これは、僕がしたことではない。
でも……。
燃える東京の街を彼女は見下ろしていた。
その眼に何が映ったか。
僕は、聞かなかった。その必要はない。
フランソワーズ。
もし、僕が君の知る僕でなくなったら。
それでも君はこうして僕を抱いてくれただろうか。
僕は、聞かなかった。
その必要は、ないからだ。
サムエル・キャピタル社。
それが、新しい僕たちの敵だと、ギルモア博士は言った。
そして、そこにつながるNSAと……ジェット。
そんなことがあるだろうか。
ジェットが、世界に戦争を広げ悲劇を生み出す組織の手先として働く、などということが。
たしかに、僕たちは無数の殺戮を重ねてきた。
それが正しいことだったとは思わない。
だが、少なくとも……誰かを……自分自身も含めて……利するために戦ったことはなかった。
僕たちは、ただ正義をなすために戦った。
それが、過ちであったとしても。
もちろん、僕自身も。
僕はサムエル・キャピタル社のためにも、アメリカのためにも、日本のためにも、戦わない。
僕はただ、正義をなすために……だから。
だから、爆破しようとした。あのビルを。
自分がサイボーグだと知らなかった僕は、僕の命とひきかえにそれをしようとした。
それは、サムエル・キャピタル社のためにではない。
そしておそらく、それをしたというアメリカ軍の兵士も僕と同じだった。
「新たなる悪の基軸」
そう言う彼女の声に迷いはない。
そうだ、彼女の言うとおり、サムエル・キャピタル社は僕らの敵だ。
それなら……僕は。
僕に呼びかけたあの声は、誰の声だったのか。
あれは貴方の声ではなかったのですか、と、一縷の願いを込めてギルモア博士に尋ねてみた。
もちろん、そんなことはなかった。
博士は僕に銃を向け、それを誰も止めはしなかった。
当然だ。
でも、僕は僕だ。
誰かに操られたわけでもない。
……それとも、まさか。
「フランソワーズ、なぜ監視を怠った?!」
「……でも、私生活のすべてを監視することは……」
そうだ。
君は知っているはずだ。君は、全てを見ていた。
私生活なんかじゃない、僕の全てを見ていたはずだ。
僕は懸命に彼女の瞳を覗いた。
その奥にあるもの……彼女が見たものを知りたかった。
そして。
――ごめんなさい。
僕が彼女の瞳から読み取れたのは、それだけ。
限りなく透明で、限りなく悲しい光。
ごめんなさい、ジョー。
あなたを見ていたはずなのに、私にはわからない。あなたは潔白だと説明できない。
それなら、なんのために、私はあなたを見ていたの?
でも、君は……僕を信じている。
だからそんなに悲しい眼をしてくれる。
心配はいらないよ、フランソワーズ。
僕は、僕だ。
誰にも操られたりしていない。君の敵ではない。
だって、もしそうなら、君は……
君は僕を撃つだろう。何の躊躇もなく。
そして、僕を抱いてはくれないだろう。
それが君だ。
それが、僕のフランソワーズ……003だ。
悲しませてごめん、フランソワーズ。
僕の証を立てるのは君ではない、僕自身だ。
君が信じるものを、僕は現実にしていかなければならない。
君は、いつも僕を信じてくれる。
こんなどうしようもない状況であっても。
こんなに苦しみながら、君は僕を信じてくれる。
大丈夫だよ、フランソワーズ。
僕は潔白だ。もちろん、ジェットも。
君が信じるものを現実にするのが僕たちの役目なんだ。
だから、ここで待っていて。
ここで、全てを見ていてくれ。
いつものように……僕の、全てを。
僕は、君が信じる島村ジョー……009だ。
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