そうか、今日は7月7日だ……と、涼しげな和菓子の並ぶディスプレイを見て、ジョーは気づいた。 
七夕には雨が多い、と聞いたような気がするが、今日は抜けるような青空が広がっている。この分だと星もきれいに見えるだろう。 
まあ、と嬉しそうに目を見張るフランソワーズの笑顔が浮かび、足を止めかけ……たが、ジョーはそのまま和菓子店の前を通り過ぎた。もうぎりぎりの時間であることを思い出したのだ。 
  
飛行機は遅れて到着した。 
疲れた表情もなく、その辺に買い物に行ってきたような軽やかさで「ただいま!」と笑うフランソワーズに、ジョーはただ「お帰り」と言い、荷物を受け取った。 
そして、結局あの和菓子店の前でフランソワーズがあら、と足を止めたので、ジョーは 
淡い色合いの錦玉糖や小さい星の飾りがついた生菓子を買い求めることになった。 
  
「タナバタ……っていうの。お祭り?」 
「ああ。お祭りというよりは年中行事かな。笹に飾り付けをするんだ。願い事を書いたりして」 
「あ、アレね!」 
  
彼女が指さした先に、たくさんの飾りが下がった大きな竹が飾り付けてある。 
うなずくジョーを見上げ、フランソワーズはクリスマスツリーみたい、と笑った。 
  
「たしかに。僕達日本人には、区別がついてないようなところがあるかもしれない」 
「まあ。そんなことあるかしら。あなただけじゃないの、ジョー?」 
  
まさか、と思ったが、反論するほどのこともないので、ジョーはそのまま口を噤んだ。 
そういえば、七夕は中国から来た習慣と聞いたことがある。今晩は張々湖が何かそれらしい料理を用意するかもしれないな、とふと思った。 
お待たせしました、と差し出された菓子店の紙袋を受け取り、振り返ると、フランソワーズはまだ笹飾りを見つめている。 
  
「気に入った…?帰ったら願い事を書いて、笹飾り、作ってみるかい?笹なら研究所の近くから簡単にとってこれるよ」 
「ううん、いいわ……願い事はもう叶ったもの」 
  
そうだね、と言おうとして言葉をのみこむ。 
彼女の願い事が自分と同じだとは限らない。 
  
その夜、星を見ようと研究所のバルコニーに出ると、空は一面に曇っていた。 
夕方はあんなに晴れていたのに……と残念がるフランソワーズに、ジョーは言った。そのうち晴れるよ、と。 
  
今日でなくてもかまわない。 
たとえば、もうすぐ、まぶしい太陽が照りつける夏が来る。 
この空いっぱいに広がる星を君と見たいだけ見ることだってできるだろう。 
そのために特別に願うことも祈ることもいらない。 
  
僕達には、それができるんだ。 
  
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