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日常的009

希望
 
君を守りたい。
君を抱いていたい。
 
二つの願いを同時にかなえることはできない。
どちらかを選ばなければならないのなら、僕が選ぶのは……
 
だから、さようならを言うつもりだったんだ。
だから、最後に君の手を握って。
 
そのときだった。
そっと握りしめた掌から、君が流れ込んだ。
比喩でなく、その小さなぬくもりから君は一瞬で僕の全身に染み通った。
 
ああ、これが答えだったんだ。
 
僕は君を見つめた。
ひどく、幸せだった。
 
 
 
意識が薄れる。
君の声が遠ざかる。
君の手が、指が、僕を離れていく。
 
でも、君は消えない。
君は僕の中にいる。
 
フランソワーズ。
 
僕は君を連れて行く。
君が何より憎んだ戦場へ。
これが最後だ。
終わりにしよう、君と僕とで。
 
そして、フランソワーズ。
 
僕も消えない。
僕は君の中にいる。
 
一緒に帰ろう。
僕たちが守った、美しい優しい世界。
ここで、いつまでも一緒に暮らそう。
 
 
 
この世界を守る。
この世界で共に生きる。
 
二つの願いを同時にかなえることはできない。
そう思っていた。
だから、さようならを言うつもりだった。
でも……
 
ごめんね。
君を連れて行くよ。
最後の戦場へ。
 
今度こそ終わりにするんだ、君と僕とで。
僕たちはそのために生まれ、出会い、生きてきたのかもしれない。
 
もうすぐ、僕たちの永い願いが叶う。
世界は生きる。
そして、その世界で僕たちはひとつになる。
 
 
 
つかの間の眠りの中で、僕はそっと君を抱きしめる。
君を確かめる。
 
大丈夫。
僕は負けない。
君がここにいてくれる限り。
 
フランソワーズ。
僕のフランソワーズ。
 
人は、人とつながることができる。
僕たちがそうであるように。
 
もう何も恐れない。
君を連れて行く。
それが、僕の最後の切り札。
 
ただ、勇気と愛と。
絶望に染まる地の果てで、無力な僕たちがかざす、ただひとつの武器。ただひとつの灯り。
それが愚かなことではないと、僕はもう知っているんだ。
 
 
僕たちは負けない。
僕たちはひとつになり、闇を払い、朝を呼ぶ。
世界を呼ぶ。
 
僕たちが、生きる世界を。
 
更新日時:
2006.10.20 Fri.
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Last updated: 2013/10/17