1
君を守りたい。
君を抱いていたい。
二つの願いを同時にかなえることはできない。
どちらかを選ばなければならないのなら、僕が選ぶのは……
だから、さようならを言うつもりだったんだ。
だから、最後に君の手を握って。
そのときだった。
そっと握りしめた掌から、君が流れ込んだ。
比喩でなく、その小さなぬくもりから君は一瞬で僕の全身に染み通った。
ああ、これが答えだったんだ。
僕は君を見つめた。
ひどく、幸せだった。
2
意識が薄れる。
君の声が遠ざかる。
君の手が、指が、僕を離れていく。
でも、君は消えない。
君は僕の中にいる。
フランソワーズ。
僕は君を連れて行く。
君が何より憎んだ戦場へ。
これが最後だ。
終わりにしよう、君と僕とで。
そして、フランソワーズ。
僕も消えない。
僕は君の中にいる。
一緒に帰ろう。
僕たちが守った、美しい優しい世界。
ここで、いつまでも一緒に暮らそう。
3
この世界を守る。
この世界で共に生きる。
二つの願いを同時にかなえることはできない。
そう思っていた。
だから、さようならを言うつもりだった。
でも……
ごめんね。
君を連れて行くよ。
最後の戦場へ。
今度こそ終わりにするんだ、君と僕とで。
僕たちはそのために生まれ、出会い、生きてきたのかもしれない。
もうすぐ、僕たちの永い願いが叶う。
世界は生きる。
そして、その世界で僕たちはひとつになる。
4
つかの間の眠りの中で、僕はそっと君を抱きしめる。
君を確かめる。
大丈夫。
僕は負けない。
君がここにいてくれる限り。
フランソワーズ。
僕のフランソワーズ。
人は、人とつながることができる。
僕たちがそうであるように。
もう何も恐れない。
君を連れて行く。
それが、僕の最後の切り札。
ただ、勇気と愛と。
絶望に染まる地の果てで、無力な僕たちがかざす、ただひとつの武器。ただひとつの灯り。
それが愚かなことではないと、僕はもう知っているんだ。
僕たちは負けない。
僕たちはひとつになり、闇を払い、朝を呼ぶ。
世界を呼ぶ。
僕たちが、生きる世界を。
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