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009的小話

監視(RE)
 
これは、僕がしたことではない。
でも……。
 
 
燃える東京の街を彼女は見下ろしていた。
その眼に何が映ったか。
僕は、聞かなかった。その必要はない。
 
フランソワーズ。
もし、僕が君の知る僕でなくなったら。
それでも君はこうして僕を抱いてくれただろうか。
僕は、聞かなかった。
 
その必要は、ないからだ。
 
 
サムエル・キャピタル社。
それが、新しい僕たちの敵だと、ギルモア博士は言った。
そして、そこにつながるNSAと……ジェット。
 
そんなことがあるだろうか。
ジェットが、世界に戦争を広げ悲劇を生み出す組織の手先として働く、などということが。
たしかに、僕たちは無数の殺戮を重ねてきた。
それが正しいことだったとは思わない。
だが、少なくとも……誰かを……自分自身も含めて……利するために戦ったことはなかった。
僕たちは、ただ正義をなすために戦った。
それが、過ちであったとしても。
 
もちろん、僕自身も。
僕はサムエル・キャピタル社のためにも、アメリカのためにも、日本のためにも、戦わない。
僕はただ、正義をなすために……だから。
 
だから、爆破しようとした。あのビルを。
自分がサイボーグだと知らなかった僕は、僕の命とひきかえにそれをしようとした。
それは、サムエル・キャピタル社のためにではない。
そしておそらく、それをしたというアメリカ軍の兵士も僕と同じだった。
 
「新たなる悪の基軸」
 
そう言う彼女の声に迷いはない。
そうだ、彼女の言うとおり、サムエル・キャピタル社は僕らの敵だ。
それなら……僕は。
僕に呼びかけたあの声は、誰の声だったのか。
 
 
あれは貴方の声ではなかったのですか、と、一縷の願いを込めてギルモア博士に尋ねてみた。
もちろん、そんなことはなかった。
博士は僕に銃を向け、それを誰も止めはしなかった。
当然だ。
 
でも、僕は僕だ。
誰かに操られたわけでもない。
 
……それとも、まさか。
 
「フランソワーズ、なぜ監視を怠った?!」
「……でも、私生活のすべてを監視することは……」
 
そうだ。
君は知っているはずだ。君は、全てを見ていた。
私生活なんかじゃない、僕の全てを見ていたはずだ。
 
僕は懸命に彼女の瞳を覗いた。
その奥にあるもの……彼女が見たものを知りたかった。
そして。
 
――ごめんなさい。
 
僕が彼女の瞳から読み取れたのは、それだけ。
限りなく透明で、限りなく悲しい光。
 
 
ごめんなさい、ジョー。
あなたを見ていたはずなのに、私にはわからない。あなたは潔白だと説明できない。
それなら、なんのために、私はあなたを見ていたの?
 
 
でも、君は……僕を信じている。
だからそんなに悲しい眼をしてくれる。
 
 
心配はいらないよ、フランソワーズ。
僕は、僕だ。
誰にも操られたりしていない。君の敵ではない。
だって、もしそうなら、君は……
 
君は僕を撃つだろう。何の躊躇もなく。
そして、僕を抱いてはくれないだろう。
それが君だ。
それが、僕のフランソワーズ……003だ。
 
 
悲しませてごめん、フランソワーズ。
僕の証を立てるのは君ではない、僕自身だ。
君が信じるものを、僕は現実にしていかなければならない。
 
君は、いつも僕を信じてくれる。
こんなどうしようもない状況であっても。
こんなに苦しみながら、君は僕を信じてくれる。
 
 
大丈夫だよ、フランソワーズ。
僕は潔白だ。もちろん、ジェットも。
君が信じるものを現実にするのが僕たちの役目なんだ。
 
 
だから、ここで待っていて。
ここで、全てを見ていてくれ。
いつものように……僕の、全てを。
 
僕は、君が信じる島村ジョー……009だ。
 
更新日時:
2013.03.16 Sat.
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Last updated: 2015/12/1