結局、謝らなかった。
自分も、彼女も。
そういうところがストレスになるのだと、彼なら言うかもしれない。
実際、そうなのかもしれない。
でも、謝らなければならないことは自分にない。
彼女にもないというなら、彼女が謝らないのも当然だ。
「……怒っているの?」
不意に、彼女がつぶやくように言った。
ジョーは黙って首を振り、抱きしめる腕にそっと力を込めた。
「……君こそ」
「怒ってなんかいないわ……何もかも、したいようにしたんですもの。今も……よ」
「……そう、か」
僕も、そうだ。
もちろん……彼も、そうだったのだろう。
「プレゼント、何にしたんだい?」
「……ナイショ」
ごく小さい包みだった。
女性への贈り物なら、アクセサリーということもあるだろうけれど――
「もしかして、指輪?」
「いいえ。ジェットがつけているのを見たことがないわ」
「そう、かな。そうだったかも」
首をかしげるジョーに、フランソワーズはくすくす笑った。
「いやね、ジョーったら……それで、指輪にしてくれたの?」
「それで……って?」
「それしか、思いつかなかったから。プレゼント」
嬉しかったのに……とつぶやく彼女の手をジョーは思わず探り当て、薬指に金属の感触を確かめた。
「つけていて、くれたんだ」
「あなたの、思い出に。もう帰れないかもしれないと……思ったから。」
「……フランソワーズ」
――いいか、ジョー。オンナってのは、怖いもんだぞ。あのお嬢さんだって例外じゃない。
昨日のグレートの言葉が耳に蘇る。
ぐっと力を入れようとした瞬間、彼女はするりと手をほどき、素早く背中に引っ込めた。
「イヤ。返さないわよ」
「なんだよ。それって……僕は失敗したってこと?」
「どうかしら。……でも」
フランソワーズは微笑しながらそっとジョーの頬を片手で押さえた。
「これは、失敗した人の顔じゃなくってよ、ジョー」
「ジェットに、何をあげたんだよ?」
「だから、ナイショ。……どうして知りたいの?」
「君こそ。どうして教えない」
「それは……たぶん、あなたと同じ理由よ」
「だったら、覚悟はしているんだね」
――答えるまで、許さないからな。
素早く囁き、ジョーは再びフランソワーズを組み敷いた。
「言えよ……ジェットに何を贈った?」
「……もう、ずるいわ、ジョー。……やめて、お願い」
「すぐやめてあげるよ。君が、答えればね。……やっぱり、指輪?」
「そんなこと、どうでもいいと思っているくせに……!」
もちろん、どうでもいい。
僕が欲しいのは、君だけだ。
僕は何もかも、したいようにしている。君と同じように。
だったらハッキリそう言ってやれと、彼なら言うかもしれない。
実際、そうかもしれない。
|