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学級経営日記

Tuesday, 24 September,2002
生活指導部会
約束の時刻に、ジョーはドクター・ギルモアと一緒に登校した。
 
昨日強引に頼み込み一応承諾を得たものの、ドクターが本当に来てくれるかどうかずっと不安だったので、とにかくほっとした。
 
私は二人を校長室へと案内した。
 
まず、生活指導部長がこちらで現在把握しているこの件についての事情説明をする。
ドクターもジョーも黙って聞いていた。
 
本日、指導部会を開いて、指導方針を決めることになります。今日は、ご自宅の方で待機していてください。
 
わかりました。ご面倒をおかけします。
 
ドクターは、丁寧にお辞儀をした。
 
短い会合がすんで、玄関で靴を履いているドクターに、私はお礼を言った。
ドクターは、今日も、午後から会議があるのだという。
 
アンタの学校は、くだらん手間をかけさせるところじゃの。じゃが…この子がそれでもココに通いたいと言うのじゃから、やむを得ん。
 
ドクターは、マジメな顔で言う。
この子がココに残るために必要なことは全部教えろ、それについての手間は惜しまない…と。
 
それもまたなんだかいわゆる保護者のやり方とは違うような気もするのだけど…
でも、他にどうしようもないのだから、しかたないわ。
 
指導部会は放課後開かれた。
当事者の担任として、事情説明のときは私も出席した。
 
指導部長も、他の先生たちも、高校生たちに相当の問題があり、加えて、彼らがやや過剰に反撃したことを含んで、ジョーには幾分同情をもってくれている…ように感じた。
 
今日、保護者代理が来たということですが…家庭での指導は、それで大丈夫だと思われますか?
 
…アルヌール先生、どうでしょう?
 
島村の保護者は、現在海外での仕事に携わっていて、帰宅がままならないというのが現状のようです。でも、保護者代理のギルモア氏は、誠実な人柄で、長期休暇のときは島村と同居もしています。こちらの指導についても理解していただいているので、問題ないと思います。
 
相手方に謝罪にも行ったんですよね?
 
ええ。昨日。
 
…なるほど。
 
やがて、それではここで担任は退席してください、と言われた。
会議室を出て、深呼吸した。
たぶん…大丈夫だと思うけれど……
 
会議の結果出された指導案は、ジョーには校長訓誡、高校生たちには指導部長訓誡。謹慎などの処分はなし。
 
ジョーについては、いわゆる反省ノートを一定期間書かせる。担任と学年主任と保護者代理が点検、コメントする。
 
大丈夫かしら?
反省ノートは通常ひと月ほど続けることになる。
ドクターが、それまでジョーの家に滞在し続けるのは…非現実的、という気がした。
 
…が。
 
夜になってからかけた電話で、ドクター・ギルモアは、私の話を黙って聞き、承知した、とだけ簡単に答えた。
Thursday, 26 September,2002
反省ノート
朝、登校してくると、ジョーは教室に入るより前に職員室にきて、反省ノートを置いていく。
帰りに、また職員室にきて、取っていく。
 
まだ二日目だけど…なんだか気になってしまう。
 
ジョーのノートには、その日あったことが細かく記入され、そのとき自分がどんなことを感じたか、考えたかもかなり詳しく書いてあった。
 
もちろん、喜ばしいことだわ。
…でも。
 
でも、それを書いたのが他ならぬあのジョーだとなると話は少し別で。
ついこの間まで、生活記録ノートにはお天気について1行書くだけ…だった子なのに。
 
こんなにモノが書ける子だなんて、知らなかった。
夏休みの自由研究は立派だったけれど、文章はそれほど書いていなかったし、そもそも字が汚すぎて……
 
反省ノートに書かれたジョーの字は、本当に端正。
文章も、中1の生徒としては非の打ち所がないように見える。
 
となると、ホントにこの子が書いたのかしら?と疑うのもアリかもしれないけど…
でも、なんとなくの感じ…でしかないのだけど、コレはジョーの文章だという気がする。
 
どうしたのかしら…?
もちろん、喜ばしいことなのよ。でも。
 
コレをちゃんと書かないと、学校を追い出される…って思っているから必死になっているのかしら。
それは…たしかにそうだけど、でも……
 
それとも、今までの生活記録ノートがばかばかしく手抜きだった…というか、私が半年近く彼にナメられていた…ということなのかもしれないわ。
 
ドクター・ギルモアのコメントは短いけれど…気のせいかもしれないけれど、温かい感じもする…ような気がする。
 
考え考え、コメントを書いてみる。
次はグレート先生に回して…
 
そうなの。
それで、明らかに一人だけ手抜きなのよね、グレート先生のコメントって…!
Saturday, 28 September,2002
177
台風が近づいている。
最悪のコースだと、明後日の朝直撃…だとか。
 
もちろん、警報が出たら休校になる…のだけど、いろいろ条件があって…それは、生徒手帳にかなりわかりやすく書かれている。
 
…なのに。
 
今日は生徒たちにいろいろ質問されてしまった。
 
先生、連絡網は回らないの?
 
回らないのよ。だって、一番遠い人は6時に家を出るんだもの…間に合わないでしょう?だから、書いてあるとおり、朝の6時にニュースを見て…
 
先生、6時ぴったりのニュース?
 
ええと、6時ぴったりに天気予報はやってないわね…そうね、177番で聞いてみるのがいいかも。
 
177番?
 
電話の天気予報よ…あ。でも、市外局番がいることもある…わねえ…
 
市外局番?市外局番って、なに?
 
もう、お母さんに聞きなさい!と言おうとして、危ういところでコトバを呑み込んだ。
心配そうに尋ねたのはジョーだった。
 
ジョー、ドクターは家にいるんでしょう?
 
うん。
 
そしたらね、ドクターに手帳を見せなさい。きっとわかってもらえるから。
 
う〜ん。
 
だってドクターはとても優秀な科学者なのよ。
 
うう〜〜ん。
 
うんうんうなっているジョーの気持ちも何となくわかるような気がして、私は177番のかけ方をメモ書きして、ジョーに渡した。
 
ドクター・ギルモアが、電話の天気予報の聞き方をわからないとは思えないけど…
 
絶対わかるとも思えないのよね〜
Monday, 30 September,2002
休校
いっそすがすがしいくらい予報が的中して、朝から風雨が強かった。
 
もちろん、警報も出たので、学校はお休み。
…といっても、私たち職員は一応普通に出勤しなければならない。
 
台風はぐんぐん接近してきているらしい。
そろそろ暴風域に入るんじゃないかしら…
 
もっと紛らわしい空模様のときだと、警報が出ているのに登校してしまう生徒もいるのだけど、これだけハッキリしていると、さすがに誰も登校してこないし、電話の問い合わせもほとんど入っていない。
 
朝の打ち合わせで、教頭が今日の勤務について説明した。
 
まずあり得ないけれど、生徒が登校してこないとも限らないので、あと1時間は学校にいてほしい。
その後は、教員も自宅に帰ること。
 
やっぱり、そうなったわね〜
 
クルマで来たし、途中の道に危険そうな場所もない。
こっそり居残って仕事進めちゃおうかな、と思っていたら、エッカーマン先生から内線が入った。
よかったら、お昼を一緒にどうですか?と。
 
それはそれでなんとなく不謹慎な気もして、ちょっとコトバを濁した私を、エッカーマン先生は笑った。
 
そうよね…気にする必要はない…のよね。
ゆっくりお昼をすませたら、台風も通り過ぎてくれると思うし。
 
そろそろ電車が止まりそうだ…という情報が入ると、職員室は少し慌ただしくなった。早く帰ってください、という声が学年主任の先生たちから次々に上がる。
…こっそり仕事するのは無理みたい。
 
昇降口でエッカーマン先生を待った。
風雨はますます烈しくなる。
お昼…とか言ってないで、帰った方がいいかしら?
…なんて思っていたら。
 
中学生が一人、校門をくぐって、近づいてくる。
え…まさか。
 
ジョー…!?
 
私は思わず大声を上げてしまった。
 
おはよう…ございます、アルヌール先生。
 
ど…どうしたの、あなた?
 
学校…お休み?
 
当たり前でしょう…!
 
やっぱりそうか〜
 
やっぱり…やっぱりって……
 
警報出ていたでしょう?
 
うん。
 
警報出たら、お休みだって、言ったでしょう?
 
うん。でも。
 
…でも?
 
ジョーは困ったように言う。
 
もしかしたらやってるかもしれないって思って。
 
…………。
 
何て言えばいいのかわからない。
ジョーはごそごそとぐしょぬれになったカバンを探り、ノートを2冊取り出した。
反省ノートと、生活記録ノート。
 
先生って、台風でも学校来るんだね〜!
 
感心したようにうなずいている。
わからない…ホントにわからないわ…!
 
じゃ、さようなら!
 
…え?
 
お休みなんでしょう?さようなら、アルヌール先生。
 
呆然としている私に、にこにこ笑いかけると、ジョーはさっさと校門に向かって歩き始めた。
烈しい風で、傘が折れそう。
 
ジョーですか…?
 
エッカーマン先生の声に、私は我に返った。
 
ノートを出しにきたんですかね…?
 
ノートをめくってみる。
反省ノートには、きっちり端正な文章が書かれ…生活記録ノートには、一言。
 
「明日は台風です。」
 
…………。
 
電車…さっき、とうとう止まったらしいですよ。
 
え…!
 
ハッと顔を上げると、エッカーマン先生は苦笑していた。
 
気になるんでしょう、フランソワーズ…僕はいいから、クルマで追いかけて家まで送ってあげてください
 
エッカーマン先生…
 
あなたは…どうしても、カールって呼んでくれないんですよねえ…
Tuesday, 1 October,2002
ベンチ
中庭に、ベンチが設置されるのだという。
 
広い中庭なのに、座る場所がない…というのは前からよく話題になっていたこと。
もうすぐ文化祭だし、便利にしてくれるのはありがたいわ。
 
新しいデートスポットになるんじゃないか、なんて高校生たちは盛り上がっていたけど…そんな勇気、あるのかしら。あの子たちに。
 
そして、今日いよいよ取り付けにくる…というのを朝の打ち合わせで聞いていたのだけど、午前中ずっと忙しかったし、そんなことは忘れていて…そうしたら。
 
昼休み、体育館に用事ができてしまった。
何の気なしに中庭へ向かっていたら…
いきなり放送が流れた。
 
連絡します。中庭に、ベンチが設置されました。悪ふざけをして壊したり汚したりしないように、大事に使いましょう。繰り返し連絡します……
 
…ヘンな放送!
 
私は思わずくすくす笑ってしまった。
心配性の教頭先生あたりの仕業かしら?
 
くるっと角を曲がって中庭に出た。
…ら。
 
たしかに、新しいベンチが5つ、並んでいた。
そして。
 
ベンチの上に寝っ転がるようにダンゴになってきゃあきゃあ暴れている…のは!
 
ジョー、ジェット、アポロンっ!!!!
 
思わず叫んでいた。
 
何やってるの、何やってるのアナタたちっっ!!!!!!
 
でも、私の声なんて、きっと全然聞こえてない。
3人ともすっかり興奮しきって、ベンチからベンチへ飛び移ってひっくり返って……
 
やー、めー、なー、さー、いいいぃいっ!!!!!
 
駆け寄って、まずジョーの首根っこを捕まえる。後ろから勢い余ったジェットが体当たりしてきて、ジョーと一緒にアポロンへと倒れ込んで……
 
…………。
 
あー。アルヌール先生だー。
 
私の体の下で、ジョーがくつくつ嬉しそうに笑っている。
慌てて起きあがった。
 
先生、このベンチ、ちゃっちいぜぇ〜!!!
 
ジェットの声に、また爆笑する3人。
もう…もう…もう……!
 
あなたたち、放送聞かなかったのっ?
 
…ほうそう?
 
そうよ!ベンチが設置されたけど、悪ふざけをしてはいけません…って、たった今!
 
ええ〜っ?
 
馬鹿な放送だと思ったけど、あ・な・た・た・ちみたいな子がいるから必要だったのね!!!
 
せ…先生…?
 
アポロンがおそるおそる…という感じで私をのぞいた。
 
放送って…もしかして、姉上が…?
 
…あ。
そうだったかも。
 
考え込む私に、アポロンは奇妙なうめき声を上げて頭を抱え、しゃがみこんだ。
 
とにかく…!
 
私は深呼吸してから、3人を厳しくにらんだ。
 
あなたたちが「悪ふざけ」第一号ってことね!
 
第一号?!
 
やったー!!!
 
ジョーとジェットが飛び上がって頓狂な声を上げ、勢いよくハイタッチした。
 
…あの。
 
そのとき。
後ろから、私の肩に凍るような声が降った。
 
何騒がせてるんだ、アルヌール先生。
 
ハ、ハインリヒ先生…?
 
お前ら、悪ふざけをするな。公共の場だぞ。
 
…すみません。
 
3人はぱっと頭を下げ、神妙にうつむいて……
 
…何よ。
何なの、この反応の違いって???
Thursday, 3 October,2002
最終下校
放課後になると、あちこちから金槌の音が聞こえるようになってきた。
いよいよ、文化祭が近い…って感じね。
 
中1の生徒たちは、高校生たちが作っている大きなモニュメントの骨組みを、目を丸くして遠くから見ている。
 
自分たちもやってみたい…って思うのかしら。それとも、こんな大変そうなのイヤだ…って思うのかしら。
 
映画の撮影はほぼ終わって、今は編集作業に入っている。
編集スタッフはほとんどが女子。
ちょっと意外だったけど、高価な機械を使ってすることだし…うん、男子じゃちょっとコワイわね。
 
編集作業をするのはうちのクラスだけではないので、交代制になっている。
使用中は顧問がついていなければならない。
 
教室では、「装飾」の準備が進んでいる。
「映画館」をどう飾り付けるか、一生懸命考えているみたい。
 
でもさあ、映画やるときって、どうせ暗いじゃねえかよぉ…
 
めんどくさそうにつぶやいたジェットはたちまちシンシアに叱られていた。
そうそう、暗いから装飾しなくていい、という考えにはならないのよ、ジェット。
 
ジョーは部屋をどうやって完璧に暗くするか、という作戦チームを指揮している。
もちろん、窓を塞げばいいんだけど、防災・衛生・管理上、いろいろ「やってはいけないこと」がある。
 
禁止事項の長いリストを渡したら、いつものんびりしているジョーも、さすがにうんざりした顔になっていた。
 
日が短くなってきた…と感じるのもこの時期。
そろそろ中学生の最終下校時刻だわ。
外はもう暗くなっている。
 
外で作業している高校生は、あと1時間の活動延長が認められている。あちこちでライトをつけ始めた。
発電機のうなり…これも文化祭っぽいなあ…
 
そろそろ、追い出しに行くか。
 
ハインリヒ先生がつぶやいて、腰を上げた。
最終下校時刻15分前。
 
教室に入ると、まだいろいろなものが散乱していて、生徒もうろうろ忙しそうに歩き回っている。
 
あと15分よ!撤収しなさい!
 
えぇ〜っ?もう????
 
ジョーとジェットが叫びながら時計を見上げる。
 
そうよ、急いで!
 
ばたばたばたばたばたばたばた。
 
…って音がしそうな勢いで生徒たちが駆け回り始める。
作業をキリのいいところまで終わらせて、道具を片づけて、身なりを整えて、荷物を整理して…
 
…あと8分!
 
大声で言いながら、私はホウキを取った。
床掃除まで、この子たちは気が回らないみたい。
 
体操服のままのジョーが、慌てて自分もホウキをとり、床を掃き始めた。
 
ジョー、いいから、着替えなさい!
 
間に合うよ。
 
あと5分なのよ!
 
大丈夫、間に合うから!
 
そんなはずないでしょう!と怒鳴るのを我慢する。
 
5分と言ったら5分よ、ジョー。教室を出るんじゃなくて、校門を出るんですからね!
 
もう返事もしない。
強情なんだから!
 
駆け回る生徒たちの間で、ジョーは手早くホウキを使い続け、ゴミを掃き集めて、ちりとりに移して…
 
…あと3分!
 
準備を終えて、なんとなくジョーを待っているような感じになっている生徒たちに、私は怒鳴った。
 
早く、行きなさい!
 
隣の教室でハインリヒ先生も怒鳴っている。
生徒たちはばらばら駆け出していった。
 
…あと2分!
 
ジョーは掃除用具置き場にホウキとちりとりを投げ込みながら、無造作に体操服を脱いだ。
 
あっけにとられて見ている私の前を、ズボンを脱ぎながら横切り、丸めた体操服をロッカーに投げ込んで、パンツだけの姿でカバンを出して、荷物を詰めながらシャツを着て……
 
…………。
 
所要時間30秒。
 
さよなら、アルヌール先生!
 
飛び出したジョーを、ハインリヒ先生の怒号が追い立てる。
 
…ったく!廊下を走るな、とアイツに教えるのは至難のワザだ!
 
もう残っているヤツはいないな、とウチの教室をのぞきこみながら、ハインリヒ先生がぼやいた。
 
ええと。
 
それ以前に教えなくちゃいけないことが、なんだかいっぱいあったみたい。
Friday, 4 October,2002
計画表
生徒たちは文化祭のコトしかアタマにないけれど、それが終わればあっという間に中間テストになってしまう。
…ってことは。
 
勉強させなくちゃいけないのよ〜!
 
なんて言葉で言い聞かせても無理なので、ハインリヒ先生が学習計画記録表を作ってくれた。
はじめに、テストまでに各教科合計何時間勉強するつもりかを書き込むところがあって。
 
ゴールは中間テスト初日。そこまで何時間勉強したか、どの教科をやったかが、毎日分単位で書き込めるようになっている。
累計時間を書き込む場所もある。
なんだか、すごいわ……!
 
あまりにハインリヒ先生らしい計画表に、私たちは怖いくらい感心していた。
 
時間がすべてではないが、時間をかけなければそもそもどうにもならないからな。
 
そうつぶやきながら、ハインリヒ先生は、きちっと書き込まれた予定表をクラスで毎日回収・点検している。
 
ウチの生徒たちもそこそこがんばっているみたい。
はじめ、ジョーはどうしようかしら…とちょっと迷った。
彼にはまだ反省ノートを課したまま。
生活記録ノートもあるし……
 
でも、特別扱いも変かもしれない、と思ったので、とりあえず表の提出はさせている。
音を上げてきたら、考えよう、と思った。
…のだけど。
そうよね、そんな気遣いする必要なかったんだわ、あの子には。
 
そんなわけで。今日も、ジョーはきっちり提出してきた。
お天気のことだけ書いてある生活記録ノートと、きっちり書き込んである反省ノートと……
 
今日の学習記録
国語:0分
数学:0分
英語:0分
社会:0分
理科:0分
 
毎日同じように書いてある。
毎日0分!!!!!!
 
さすがに今日は文句を言わなくちゃ!と思ったら、表の一番下に、何か書き込んであるのに気づいた。
小さい字で。
 
そうでなくても、この子の字は汚い。
一生懸命見る。
…と。
 
体育:7分
 
…………。
 
なにもかも、わけわからないわっ!!!
Saturday, 5 October,2002
領収書
文化祭前の最後の土曜日……なので、授業が終わっても、誰も帰ろうとしない。
お弁当を持ってこなかった生徒が買い出しとお昼ご飯調達をかねて外出許可を受けに次々やってくる。
 
ホントはお昼ご飯の調達なんて気軽にさせたくないんだけど……こういうときは仕方ないのかもしれないわ。
生徒達も、ちょっとしたお祭り気分を味わいたいのかもしれないし……
 
買い出しに出る生徒には、ちゃんと領収書をもらってくるように、と言い含める。
特に中1はわかってないから。
 
近所のお店は、文化祭の買い出し生徒に慣れているので、ちゃんとした領収書を切ってくれる。
でも、ちょっと愛想の悪い店員さんに当たったりすると、中学生はびびってしまうみたい。
今日も、ジョーとヘレンが「品代」とだけ書かれた領収書をすごすご持ってきた。
 
ダメじゃない……!
 
と一応叱ってみたけれど…
でも、その具体的な品目が
 
ネジ・セロテープ・ビニールテープ・半紙・ホチキス針・のり・カッターナイフ・画鋲
 
……だったりしたので。
店員さんの気持ちもわかるような気がした。
 
ちょっとインチキだけど、領収書を貼ったノートに、二人が言う品目をメモしていく。
これで会計にはカンベンしてもらうことにしようっと。
でも、それより、問題は……
 
一応、領収書の宛名は団体名、ということになっている。
「1年3組」じゃダメ。
これも、実をいうと、会計に相談すればカンベンしてもらえるのだけど……今年ははじめから全部そうしてもらっちゃおうかしら。
だって……ウチの団体名ったら。
 
アルヌール☆愛の待合室
 
もちろん、映画とは何の関係もない団体名。
担任の名前をむやみに入れたがるのはウチの生徒達の癖なのだけど……いくらなんでも、コレはちょっとひどくないかしら?
 
阻止できなかったのは、担任としての力量不足……といってしまえばソレまで。
でも、実行委員会も、ブリテン先生も、ううん、誰でもいいから「ふざけるな!」って止めてほしかったわ〜!
 
気にしないように気にしないように…と思って、今まできたのだけど。
こうやって領収書を並べて整理していると、どーしても気が滅入ってくるのよね……。
Monday, 7 October,2002
朝の読書
始業前には、いつも簡単なドリルや漢字練習をする朝自習というのがあって。
今、その時間に自由読書をさせている。
ブリテン先生の提案だった。
 
自由読書なので、ホントにいろんな本を生徒達はもってくる。
荷物になるはずなのに、ハードカバーの立派なのを抱えてくる子もいて、面白い。
 
教室で読むからか、背伸びした感じのを持ってくる子もいる。
アポロンが読んでいるのは、ギリシア哲学の入門書。
ジェットは「すくすく赤ちゃん」を読んでいる。自由読書とはいっても、実用書はぎりぎりのところかなあ……
 
ジョーは、何を読んでいるのか全然わからない。
もしかして……外国語で書かれてる、とか?
分厚い感じだわ。
ドクター・ギルモアの本かも。
 
そんな気はするのだけど…結局わからない。
だって。
 
やっぱり起こして上げた方がいいかしら?
そのうち、本によだれ垂らしちゃうかもしれないわ。
Wednesday, 9 October,2002
スケジュール
考えてみたらあの子たちって、文化祭、本当に初めてだったんだわ!
…ということに、いきなり気付いた。
 
ということは!
 
文化祭体制に入るのは、もう明日の放課後から…なのに。
時間になったら、すぐに教室を明け渡して、活動場所として決められたトコロに移動して……
 
そうだったわ!
 
その移動のときの注意とか。
明日の下校時刻とか。
明後日の登校時間や集合場所やお昼を食べる場所や外出許可や掃除や……
そういうことを、何も生徒達に話していなかった…かも。
 
そうよ!
登校時間だって、毎日微妙に違うのよ…服装のきまりも微妙に……
やだ!どうしよう〜!
 
伝えなければいけないことがあまりに多いことに気付いて、いそいでプリントを作ることにした。
これだけのコトを口頭で言っても、たぶん聞いてもらえない。
 
明日の放課後からのスケジュール表をベースに、注意事項も入れて…それから……
 
空き時間を全部使い果たして、やっと原稿ができた。
プリントアウトして、推敲していると、後ろで誰かが立ち止まった。
 
…ハインリヒ先生?
 
振り返ると、ハインリヒ先生は、なんだか複雑な顔で私を見下ろしていた。
 
アルヌール先生。
 
は、はい……?
 
そのプリントだがな。
言いにくいんだが……ちょっと、字が多すぎないか?
 
…え。
 
読まないぞ、アイツら。
 
…………。
 
そ、そうかも。
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Last updated: 2007/10/21