三日前。
予定通り帰宅したドクター・ギルモアは、帰るなり、ジョーを部屋に呼んだ。
そして、それきり二人は部屋から一歩も出てこないのだった。
今日まで。
食事は山田さんが部屋の入口におくのだけど…いつも、半分ぐらいしか手をつけられていない。
さすがに、もうがまんできなかった。
私は止める山田さんを振りきって、部屋をこじあけて……見た。
ドクターはすさまじい書類の山と格闘していて…その傍らに、ジョーが座っていた。
座っていた、というか…ほとんどいすからずり落ちそうになって、居眠りしている。
あっけにとられている私の目の前で、ドクターはジョーを乱暴に揺り起こし、書類の束をおしつけていく。
…な、なんなのっ?!
考えるより先に体が動いてしまった。
私は、ジョーの前に積まれた書類の束をひっつかみ、驚いて振り向いたドクターの鼻を力一杯はたいていた。
せ…先生…?!
ジョーが目をぱっちり開けた。
どういうことです、ドクター?!この子、まさかあれから一睡もしていないんじゃ…?!
ぼ、ぼくは大丈夫だよ先生〜!慣れてるし、それに…
アナタは黙ってなさいっ!!!
ジョーを叱りつけ、私は息もつかず、ドクターを非難し続けた。
こんなひどい、卑怯なやり方ってあるかしら。
この子は、今はここで…この人を頼って暮らすしかないのよ、それを…!
涙がぐっとこみ上げ、唇を噛んだ。
体が震え、止まらない。
やがて。
ドクターがゆっくり口を開いた。
…なるほど。あんたの言い分はもっともじゃが…この子に聞いてみるがいい。これは、この子が望んでしていることなんじゃ。
なん…ですって…?!
呆然とジョーに目をやると…彼はちょっとすまなそうにうなずいた。
僕、博士の仕事好きなんだ。僕にできることって、まだ少ししかないけど…
そういう問題じゃないの!あなたたちは…コドモにはコドモらしく過ごす権利があるのよ…勉強だってしなくちゃ…
勉強になってると…思う…僕、ほんとに楽しいんだ…眠いことは眠いけど…もうすぐ終るし…
もうすぐ…って、いつ…?
ジョーはドクターをちらっとのぞいて、首を傾げた。
来週の終りくらい…かな?
何言ってるの!ダメよ、そんなの!!
でも、先生…
宿題はどうするのっ?!
…あ。
う〜む、宿題か…それはしておかないとマズイじゃろう、ジョーよ。
は、博士〜〜???
…結局。
私がジョーの代わりにドクターの手伝いをすることになった。
その間にジョーは宿題をする。
どうしてこんなことになってしまったのか、よくわからないのだけど…
ドクター・ギルモアのペースに、いつのまにかはまっていたとしか言いようがない。
夜になって。
エッカーマン先生から、週明けに山を下りるから、一緒に帰りましょう、迎えにいきますよ、と連絡があった。
ということは、あと3日。
何とかしなくちゃ。
私は、書類の山を睨んだ。
コレを片づければ、ジョーは宿題ができるってことよね。
…やってやろうじゃないの。
そのかわり、宿題、かんっぺきにやらないと承知しないわよ、ジョー!
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