっちゃうわ。
 
アポロンはさも得意そうに言った。
 
俺のは、まだまだあるんだ…!
姉上が夕方の分まで作ってくれたから。
食べろよ、先生…うまいぞ。
 
しかたなく、お礼を言って受け取り、ひと口囓ってみる。
…本当においしい。
 
私の表情に、アポロンは満足そうにうなずいた。
 
うまいだろ、先生?
姉上のサンドウィッチは最高なんだ!
 
…なんで姉上なのかしら?
 
ふと思った。
そういえば…まだ慌ただしくて、生徒の家庭のことなんて、何も知らなかった。
 
なんだ、ジョー?
お前もシケた弁当食ってるな〜、先生と同じだぁ〜
ほら、これ食えよ!!
 
大声に振り返ると…アポロンが、今度はジョーに「姉上のサンドウィッチ」を無理矢理渡していた。
 
…ほんと。
私のより…しょぼいかも。
食パンみたいなのに…何か塗ってある…だけ?
 
入学して間もない中1のお弁当。
どの子も、それなりに気合いの入ったものを持ってきてるのに。
 
放課後、一応全員の家庭調査書を見ておかなくちゃ…
 
最後のパンを大急ぎでミルクで流し込みながら、そう思った。
 
やっぱり、ハインリヒ先生は正しいわ。
Friday, 19 April,2002
明日の連絡
各教科に、教科係というのがいる。
 
教科の連絡をしたり、教員の手伝いをしたりするのだけど…今のところ、主な仕事は「明日の連絡」。
 
帰りのホームルームで、明日の時間割を確認し、教科係が教科担任の先生から聞いてきた、持ち物や宿題の連絡をする。
 
それじゃ…教科の連絡をしてください。
1時間目の国語…!
 
はい、と立ち上がった国語係のシンシアが、はきはきと連絡事項を伝えた。
 
メモ、とってる…?
 
うるさいだろうけど…いちいち言わないと、手が動かない子が多い。
ぐるっと見渡すと…ああ、また。
 
ジョー…!鉛筆とノート出しなさい!
 
ジョーは目を丸くしてから、あたふた机の中を探り始めた。
 
毎日…注意してるのに。
どうしてできないのかしら?
 
もしかしたら、これくらいの連絡…メモをとる必要なんてないのかもしれない。
そういう子もたまにいる。
全部耳で聞いて忘れない子。
でも、ジョーがそのタイプかどうか…まだ私にはわからないし…
 
2時間目、体育。3時間目、社会。
連絡はよどみなく続いた。
 
…そして。4時間目。
 
嫌な予感を押し殺し、私は声を張り上げた。
 
4時間目の…数学!
 
…返事がない。
途端に生徒達はざわざわし始めた。
くすくす笑い始めたのもいる。
 
…ジェット…アポロン!
 
う?…うわっ!!
やべっ!!!
 
同時に頓狂な声を上げ、弾かれるように立ち上がるや、二人は教室を飛び出していった。
 
爆笑。
 
私は…笑えなかった。
へなへな椅子に座り込む。
 
…また、なの〜???
これで、3回目なのよ〜〜!
 
数学係の二人は、持ち物やら宿題やらの確認を取っておくのをすっかり忘れていて…慌てて教科担任を捜しに行ったのだ。
 
新入生にはめずらしいことではない。
仕事に慣れていないし、要領も悪い。
 
でも…
普通、一度で懲りるはず…なのに。
 
帰りのホームルーム時に教科担任を捜すのは至難の業だ。
校舎中をかけずり回る羽目になり、教室に戻れば戻ったで、待たされていた生徒達の烈しいブーイングを浴び…
二度とこんな失敗はするまい、と心に誓う。
 
…それが普通なのに。
 
この二人ときたら…
連絡をとるのを忘れていたのはもちろん、こうやってその場にきて自分たちの名を呼ばれるまで、自分たちが数学係であることさえ忘れてる…みたい。
 
月曜も水曜もそうだったのよ…!
 
水曜には、さすがにちょっと強く叱った。
二人ともしょんぼりして…
今度は忘れません、と言ったのに。
 
約10分後。
二匹の犬っころみたいに、ハァハァ言いながら、二人は教室に駆け込んできた。
 
あ、明日は…教科書とノートと、この間配ったプリント!…宿題は、14ページの発展問題です!
 
やれやれ…とため息をつき…教室を見回した…そのとき。
私はほとんど悲鳴のように叫んだ。
 
ジョーっ!!
メモ取りなさい〜っ!!
 
ジョーは、また慌てふためいて机を覗き込み、がさごそし始めた。
二人を待っている間に、鉛筆とノートをしまっていたらしい。
それで、またぼけーっと窓の外を…
 
…もう、いやぁ〜っ!
Monday, 22 April,2002
掃除
月曜日。
ということは。
 
また掃除当番が変わるから…
一からやり直しなのね〜!
 
なんだか泣きたくなる。
 
生徒達は掃除の仕方を…なぜか知らない。
小学校でもやっているはずなのに。
 
ほうきが使えない。
ぞうきんが絞れない。
ふき掃除が出来ない。
 
先週の掃除当番の生徒達は、ほうきを振り回して埃をまき散らし、そのくせ紙くずなどはわざわざ避けて歩き…
 
床の雑巾がけをさせれば、凄まじい勢いではしゃぎながら、縦横無尽にめちゃくちゃに走り回ったりして。
 
何から何まで手とり足とり…で教えなければならなかった。
特に男子。
 
隣の4組からも、ひっきりなしに、ハインリヒ先生の怒号が聞こえてくる。
 
でも…4組の子たち…土曜日にはとってもキチンと掃除できてた。
やっぱりハインリヒ先生の指導は違う…
もともとすっごくきれい好きなヒトみたいだし。
 
いけない、ハインリヒ先生と比べちゃったら、落ち込むだけなんだから…!
 
気を取り直して、今週の掃除当番に向かう。
 
掃き掃除と机運びと、雑巾がけに、生徒達を割り振って…まず掃き掃除。
 
雑巾がけの生徒達は待たせておく。
非効率的だけど、先週、掃き掃除の合間に、生徒達だけで雑巾ゆすぎに行かせたら…
いつの間にか、流しから廊下から教室まで水が飛び散りまくって…
 
それこそ手を取って、ほうきの使い方を教え…一通りすんでから、雑巾がけの生徒達を流しに連れて行く。
 
バケツは使わせない。
使いこなせないのは明らかなので。
 
直接水道から水を流して、雑巾をゆすがせる。
多少洗い方が甘くても目をつぶって…とにかく、しっかり絞らせる。
 
教室に戻ると…
 
ジェットが大はしゃぎでほうきを振り回し、アポロンを追いかけていた。
 
やめなさいよ〜!!!
 
シンシアやヘレンが叫んでいたけど…
二人は興奮しきっていて、止まらない。
 
何してるのっ!!やめなさいっ!!!
 
怒鳴りながらようやく二人を引き分け…
さあ、雑巾がけ…と振り向いたら。
 
ジョーが後ろに寄せてあった机を黙々と動かしている。
…もう、2列分くらい。
 
何やってるの、ジョー?!
元に戻しなさいっ!!
 
ジョーはきょとん?と私を見た。
 
でも、僕…机の係…
 
まだ拭き掃除が終ってないでしょっ?!
何のために机を動かしてると思ってるのっ、アタマを使いなさいっ!!!
 
…わけがわからない。
 
たっぷり40分かけて、教室掃除が終った。
よろよろ職員室に戻ると…鍵がかかっている。
 
あ。
…職員会議だったわ…今日。
 
脱力しながら会議室に向かう。
会議は…もう中盤にさしかかっていた。
 
こそこそ入っていく私に、学年主任のブリテン先生は意味ありげな笑みを浮かべながらウィンクを投げた。
 
そうっと席につくと…
ハインリヒ先生が、走り書きのメモをよこしてきた。
 
3組のエアコン、フィルター掃除してるか?
 
…忘れてました。
Wednesday, 24 April,2002
ヘレンとビーナ
うちのクラスのヘレンには、双子のきょうだいがいる。
 
4組のビーナ。
ヘレンが姉なのだという。
 
双子のきょうだいは、学年に一組くらいの割合でいる。
ヘレンとビーナは一卵性双生児ということで…
 
それにしても瓜二つだった。
 
まして、制服を着てしまったら、どちらがどちらだか、訳が分からず…
 
普通、双子のきょうだいが隣のクラスになることはない。
3・4組は、体育が合同クラスになったりするし…
見分けのつかないのがいると、ちょっと困ることもないとは限らないから。
 
今回、どうしてこんなそっくりの二人が隣同士のクラスになったのか。
私はその事情を知らないのだけど。
 
ハインリヒ先生も知らなかった。
 
まあ、ただのミスだと思うがね。クラス分けの時の。
 
…そうなのかしら?
 
と言っても、体育のときは胸に名札が縫いつけてあるし…二人はそれぞれのクラスの友達といつも一緒にいるから、それで見分けられる。
実際に困ることはほとんどない。
 
今日の放課後。
 
職員室の私のトコロに、珍しくヘレンとビーナがそろってやってきた。
問題集の問題がわからなくて、質問にきたのだ。
 
よく勉強する子たちだから…
 
感心しながら、私はその応用問題の解き方を、説明した。
中間テストでは、ここまでムズカシイのは出さないだろうな…と思いながらも。
 
どっちがヘレンでどっちがビーナだか、わからないままだったけど…それで困るわけでもなかったので、特に尋ねなかった。
 
ありがとうございました。
 
…と、二人が一礼して一緒に職員室を出ようとしたとき。
ハインリヒ先生が入ってきた。
 
あ。教室に戻るんだよな、ビーナ?
悪いが、コレを持っていって、教卓の中にしまっておいてくれないか?
 
ハインリヒ先生は右側の子に、学級日誌を渡した。
 
はい。ハインリヒ先生。
さようなら。
 
彼女は日誌を受け取ると、にこっと笑い、会釈して職員室を出て行った。
 
私は思わず立ち上がり、職員室を出て…
さりげなく、二人の後を追った。
 
学級日誌をもった子は4組へ。
もう一人は3組へと入っていき…ほどなく二人はカバンを持って廊下に出てきた。
 
あ…アルヌール先生、さようなら。
ありがとうございました。
 
二人は声をそろえて言った。
 
職員室に戻り…
ハインリヒ先生に聞いてみた。
 
先生は…
どっちがビーナか、わかるんですか?
 
ああやって二人並んでいれば、だけどな。
…さすがに、これだけ毎日顔合わせていれば、わかるようになるさ。
 
そ、そうなんですか。
Thursday, 25 April,2002
打ち合わせ
明日の一時間目は学活。
来週の球技大会の選手決めがテーマだ。
 
放課後、体育委員と学級役員で、明日の議事の進め方について、打ち合わせをさせた。
 
球技大会は全員参加。
種目は…男子がバスケットとサッカーとドッジボール。
女子はバスケットとソフトボールとドッジボール。
 
年によって違うのだけど、毎年それなりに人気のある種目とそうじゃないのとができてしまう。
 
とにかく、参加する種目は…各自がやりたいモノにするのが原則。
そこまでは、全員異存がなかった。
モメたのは…
人数がある種目に偏ってしまったとき、どうするか、ということ。
 
体育委員はじゃんけんで決めればいい、と言った。
ジェットは、スポーツテストの結果を体育の先生からもらってきて、運動能力の高い者がうまく各種目にバラけるようにすればいい、と主張し…
アポロンは、各種目のリーダーを最初に決めておいて、その子に選ばせればいい、と言う。
 
何度か体育の授業を経て、多少はお互いの実力がわかっているんだろうけど…
 
でも、ジェットの説もアポロンの説も…ちょっと無理があるし…問題もでてきそう。
やっぱり、じゃんけんね…と思っていたら、ジョーが言った。
 
最後まで話し合えばいいよ。
みんな、少しでも自分がやりたい種目が出来た方がいいじゃないか。
 
…そうなんだけど。
 
そんなこと言ってたら、みんな言いたい放題言って、決まらないぜ?
いつも黙ってる奴だっているんだしさ〜
そうそう、それに、そういうやり方じゃ、勝てるチームになるかどうかもわからないし…
 
ジェットとアポロンは反対した。体育委員も。
私も…ジョーの言うことが正論だと思いつつ…それはかなりムズカシイ、と認めざるを得なかった…が。
 
ジョーは静かに頑固に…考えを変えなかった。
 
じゃ…やってみろよ、ジョー、どうせお前が司会なんだし。
 
ようやく、アポロンがそう言った。
ジョーは黙ってうなずいた。
 
時間内に決まりそうもなかったら…じゃんけんにするわよ、ジョー…いい?
 
ジョーは私の目をじっと見て…
またうなずいた。
Friday, 26 April,2002
話し合い
学活がはじまった。
私はすぐ、ジョーに場所を譲った。
 
ジョーの声はそんなに大きくないけど…
でも、聞き取りやすいし、司会も上手だと思った。
 
手際よく種目の説明をしてから、彼は言った。
 
みんなが、どの種目に出るか、話し合いたいと思います。
その決め方ですが、僕たちは、みんなが、それぞれやりたい種目を選ぶようにする…というのを提案します。
 
…異議はでない。
 
ジョーは、すぐ、挙手でざっと第一希望を取り始めた。
 
不思議なことに、女子は…綺麗に振り分けられていた。
話し合う必要もない。
 
偶然?
それとも…何か裏工作があったのかしら?
 
でも、どの生徒を見ても、何か含んでいるような表情の子は…いないと思う。
 
男子は…偏った。
なぜか、異様にサッカーの希望者が多い。
逆に、ドッジボールの希望者が極端に少ない。
 
おまけに…やっぱり、手を挙げようとしない子もいる。
球技大会なんてつまらない…自分には関係ないし、適当にさっさと終らせてよ…って感じかな。
 
ジョーは慌てなかった。
 
彼は、体育委員を指名し、それぞれの種目の特徴やルールの説明を補足させて…。
 
それで、1人がドッジボールに動いた。
 
さらに、手を挙げなかった生徒に、ジョーは1人ずつ問いかけていく。
 
柔らかい問い方だった。
 
人数が多いからって、遠慮しなくてもいいんだよ…サッカーをやってみたい?
 
どっちでもいい…という子にも、
 
ほんとうにそれでいいの?これだけはイヤだっていうのがあったら、言ってほしいんだけど。
 
私がぼーっと見ているうちに、彼はとうとう全ての生徒の希望を詳しく聞き出してしまった。
…でも、まだサッカーの希望者が多い。
 
ジョーは、サッカー希望者に、なぜサッカーをしたいのか、他の種目の何がイヤなのか…を聞き始めた。
 
やがて。
少しずつ、生徒達の口が回りはじめ…
ほどなく、ほとんどの子が、目を輝かせ、勢いよく手を挙げ始めた。
 
…こうなれば…話は早い。
 
子供達は、問題の解決方法を、自分たちでよく知っている。
 
数分のうちに…話し合いは終わりに近づいていた。
譲った生徒も譲られた生徒も満足そうな表情になっている。
 
ドッジボールの選手が…あと1人決まれば、終わり…だけど。
 
そのとき。
私ははっとして、ジョーを見やった。
 
それじゃ…これで決まりました。
僕は、ドッジボールがしたいから。
 
…ジョー?
 
学活が終ってから…そっとジョーを呼び止めた。
 
…ほんとなの?ドッジボールがしたいって。
 
…はい。
 
あなただってうちのクラスの生徒なのよ。
あなた1人が我慢するなんて、間違ってるわ。
 
僕、我慢なんてしてません…先生。
 
でも…と言いかける私に、彼はにこっと笑った。
 
…う。
 
何となく絶句する。
そんな私に、彼は人なつこく微笑みながら言った。
 
先生、もし僕たちが優勝したら、何かおごってくれるよね!
 
…うなずいてしまった…みたい。
Tuesday, 30 April,2002
学年会
今日は、週に一度、学年の教員が集まり、打ち合わせをする日。
 
今週の主な議題は、来月末の遠足の行き先について。
 
学年主任のグレート先生が、プランを4つ、提案した。
それぞれ一長一短だけど…
 
潮干狩りも、いいんじゃないか?いや、張々湖大人が、潮干狩りなら一緒にいきたい…っていってたんだけどね
 
さすが、大人…あさりの蒸し物でも作るつもりなのかな?
 
ハインリヒ先生が笑った。
 
たしかに、この遠足の日は、学校に生徒が1人もこなかったりするので…
生徒のいない日に相談室を開けていても、しかたない。
だったら、張々湖先生も、一緒に遠足にきて…気分転換をするのがいいのかもしれないわ。
 
でも…もしかしたら、遠足を休んで、張々湖先生のカウンセリングを受けるつもりの子もいるのかしら…?
 
それも鬱陶しいから、一緒にいくなんて言ってるのかもしれないねぇ…とにかく、大人は潮干狩りを推してた…が、それはそれとして。
 
ほんと。
それはそれとしてだわ。
 
話し合いの結果…なぜか、電車に乗って近場の博物館や公園を回る…というコースに決まった。
 
安上がりで、地元理解にもつながるし、貸し切りバスの料金を浮かせば、昼食を少し上等なものにできる、とか…
たしかにいいところはいっぱいあるのだけど。
 
でも…
あの子たちをフツウの電車に乗せて、フツウの人たちと一緒に移動させるのって…
 
…3組は、タイヘンかもな。
 
ぽそっとハインリヒ先生が言った。
…ニコリともしないで。
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Last updated: 2007/10/21