五冊目を読み終わったとき、さすがに何か変じゃないか?とジョーは思った。
物語の舞台も、時代背景も、登場人物の境遇も、性格も違う。ストーリー展開も違う。
なのに、同じに見える。
これは、まるで……アレだ、ジェットが見ろ見ろと面白そうに押しつけてくるポルノビデオだのコミックだのみたいだ、そんなあからさまにアレな描写はあまりないけれど……と、首をかしげる。
フランソワーズの本ではないらしいから、友達にでも借りたんだろう。
こんなの、何冊も。
面白いんだろうか。
「あら、ジョー……それ、気に入った?」
「え……いや」
「ふふ、そうでしょうね……男の人にはわからない、ってよく聞くもの」
「……君は、わかるんだ?」
疑わしそうに尋ねるジョーに、フランソワーズはくすくす笑った。
「わかるわ。……これを好きじゃないって女性はあまりいないかもしれなくてよ」
「……ふうん」
ハンサムで、大富豪とか王族とか大企業のCEOとかで。
クールだったり粗暴だったり不器用だったりするけれど、実はとても優しくて純粋な男で。
おそろしく女性にもてたりもするんだけど、ヒロインだけを一途に愛する。
で、紆余曲越はいろいろあるけど、結局はハッピーエンド。
「ロマンスはロマンスよ。……現実とかけ離れているから、楽しいんじゃないかしら」
「そうかな、そうでもないんじゃないか?だって、この間だって」
ジョーは口ごもった。
フランソワーズはきょとん、としている。たぶん、ハッキリ言わないと思い出さないだろう。
でも、ハッキリなど言いたくない。
思い出すのもちょっと不愉快なことなのだ。
あの男はたしかにハンサムだったし、若き権力者でもあった。
女性に不自由しているとは思えない男だったが、むしろそれだけに、会ったことのないタイプの美女に執着したのかもしれない。
サイボーグ、なんて、たしかにめったにお目にかかれるモノではないし。
まして、その美女サイボーグは、身を投げ出して彼を守り、負傷したりしたのだ。
動かなくなった彼女を抱きかかえ「フランソワーズ!」とわめいていた彼の目は真剣だったし、おそろしく澄んでもいた。
そんなことをぼんやりと思い起こしていたジョーの額をちょっと強くつつき、フランソワーズは可愛らしく唇をとがらせるのだった。
「もう!……何を思いだしているの、ジョーったら!」
「……いや。別に」
このロマンス、とかいう小説と同じような展開になるんなら、きっとあいつはベッドも上手なんだろうな、とジョーは苦々しく思う。
ふざけるなよ、と言ってやりたい。言えばよかった。
「馬鹿馬鹿しいって、十分わかってます。でも、女の子の夢、みたいなモノなのよ。素敵な王子さまが、どんな困難も蹴散らして、私だけを愛してくれるの。もちろん、あり得ないことだから素敵に思えるんでしょうけど」
「のんきだな、君は」
「……まあ!」
意地悪ね、と拗ねるフランソワーズに、ジョーは思わず嘆息した。
余計なことを言ってしまった。
でも、つい、言わずにはいられなかったんだ。
――フランソワーズ、現実はもっと途方もないモノだったりするんだよ。
アイツは、確かにどんな困難も蹴散らして、君を連れて行こうとしていたし。
でも、その権力も財力も軍事力も、オーバーテクノロジーの粋である戦闘サイボーグの前では無力だった。
それが、現実さ。
……なんて、ね?
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