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009的小話

あの装置・オマケつき ※完結篇かも(汗)
 
 
「――素粒子?」
 
目を丸くする002と008に、009はうなずいた。
 
「うん。僕の意志が素粒子をこの体に構成し直したって、001が言うんだけど、自覚はないんだ……何が起こったのか、よくわからない。気付いたらこうなっていたとしか」
「だがよ、もしソレが本当なら、お前は不死身の体になったってことだろう?」
「ちゃんと、意志でコントロールできるならね……そこが問題だよ」
 
009はふとうつむいた。
そんな彼に、5人分の珈琲を運んできた003が明るい声で言う。
 
「大丈夫よ、ジョーなら出来るわ。1度出来たんですもの……でも、こうしてまた会えてよかった。そんな大変なことになっていたなんて……」
「君だってそうじゃないか、フランソワーズ。すまなかった、僕がちゃんと君の傍にいれば、誰にもそんなことは絶対にさせなかったんだ。君に、あんなひどい傷を負わせるなんて……!僕が、もっとしっかりしていれば……自分の本当の気持ちから逃げずに、君と向き合っていれば」
「……ジョー」
 
――なんか、コイツ、パワーアップしてないか、ピュンマ?
――うん、してる。
――さすが、素粒子から組み立てなおしただけのことはある……ってことか。
――いや、ソレたぶん関係ないよ、ジェット。
 
じーっと見つめ合う009と003の視線が互いに熱を帯び始めた……ように見え、008は思わず咳払いをした。
無粋な真似をするのは本意ではないが、ココは昼下がりのリビングルームなのだ。
しょーがないなーと脱力しつつ、008はとりあえず、できるだけ陽気でくだらない話題はないものかと、素早く頭をめぐらせ……口を開いた。
 
「そうかぁ……と、いうことはさ、ジョー。君にはアノ、空中元素固定装置がついたってことになるんだね!」
「……くう…ちゅう…何、だって?」
「ん?……なんだジョー、お前、日本人のくせにアレを知らないのか?」
「ってか、ジェット。そう言うからには、君はアメリカ人のくせにアレを知ってるんだ?」
「お前が知ってるってのが一番不思議だがな、ピュンマ」
「私も初めて聞いたわ、ピュンマ。それ、どういう装置なの?」
 
健全な心身を持つ日本男子なら、知らないはずはないと思い、自信満々でふった話題だったが、さすが009というべきか。
すっかりあてが外れた上に、003に真剣な眼差しで問われてしまい、008は大いにうろたえた。が、002の方はあくまで落ち着き払っていた。
 
「それはだな。日本の如月っていう科学者が開発した、空中にある元素を選り分けて自分の思い通りに結合させ、あらゆる物質を作り出す装置……さ。如月博士は、ソレを自作のアンドロイドに取り付けて……」
「如月博士、……じゃと?」
「げ!」
 
突然の大声に、002はぎくり、と振り返った。
ギルモアがつかつかと足早に歩み寄ってくる。
 
「002、今の話を詳しく聞かせてもらえんか?」
「――へっ?!」
「ソレこそ、まさに、ジョーの身に起きたことじゃ!……信じられん、そんな装置を開発した科学者が、この日本にいたとは……」
「あー。その、ギルモア博士……申し上げにくいのですが、如月博士は既に亡くなられています。その研究成果も確認することはできません……ただ、ウワサが残っているだけなんですよ」
「なんと……!本当かね、ピュンマ!……ま、まさか、それは…!」
 
ギルモアの鋭い視線を受け、009も悔しそうにうなずいた。
 
「ええ、たぶん彼らの仕業でしょう、博士。間違いありません」
「う、ううむ…!なんと、無念じゃのう!」
「やはり、僕が自分で見つけなければならない……いや、見つけたいんです、博士。僕は知りたい。自分に何が起きたのかを……そして」
「そして……翡翠さんを助け出したいのね、ジョー」
「……フランソワーズ」
 
――スゴイなー。さすがフランソワーズ、そう来るか。
――すっげー力業。無理矢理話題をそっちにもっていきやがった。
――なんかもう、しょうがないのかもな、コレ。
――おい、諦めるのか?俺はゴメンだぜ、チクショウ、せっかくのリラックスタイムをコイツらにひっかき回されるなんてよ……だったら、いっそ!
――は?
 
おい待てジェット、と、声に出しそうになり、慌てて口を押さえた008に見向きもせず、002は真顔で009を見つめた。
 
「おい、ジョー。お前、ホンキでその力をコントロールしたいと思うんだな?」
「当然だ!……たしかに加速なら、この新しい力をある程度操ることができている……と思う。でも、それだけじゃ足りない。彼らには勝てない。僕は……!」
「だったら……如月博士が作ったアンドロイドが、空中元素固定装置をどーやってコントロールしたか、理論はともかくとして、そのやり方……知りたいよな?」
「え!……知っているのか、ジェット?」
「ああ。まー、ちょっと微妙なやり方だがなあ……だろ、ピュンマ?」
「……微妙というか。無理だろう、ちょっと」
「君も知っているのか、ピュンマ……頼む、教えてくれ!どんなことでも試してみたいんだ」
 
詰めよる009に息をつき、008は002を振り返った。
002は重々しくうなずき、言った。
 
「まず、思い切り真上にジャンプする。で、宙返りするんだ」
「何回?」
「…1回でいいだろう。で、そのとき、思い切り叫ぶ」
「叫ぶ……?なんて?」
「……えーと」
 
――しまむらー、フラッシュ!とかか?
――いや、ファミリーネームだとおかしいだろう。
――だが、ジョー、フラッシュ!じゃ、なんか間が抜けてるぜ?
――ゼロゼロナイーン、フラッシュ!もちょっとなー。って、著作権大丈夫だろうな。
――そういう問題かよ?!
 
「待って!」
 
不意に割り込んだ悲痛な声に、男たちはぎょっとした。
003が感極まったように009に駆け寄り、取りすがる。
 
「やめて……お願い、無理はしないで!そんな、あてずっぽうなやり方で、もし……もし、あなたの体がまた消えてしまったら……そんなことになったら、私……!」
 
生きていられない、と声を震わせる003を009はそっと抱きしめた。
 
「ありがとう、フランソワーズ……でも、僕は死んだりしない。もしそんなことがあっても、きっと戻ってくるよ。君が……待っていてくれるなら、必ず」
「……ジョー」
「そ、そうじゃ!……そうかもしれんぞ、ジョー!フランソワーズ!」
「……ギルモア博士?」
 
いきなり大声を上げ、ギルモアは興奮した様子で腕をむやみに振り回した。
 
「愛じゃ!……愛こそが、その、空中元素固定装置の正体だったのではありまいか?!」
「……愛?」
「うむ!……001の夢も、それを暗示しておったのかもしれん……そうじゃ、こうしてはいられないわい!」
 
あたふたと出て行ったギルモアの背中をぼーっと見送った003は、自分がまだ009の腕の中にいることに気づき、思わず頬を染めた……が、離れようとする彼女を、009はいっそう強く引き寄せた。
 
「ジョー……やだ、離して」
「離さない。いや、もう離すわけにはいかないよ。どうやら、君が空中元素固定装置ってヤツらしいしね……僕の命をつなぐのは、君なんだ」
「……そんな、こと…!」
 
――意外だが、当たってないか、ピュンマ?
――うーむ。たしかに。「愛の戦士」だもんな。深いなぁ。
――ハニーちゃーん、だしなー。甘くてシビれそうだぜ。
 
「まあ、その……うん、おかしなことを言ってすまなかったね、フランソワーズ……君、少し休んだ方がいい。顔色がよくないよ……なぁ、ジョー?」
「そうだね。……おいで、フランソワーズ」
「……」
 
003を抱きかかえるようにして部屋を出て行った009の後ろ姿をじーっと見送り、002と008は思わず顔を見合わせ、息をついた。
やがて。
002がぽん、と手をたたいた。
 
「あー、そうか、アレも命をつなぐって事になるよな、そういえば!」
「君、ちょっと黙っててくれないかな、ジェット?」
 
 
 
 
……………………………………………………………………
 
〈オマケ〉
 
 
「ショーさん!……アンタ、如月博士を知っておるのかっ?!」
 
突然あらわれたギルモアは、仰天する私にお構いなく……彼は基本的にそういうトコロがあるのだが……叫んだ。
 
「へっ?……き、きさらぎ……?」
「如月博士……科学者じゃ。彼について、アンタの知ってることを教えてほしいんじゃよ、頼む!」
「如月……博士、ですか?ちょ、ちょっと待ってくださいね……えーと、如月……きさらぎ、か……」
 
わけがわからなかったが、完結篇を書くことの他に、彼らの力になれることがあるというのなら、どんなことでもしておきたい。
私は、懸命に記憶をたどり……取材やその他の機会に出会うことができた科学者を思い出していった。
しかし。
 
「すみません、ギルモアさん……どうも、思い出せないんですが……そうだ、その人、どんな研究をしていた科学者なんでしょうか?」
「お、おお、そうじゃの、もちろん、名前よりも研究内容の方が印象に残るはずじゃ……いや、ワシも詳しくは知らないのじゃが……ショーさん、空中元素固定装置、という言葉に聞き覚えはあるかのう?」
「くう……ちゅう……?……って、え、ええっ?!まさか、アノ、空中元素固定装置のことですか?」
「知っておるのかっ!!」
「い、いや……その、知っているといえば、よーく知っていますが、まさか……」
「イワンが言ったとおりじゃ、ショーさんなら詳しいことを知っているというんで、飛んできたんじゃが……助かった!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ……だって、空中元素固定装置と言ったら、誰だって思い浮かべるのはまず第一にアレでしょう、その」
 
言いかけて、私はハッと口を噤んだ。
ギルモアは、全くの異世界から来ているわけではない。
この、現実の世界の延長線上……未来の人物なのだ。
ということは。
 
もちろん、ギルモアがそれを知っている可能性は低いかもしれないが、001にソレが何であるか、わからないはずはないだろう。
サイボーグたちだって……たしか009はマンガ好きだったような気がするし、002あたりはN氏の作品を愛読していそうな感じがするし。
もしかすると好奇心の強い008もN氏のSFやファンタジーには大いに興味を持っているのではないか。
その上で、001がギルモアをわざわざここに送ったということは………つまり、それは。
 
「わかりました。ギルモアさん……だが、私が知っていることなら、たぶん001にもわかっているはずだ。私は、もっと詳しいことをあなたに話すことができる男を知っているだけなんです。その男に会えるよう、紹介状を書きましょう」
「あ、ありがとう……ありがとう、ショーさん!」
 
ペンを取り、私はふと考え込んだ。
しかし……。
驚くかな。いや、驚くに違いない。
彼は、「サイボーグ009」のアシスタントもかなりやってくれていたのだから。
 
「ええと、ギルモアさん。たぶん、彼もアナタを知っているので……行けば相当驚くと思うんですよね。だから、そうだな……あなたがコスプレの名人だ、ということにしておきますよ。適当に話を合わせておいてください」
「コス……プレ?」
 
戸惑うギルモアに私は書き上げたN氏宛ての紹介状を渡した。
彼のいる場所にギルモアを案内してあげることは今の私にはできないし、多忙な彼をここに呼びつけることも難しい。
申し訳ないが、一旦未来に戻ってもらい、001に今度はN氏のところへ直接ギルモアを送るように頼むしかないだろう。
私は、N氏の連絡先もあれこれと書きとめて渡した。
 
「ありがとう……本当にありがとう、ショーさん!」
 
満面に喜色を浮かべ、ギルモアは私の手を両手で握りしめた。
大丈夫かな……となんとなく不安ではあったものの、彼の明るい顔を久しぶりに見た気がして、私も嬉しかった。
 
 
それから数日たった……が。
ギルモアはまだ訪れていない。
N氏からも連絡がない。
 
もしかすると、001がギルモアを飛ばすことができるのは、私のもとだけなのかもしれない……と、ふと思った。
あるいは、こちらの物質……この場合は紹介状……を、あちらの世界に持ち込むことは不可能なのかもしれなかった。
が、もしそうなら、それが001に予想できなかったはずもないのだが。
 
 
私だったら。
ギルモアはサイボーグたちに……001にまで……おちょくられたのだ、というオチをつけるところだ。
が、まさかそんなことはあるまい。
彼らは人類の存亡を賭け、血みどろの……明日をも知れない烈しい闘いの最中にいるのだから。
 
いや、そういう時だからこそ、というのも、つい私が考えがちな事なのだが。
もちろん、マンガと現実とは違う。
 
違うだろうと……思う。
 
更新日時:
2012.11.29 Thu.
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Last updated: 2015/12/1