放課後になると、あちこちから金槌の音が聞こえるようになってきた。
いよいよ、文化祭が近い…って感じね。
中1の生徒たちは、高校生たちが作っている大きなモニュメントの骨組みを、目を丸くして遠くから見ている。
自分たちもやってみたい…って思うのかしら。それとも、こんな大変そうなのイヤだ…って思うのかしら。
映画の撮影はほぼ終わって、今は編集作業に入っている。
編集スタッフはほとんどが女子。
ちょっと意外だったけど、高価な機械を使ってすることだし…うん、男子じゃちょっとコワイわね。
編集作業をするのはうちのクラスだけではないので、交代制になっている。
使用中は顧問がついていなければならない。
教室では、「装飾」の準備が進んでいる。
「映画館」をどう飾り付けるか、一生懸命考えているみたい。
でもさあ、映画やるときって、どうせ暗いじゃねえかよぉ…
めんどくさそうにつぶやいたジェットはたちまちシンシアに叱られていた。
そうそう、暗いから装飾しなくていい、という考えにはならないのよ、ジェット。
ジョーは部屋をどうやって完璧に暗くするか、という作戦チームを指揮している。
もちろん、窓を塞げばいいんだけど、防災・衛生・管理上、いろいろ「やってはいけないこと」がある。
禁止事項の長いリストを渡したら、いつものんびりしているジョーも、さすがにうんざりした顔になっていた。
日が短くなってきた…と感じるのもこの時期。
そろそろ中学生の最終下校時刻だわ。
外はもう暗くなっている。
外で作業している高校生は、あと1時間の活動延長が認められている。あちこちでライトをつけ始めた。
発電機のうなり…これも文化祭っぽいなあ…
そろそろ、追い出しに行くか。
ハインリヒ先生がつぶやいて、腰を上げた。
最終下校時刻15分前。
教室に入ると、まだいろいろなものが散乱していて、生徒もうろうろ忙しそうに歩き回っている。
あと15分よ!撤収しなさい!
えぇ〜っ?もう????
ジョーとジェットが叫びながら時計を見上げる。
そうよ、急いで!
ばたばたばたばたばたばたばた。
…って音がしそうな勢いで生徒たちが駆け回り始める。
作業をキリのいいところまで終わらせて、道具を片づけて、身なりを整えて、荷物を整理して…
…あと8分!
大声で言いながら、私はホウキを取った。
床掃除まで、この子たちは気が回らないみたい。
体操服のままのジョーが、慌てて自分もホウキをとり、床を掃き始めた。
ジョー、いいから、着替えなさい!
間に合うよ。
あと5分なのよ!
大丈夫、間に合うから!
そんなはずないでしょう!と怒鳴るのを我慢する。
5分と言ったら5分よ、ジョー。教室を出るんじゃなくて、校門を出るんですからね!
もう返事もしない。
強情なんだから!
駆け回る生徒たちの間で、ジョーは手早くホウキを使い続け、ゴミを掃き集めて、ちりとりに移して…
…あと3分!
準備を終えて、なんとなくジョーを待っているような感じになっている生徒たちに、私は怒鳴った。
早く、行きなさい!
隣の教室でハインリヒ先生も怒鳴っている。
生徒たちはばらばら駆け出していった。
…あと2分!
ジョーは掃除用具置き場にホウキとちりとりを投げ込みながら、無造作に体操服を脱いだ。
あっけにとられて見ている私の前を、ズボンを脱ぎながら横切り、丸めた体操服をロッカーに投げ込んで、パンツだけの姿でカバンを出して、荷物を詰めながらシャツを着て……
…………。
所要時間30秒。
さよなら、アルヌール先生!
飛び出したジョーを、ハインリヒ先生の怒号が追い立てる。
…ったく!廊下を走るな、とアイツに教えるのは至難のワザだ!
もう残っているヤツはいないな、とウチの教室をのぞきこみながら、ハインリヒ先生がぼやいた。
ええと。
それ以前に教えなくちゃいけないことが、なんだかいっぱいあったみたい。
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