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009的小話

誕生日
 
僕の誕生日は5月16日。
そういうことになっている。
 
そういうことになっている、ということはつまり、そう僕が決めたわけでなく、望んだわけでもない、ということ。
それに初めて気づいたのは、かなり子供の頃だった。
二度目に気づいたのは、つい最近のことだ。
 
「仲間」になったばかりの青い目の女の子が、不意に僕に尋ねた。
彼女には003とか、フランソワなんとかとか、もちろん名前はあるのだけど、その頃の僕としてはとりあえず青い目の女の子、だったし、それでコトは足りていた。
その青い目の女の子が、大きな青い目をじーっと僕に向けて、誕生日はいつかと尋ねるから、僕もつい答えてしまったのだ。
 
まあ、5月なの!素敵ね…!
 
と、彼女は本当に嬉しそうに言った。
僕はよほど不思議そうな顔をしたんだろう。
彼女はすぐに慌てたように、5月がどれほど美しい月か、と語り始めたのだ。
 
明るい日の光。
まぶしい青空。
かぐわしい風。
咲きそろう花々。
 
そう言われてみれば、日本の5月も悪い季候ではないのかもしれないが、彼女が語る彼女の故郷の……たしか、フランスだったと思う……5月は、もっともっと美しい、一年で一番すばらしい月、誰もが待ちわびる月、ということのようだった。
本当にそうなんだろうな、と聞きながら僕は思い、そうなるとそれはそれでなんだか申し訳ないような気分になってきた。
だから、言わなくてもいいことを言ってしまったのかもしれない。
僕は、彼女の話をやんわりと遮り、言ったのだ。
 
「でも、本当にその日かどうかはわかっていないんだ。ただ、施設の人にそう教わっただけでね」
 
しまった、と思ったときは遅かった。
沈黙が落ちた。
僕としては結構馴染みのある……だが、彼女との間ではそれまで経験したことのない、あの沈黙だ。
 
やってしまった、と思った。
これでいつもと同じことになる、とも思った。
後悔した。
いつかはそうなるとわかっていたはずだったのに。
 
だが、沈黙は一瞬で破れた。
彼女は、そうなの、とゆっくり言い、さらにのんびりと続けたのだ。
 
「そういえば、私もそう教わっただけだわ、誕生日って。それを信じていただけ」
 
それはそうだろう、そういう意味で言ったんじゃない、と、ちらと思った。
が、そういう意味で言ったんじゃないとすれば……僕は、どういう意味で言ったんだろう?
なんだかわからなくなった。
 
わからないのに、あの青い目が僕をじーっと見つめている。
何か言わなくてはいけないような気がしてならない。
だから、苦し紛れに言ったのだ。
 
きみの、誕生日はいつ……?
 
…と。
 
彼女は、1月24日よ、と答えた。
 
咄嗟に、どこまでも続く白い雪野原が浮かんだ。
静かで、冷たい……なんだか懐かしいような、きれいな風景だ。
 
思わず、いいなあ、とつぶやいたら、彼女は不思議そうに言った。
1月は寒くて、暗くて、いやな月よ……と。
あんまり残念そうにそう言うから、僕は思わず、そんなことはないと、かなり真剣に反論してしまった。
フランスでどうだかは知らないけれど、日本の1月はそんなに悪い月でもないはずだ。
 
そういうわけで。
僕は彼女の誕生日として、1月24日はぴったりだと思ったのだ。
そして、彼女も、5月16日は僕の誕生日にぴったりだと思ったらしい。
それでいいことになった。
なるだろう、たぶん。
 
だから、僕の誕生日は5月16日だ。
自分で覚えているわけではないけれど、彼女がそう言ったから。
 
僕は、ただそれを信じているだけで、でも、それで十分なのだ。
 
 
更新日時:
2011.05.09 Mon.
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Last updated: 2015/12/1