私は、私自身を許せない……と、君は叫んだ。
そして、僕を置き去りにして、でも戻ってきてくれた。
あの日、僕は君を確かめたんだ。
君はわかっているはずなのに。
009は、誰かを助けるためなら、003の命を犠牲にすることがいつでもできる。
できる、っていうのは「話」だけのことじゃない。僕は、実際それをやった。一度や二度のことではない。
それでもまだ君が生きているのは……そうだな、要するに運が良かったからだ。
君がしたことは、それと同じで、ただそれだけのことだった。
君にはあのとき、助けなければいけない大勢の人たちがいて、そのためには僕を撃たなければならなかった。
むしろ、いつもの僕なら撃たれるはずもなかったんだから、君がしたことは、僕がしていることに比べたら遙かにましだ。
結局僕が助かったのは運が良かっただけだと君は泣くけれど、それだって当然のことで。
でも、君はそんな自分が許せないと言う。
君は強い人だと思う。
どうしてそんなに強くなれるのか、僕にはわからない。
僕は……そうだ、僕だって、たぶん自分を許してはいない。
平然と君の命を手駒に使う009を、どうして許せるものか。
でも、僕はそれを口に出すことはできないんだ。
その009は、まぎれもなく僕なのだから。
君もあのとき自分を許せない、と叫び、僕の許から去った。
そのまま無謀な戦闘を始め、要するに命を捨てようとした……とも聞いた。
僕と同じことを考えたんだね。
いつか009が本当に003を殺してしまったら。
僕は、彼を許さないだろう。
……でも。
君は、戻ってきてくれたんだ。
僕を殺す003でありながら、それを決して許さないフランソワーズ・アルヌールとして。
僕を守るために。
いや、そうじゃない。
僕を……愛するために。
003でありながらフランソワーズでもある、引き裂かれた君。
僕に、それができるだろうか。
許さないと叫びながら、君を殺しながら、その血に染まった手で君を抱きしめることができるだろうか。
実を言うと、できないと思う。
だから、僕はせめて君を守るんだ。
幸い、僕には力がある。
003を犠牲にするという最後の手段をとらなくてすむように、009はいつも己の全てを賭ける。
そしていつか力尽きたとき、003を殺し、自らも果てるのだ。
僕はそういう風にしか生きられない。
フランソワーズ。
僕は……島村ジョーは、そんな009を許さないよ。
アイツは、僕じゃない。
だから、僕は僕の思いを君に告げることはないだろう。
忌まわしいアイツの声で、汚らわしいアイツの体で、この思いを君に伝えることはないだろう。
それなのに、君は、どうして……
いい、のかもしれない。
僕は……何も考えなくていいのかもしれない。
考えることなど、とっくにできなくなっているのかもしれない。
本当をいうと、どうでもよくなっているんだ。
島村ジョーだの、009だの、本当はどこにもいないのかもしれないのだから。
少なくとも、今の僕は、そのどちらでもない。
僕は、誰なんだろう?
わからない。
わかっているのは……でも、これが僕なんだということ。
ただ君に愛されているという実感。
それが僕だということ。
泣きたいほどの確かさで、僕は今、それだけを感じている。
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