いいお天気になった。
きっと人出もスゴイことになるはず。
と、気を引き締めていたのは、無駄にならなかった。
本当にスゴイお客さん!
視聴覚室もあっという間にいっぱいになってしまって、行列ができている。
こんなにたくさんの人たちに来てもらえるなんて、きっとこの子たち、想像できなかったんじゃないかしら。
みんな、戸惑いながらも、とても張り切っていて。
これが文化祭のいいところだわ。
昼を過ぎると、卒業生の姿もたくさん見かけるようになった。
やっぱり懐かしい…けど、中1の生徒を見慣れた目には、ホントにものすごくオトナに見えてしまう。
去年までのあれこれを思い出してみても、目の前にいる彼らとはなかなか結びつかなくて……
廊下で卒業生と立ち話をしていたら、いつのまにか3組の生徒たちが遠巻きに立ちつくしていた。
ゴミ袋が欲しくて、声をかけたかったのだけど、オトナの話を邪魔してはいけないと思って遠慮していたらしい。
オトナ、かあ……。
先生のトコロの映画も観ましたよ!可愛いですよねー、中1って。
ホント、むちゃくちゃ可愛かったー!あのちっちゃい男の子なんて、特に!
…ジョーのことかしら?
※※※
アルヌール先生。いらっしゃいましたら、至急、視聴覚室にお出でください。繰り返し連絡します…
公開終了時刻が近づいてきたころ。
もう大丈夫だろうと、視聴覚室を離れて、高校生たちの展示をゆっくり回っていたら、いきなり呼び出し放送が入った。
文化祭の公開日に、こういう放送が入ることはめったにない。
…ということは、めったに起きないことが起きたってことで…やだ!
大急ぎで走っていくと、視聴覚室前の廊下で、グレート先生が、頬を真っ赤に火照らせたジョーの両肩をしっかり押さえつけるようにしている。
どきん、とした。
また、何かやったのっ、ジョー???
アナタはまだ「謹慎中」なのに!
おお、アルヌール先生!
すみません、離れていて…あの、一体…
先生っ!泥棒がいたんだ!
ジョーが私の顔を見るなり叫んだ。
そのままかけ出しそうになるのを、またグレート先生がしっかり押さえつける。
いいから!お前はここにいろ!あとは先生たちに任せて…
だって!アイツら!
ピュンマ先生とハインリヒ先生が追いかけてるんだ、絶対逃げられないって。それに、さっきオマエがあれだけ…
…と、言いかけたトコロで、グレート先生はぱっと口を噤み、私に意味ありげな視線を向けた。
…さっき?
…ジョーが?
…あれだけ…って何?
なんだか聞きたくないなー。と思った。
※※※
「泥棒」は、既に捕まっていた。
いかにもワルそうな感じの若者二人。
彼らは、視聴覚室で映画を観る振りをしながら、すみっこに置いてあったイシュキックのカバンから財布を抜き取ったのだという。
貴重品は私が預かる…ってことになってたのに。
イシュキックはちょっとおっとりしているというか浮世離れしているところがあるから…。
しかも、財布には結構な金額が入っていたらしい。
が、ソレをたまたまジョーが見ていて。
「泥棒!」と大声を上げて。
逃げ出した二人を追いかけて。
階段で追いついて。
さすがに、大柄なケンカ慣れした若者が二人が相手では、ジョーもどうにもできないはずだった。
そこが、階段でなければ。
…………。
もう、いいわ!
二人とも、大したケガじゃなかったらしいし。
後始末してくれたのがピュンマ先生とハインリヒ先生とグレート先生だった…のもラッキーだったし!
また指導部行きでしょうか、とおそるおそる尋ねると、グレート先生は、
泥棒退治のお手柄生徒、指導部で表彰してほしい…ってか?
…ってトボけるし。
※※※
てんやわんやの後片付けが終わった頃には、日が暮れてしまっていた。
最終下校時刻が近づき、生徒達がばらばらと校門へ走っていく。
興奮した感じで賑やかにおしゃべりしている生徒達の中から、ひときわ高い声が聞こえた。
アポロンだわ。
来年はさ、でっかい城作ろうぜ!中庭に!
つづいてジェットの声。
それより、お化け屋敷がいいぜ!すっげー怖いヤツ!なぁ、ジョー?
ジョーが何を言ったのかは聞き取れなかった…けど、アポロンとジェットは怒濤のツッコミを入れ始めた。
なんだよ、それ!
ばっかじゃねーの、オマエ?
だっせーっ!
何を言ったのかしら、あの子。
…というか。
つまり、来年も再来年もずーっとあるってことなのよねー、文化祭…。
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